地域特性を都市規模で捉えた配電系統モデルを国内外で公開 東電PG・中電・関電が運用する実配電線データに基づきモデル構築

10月11日、早稲田大学スマート社会技術融合研究機構(ACROSS)(機構長:林泰弘・はやしやすひろ・理工学術院教授)の研究グループは、東京電力パワーグリッド(以下、東京電力PG)、中部電力、関西電力が運用する実配電線データに基づき、地理情報を別途付与し、地域特性を都市規模で捉えた汎用的な配電系統モデルを構築し、国内外で公開しました。

近年、太陽光発電等の分散型電源の普及や、ディマンドレスポンスを含む需要制御など、需要家におけるエネルギーの消費形態が目まぐるしく変化しています。これまで各研究機関は独自の配電系統モデルを用いて開発技術を評価していましたが、これらの単一の配電系統モデルは配電系統各所の設備等に関する情報量が乏しく、用途も限られていました。そのため、公平かつ定量的に比較、評価することのできる、実データに基づく汎用性の高い配電系統モデルの構築、公開が待たれていました。

今回、本研究グループは、電力各社の実配電線情報を基に、一般家庭、コンビニエンスストア、ビルなどで実測された電力消費データから、各需要家の建物用途・電力消費カーブを推定し、実地域を模擬するような配電系統モデルの構築に成功しました。また、配電系統に地理情報を付与したことにより、雲の移動に伴う日射情報変化や、電力負荷となる電気自動車の移動などを想定した解析が可能になり、太陽光発電等により生じる課題を時空間的、多面的に解析できるようになりました。

今回構築・公開した配電系統モデルは、エネルギー管理システム(EMS)を定量的に評価するための汎用的な計算シミュレーションプラットフォームとしての役割を果たします。本モデルを国内外に公開することで、各研究機関が需要家の実態に即した大規模(都市規模)シミュレーションを同一条件で行うことが可能になります。

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論及び基盤技術の創出と融合展開」研究領域の一環で実施しました。

(1) これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

近年、太陽光発電等の分散型電源の普及や、ディマンドレスポンスを含む需要制御など、需要家におけるエネルギーの消費形態が目まぐるしく変化している。将来におけるエネルギー需給構造全体を見通し、その供給インフラへの影響を検討すること、また、供給側と電力システムの末端である需要家が協調したエネルギー管理システム(EMS)を評価・検討することは重要である。

現状、国内外において、配電線単位の評価モデルは存在するものの、詳細な負荷分布情報を持ち、かつ面的な配電系統情報を含む標準モデルは本研究グループが知る限り存在しない。それゆえ、大学、研究機関はこれまで独自の配電系統モデルで開発技術を評価していた。しかしながら、開発技術を公平かつ定量的に比較、評価するためには、実データに基づく汎用性の高い配電系統モデルを構築・公開し、誰もが使用できる環境を整える必要がある。

 (2) 今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

PV※1やEV※2などの分散型電源が大量に配電線に接続されると、天候の変化や人間行動の予測の難しさから電圧等の電力品質に与える影響が懸念され、その対策には効果的なエネルギーマネジメントシステム(EMS)を構築する必要がある。本研究グループは、実配電線の系統情報に基づいて面的に広がる大規模(都市規模)な配電系統モデルを構築し、 国内外に公開する。

これにより、分散型電源が大量に導入された時に、どのような課題が生じるか、またその課題を解決するための制御方法などのシミュレーションが可能となり、EMSの高度化に向けて有用な研究・開発の環境を提供し、当該分野の発展に大きく貢献することが期待される。

 (3) そのために新しく開発した手法

本研究グループは、東京電力PG、中部電力、関西電力が運用する実配電線データに基づき、対象配電系統の地域性や負荷の特性を模擬するような、地理情報を有する配電系統モデルの構築手法を開発した。具体的には、実配電線情報を基に、別途取得した一般家庭、ビルなどで実測された電力消費データ(BEMS計測情報※3)から、各需要家の建物用途・電力消費カーブを推定し、実地域を模擬するような配電線の選定手法・地理情報付与手法の開発を行った。構築したモデルの4つの特徴を以下に記す。

  • 実配電系統を模擬
    • 各電力会社提供の実配電線データ(設備、負荷等)を基に、実態に即した配電系統モデルを構築
  • 変電所単位での配電系統モデル化
    • 従来の配電線単位のモデルに対して、配電用変電所単位の系統モデルを構築することにより、都市を対象とした面的で広範囲な解析が可能
  • 電力需要特性の模擬
    • 需要家の負荷は、BEMS計測情報※3、NEDO群馬県太田実証※4の一般家庭の計測情報などを元に推定
    • 実在する都市の建物(コンビニエンスストア、ビル等)における電力需要特性を考慮してモデルを構築
  • 地域情報の付加
    • 配電系統に仮想で地理情報(緯度,経度)を付与したことにより、雲の移動に伴う日射情報変化や、電力負荷となる電気自動車の移動などを想定した解析が可能
    • 衛星の日射量情報を配電系統モデルに紐づけ

※今回公開したモデルにおいて、上記の電力需要特性の模擬は含まれておりません。

(4) 今回の研究で得られた結果及び知見

今回構築した都市規模の配電系統モデルのイメージを下図に示す。地理情報付きの詳細配電系統モデルを用いた解析により、太陽光発電等により生じる課題を時空間的、多面的な解析が可能となった。

図 構築した配電系統モデルのイメージ

図 構築した配電系統モデルのイメージ

(5) 研究の波及効果や社会的影響                             

実データに基づき構築した包括的な都市規模の配電系統モデルは、配電設備情報のみならず詳細な地理情報を具備しており、EMSを定量的に評価するための汎用的な計算シミュレーションプラットフォームとしての役割を果たす。上記の特徴を面的に捉えたモデルを国内外に公開することで、大学や研究機関が実態に即した大規模(都市規模)シミュレーションを同一条件で行うことが可能になる。

(6) 今後の課題

構築したモデルにおいて、人口減少に伴う需要構成の変化や省エネルギー機器普及による電力需要減を時間軸でどのように表現していくか、また、予測が難しい電気自動車の移動や充放電をどのようにモデル化するかなど、今後の課題となる。また、モデル系統の規模が大きく、より詳細に模擬するほど計算が煩雑となるため、計算速度の高速化などが今後の検討事項と考える。

(7) 100字程度の概要

地域特性を大規模(都市規模)で捉えた汎用的な配電系統モデルを国内外で公開。東京電力PG・中部電力・関西電力が運用する実配電線データを模擬し、諸研究機関が実態に即したシミュレーションを同一条件で可能に。

(8) 用語解説

  • ※1 PV (Photovoltaic Power Generation,太陽光発電)

太陽電池を用いて太陽光のエネルギーを電力に変換する発電方式。

  • ※2 EV (Electric Vehicle,電気自動車)

電動モーターで走行する自動車。電源は主に二次電池を使い、走行中に排気ガスを出さない。

  • ※3 BEMS (Building Energy Management System)計測情報

ビル内のエネルギー監理システム(BEMS)において計測された電力使用量の情報。
公開データURL : https://www.ems-opendata.jp

  • ※4 NEDO群馬県太田実証

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2002~2008年に実施した実証研究。実証試験地区の太田市では、太陽光発電システム、計測システム等を構築し、太陽光発電が配電系統に与える影響と対策について検証された。

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