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持続可能なスマートシティ実現へ 分散協調エネルギーマネジメントシステム導入の汎用評価手法を開発

ポイント

  • 持続可能なスマートシティの実現には、エネルギーマネジメントシステム(EMS)技術の効果や相互作用の影響を定量的に見積もることが必要
  • 都市規模の分散協調EMS技術の相互作用を考慮し、都市のエネルギー視点での持続可能性を定量評価するための汎用的な評価手法を開発
  • 対象都市へのエネルギーマネジメントシステム技術の導入価値の定量的な議論が可能になり、新たなシステム最適化技術の開発や技術の普及促進への貢献も期待

国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)において、早稲田大学 理工学術院の林 泰弘(はやし やすひろ)教授らは、分散協調エネルギーマネジメントシステム導入の汎用評価手法を開発しました。これは、都市に存在する家庭やオフィスビル、及びそれらに電力を供給する配電ネットワークにおいて様々な形で普及が期待される分散協調エネルギーマネジメントシステム(EMS)の技術の実装効果を多角的な観点から評価可能な都市規模分散協調EMSの汎用的な評価プラットフォームの開発です。

太陽光発電(PV)などに代表される天候に左右される再生可能エネルギーの導入が都市で広く進む中、電圧などの電力品質を維持するための電力インフラの高度化や、普及が進む蓄電池、電気自動車(EV)などの活用、さらに電力需要の能動的な管理によるエネルギー利用の効率化を実現する様々なEMSの技術が検討されています。現在開発が進むこれらの技術は長期持続可能な低炭素社会を実現する持続可能なスマートシティを構築する上で重要な役割を果たすことが期待されています。

一方で、様々な規模で多様な観点から分散的に導入されるこれらのEMS技術が都市の中で互いにどのような相互作用を及ぼすかを正確に把握することは困難で、相互作用を考慮した上で個々の技術の導入効果や適切な協調運用の方法を定量的に議論するための評価プラットフォームの開発が望まれていました。

研究グループは、実世界の個々の電力需要家の電力消費推移の特性を都市規模で反映した配電ネットワークモデルを構築し、このモデルに基づく分散協調EMS導入の汎用的な評価プラットフォームを開発しました。この評価プラットフォームは住宅、ビル、マンションなどに配電網分散的に様々なEMSが導入された時の相互協調効果を定量的に評価する目的で東京電力パワーグリッド、中部電力、関西電力が運用する配電線データに基づき開発されたものであり、スマートシティの実現において重要な役割を果たす都市規模の分散協調EMS技術の多角的評価を可能にする核心的な技術基盤となることが期待されます。

本研究は、早稲田大学スマート社会技術融合研究機構(ACROSS)、大阪大学、東京電力パワーグリッド、中部電力、関西電力、ドイツ ミュンヘン工科大学、及び米国 テネシー大学に拠点を持つ電力システム研究所CURENT注1)と共同で行ったものです。

本研究成果は、2018年3月27日に米国電気電子学会(IEEE)「Proceedings of the IEEE」のオンライン版で公開されました。

研究の背景と経緯

太陽光発電(PV)システムや燃料電池などの分散型電源、電気自動車やヒートポンプ給湯機などの可制御機器が普及していく中で、需要家が快適性や経済性を考慮して宅内機器を制御する家庭用エネルギーマネジメントシステム(HEMS)の技術開発が注目を集めています。また、天候依存で不安定な電源であるPVシステムが分散的に配電系統に大量連系される状況下で電力設備を適切に制御し安定して電力を供給するための技術開発も喫緊の課題となっており、電圧などの電力品質を維持するための電力系統におけるエネルギーマネジメントシステム(GEMS)の高度化が推進されています。このように、様々な規模で多様なEMSが混在していく状況においてシステムの導入価値や持続可能性を客観的に見積もるためには、それぞれのEMSの機能及び相互影響の評価、EMSの集合体を都市規模エネルギーシステム全体で捉えた際の導入効果を定量化し、開発されるシステム技術を多角的な観点から評価することが重要となります。

このような様々なEMS技術が都市規模で普及した際の効果や影響を評価するためには、個々の需要家の電力利用傾向の変化を考慮すると同時に、これらの需要が連系される都市規模配電系統の各地点において想定される電圧や電流の動的な挙動を細やかに把握することが必要となってきますが、従来、都市としてのエネルギーを面的に捉えることができ、需要家1軒単位の電力利用の挙動までを詳細に模擬する配電ネットワークモデルはありませんでした。

 研究の内容

本研究では、実在する配電系統の情報、衛星観測される日射量の面的分布の推移情報、実際に使用している様々な需要家の消費電力の推移情報などのデータに基づいて、任意の評価対象地域の建物用途や電力需要傾向の特性を反映した都市規模の配電系統を、各箇所に連系される需要家1軒単位の電力消費の推移まで詳細にモデリングすることで、将来の人口増減や世帯構成の変化によるエネルギー消費構造の変容、分散電源の導入状況の変化を想定した状況下で期待される分散協調EMSの導入効果を多角的に評価する手法を開発しました。任意の対象地域で想定される都市電力システムの特性を反映したモデルに基づき、電力インフラに影響を与えることが懸念される将来のシナリオに対して様々なEMS技術を実装した時に想定される、

  • 電力需要家端における電圧
  • 太陽光発電の出力抑制回避可能量
  • 需要家宅内の電気料金
  • 配電ネットワークの電流状況に応じて発生する電力の熱損失
  • 都市規模の電力収支により排出される二酸化炭素量
  • 配電線や系統設備の容量に対する設備利用量
  • 都市内でのエネルギー自給率

などの指標をシミュレーションにより算出し、対象地域に導入したEMS技術の相互作用の影響を多角的な観点から評価することを可能にします。

例えばPVやEV、及び需要家の電気使用料金の低減を目的としたHEMSが都市において大量に導入された状況下では、PVの余剰発電出力を一斉に売電しようとしても電力逆潮流に伴う局所的な電圧上昇が発生するため本来有効に活用できたはずの発電出力が抑制されてしまったり、あるいは電力価格が安価な時間帯にEVの充電を一斉に実施することで、高度な制御ロジックを実装したGEMSを導入してもある時間帯において配電線の容量に対する電流超過が避けられなくなったりといった問題が起こり得ます。本研究で開発された評価プラットフォームを用いることで、対象都市への個々のEMS技術の普及によって問題が顕在化する状況を再現し、これらの問題を解決するための種々のEMS技術の協調方法を多角的に評価しながら、対象都市の将来にわたるエネルギー・環境課題を解決していくことが可能になります。

今後の展開

EMS技術は様々な主体が様々な規模で様々な目的のために開発が進められているため、都市規模でこれらの技術が普及した時に相互作用の影響で想定していた個々の効果が発揮できなかったり、あるいは想定していなかった新たな課題が発生したりといったことが懸念されています。分散的に導入される種々のEMS技術やその協調運用の効果を都市規模で多角的に評価することが可能になることで、このようなシステム技術の価値を様々な側面から定量的に議論することが可能になり、システム技術の普及促進に貢献することが期待されます。また、長期的に持続可能な低炭素社会を目指す中で重要な役割を果たすスマートシティの実現に向けて、多角的評価結果に基づき地域特性を考慮した新しい都市規模分散協調EMS技術創出への展開が期待できます。

参考図

図1 EMS導入によるスマートシティの持続可能性評価

 実際の地理特性などを反映した詳細な配電系統モデルを構築し、都市空間における物理的な電力潮流の推移の様子をシミュレーションモデル上でバーチャルに再現することで、種々のEMS手法の効果、特に目的の異なるEMS技術が普及した際の相互作用の影響などを様々な観点から評価することでスマートシティの持続可能性を論じることが可能になる。例えば、電力価格が安価な時間帯にHEMSによって各地で大量導入されたEVの充電が一斉に実施されると、図2(a)に示すように地域で複数箇所における急激な電圧降下(電圧下限逸脱発生場所が青色で表示)や、図2(b)に示すように配電線容量に対する局地的な電流超過(赤色で電流上限超過が表示)などの問題が起こり得る。これらに対して、導入されたHEMSとGEMSが協調的に動作し、配電系統の電圧状況の共有や協調的な充電のスケジューリングなどを行うことで、図2(c)のように電圧の急激な降下は解消され(電圧逸脱がないことを緑色で表示)、図2(d)に示すように配電線の電流超過も解消される(電流超過の赤色部分が無くなる)。

図2 EVとHEMSが大量導入された都市での電圧逸脱解消と線路電流超過の解消の評価例

用語解説

  • ※1 CURENT
    米国科学財団(NSF)と米国エネルギー省(DOE)の支援で実施される電力システム分野の工学研究センター(ERC)。

掲載論文

  • 掲載誌:Proceedings of the IEEE
  • タイトル:“Versatile Modeling Platform for Cooperative Energy Management Systems in Smart Cities“(スマートシティにおける協調EMSのための汎用的な評価プラットフォーム)
  • 著者:Yasuhiro Hayashi, Yu Fujimoto, Hideo Ishii, Yuji Takenobu, Hiroshi Kikusato, Shinya Yoshizawa, Yoshiharu Amano, Shin-ichi Tanabe, Yohei Yamaguchi, Yoshiyuki Shimoda, Jun Yoshinaga, Masato Watanabe, Shunsuke Sasaki, Takeshi Koike, Hans-Arno Jacobsen, Kevin Tomsovic(林泰弘,藤本悠,石井英雄,竹延祐二,喜久里浩之,芳澤信哉,天野嘉春,田辺新一,山口容平,下田吉之,吉永淳,渡辺雅人,佐々木俊介,小池健,ハンアルノ ヤコブセン,ケビン トムソビック)

研究助成

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

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