エステルからエーテルをつくる 世界初・脱一酸化炭素金属触媒の開発に成功

エステルからエーテルをつくる!
世界初・脱一酸化炭素金属触媒の開発に成功

抗がん剤や抗マラリア薬など医農薬研究に新たな標準手法を提供

早稲田大学理工学術院の山口潤一郎(やまぐちじゅんいちろう)准教授らの研究グループは、独自に開発した脱一酸化炭素金属触媒により、抗がん剤や抗マラリア薬などの医農薬に頻繁にみられる「ジアリールエーテル骨格」を芳香族エステルから合成することに世界で初めて成功しました。
これまでジアリールエーテル骨格は、遷移金属触媒を使った芳香族化合物(Ar–X)とアレノール類(Ar’–OH)のクロスカップリング反応で合成されてきましたが、原料が高価であることや、廃棄物排出に関して改善すべき点があることから、新しく効率的な構築法の開発が強く望まれていました。
今回の研究では、独自で開発したニッケルもしくはパラジウム触媒を用いて、芳香族エステル(Ar–COOAr’)から一酸化炭素(CO)を取り除いて、ジアリールエーテル化合物(Ar–O–Ar’)へと導くことに成功しました。この方法により、30種類以上の芳香族エステルを、ジアリールエーテルに変換できることがわかっています。
今回の研究成果により、さまざまなジアリールエーテル化合物を安価で入手容易な芳香族エステルから合成することが可能となり、医農薬の開発研究に新たな標準手法を提供することとなります。
本研究成果は、アメリカ化学会誌『Journal of the American Chemical Society』のオンライン版に2017年2月21日に掲載されました。

20170222fig0

(1)これまでの研究で分かっていたこと

20170222fig1ベンゼン環2つが酸素原子でつながった「ジアリールエーテル骨格」は生物活性天然物や医農薬などに頻出する重要骨格です。
現在このジアリールエーテル骨格は、ほとんど、遷移金属触媒をつかった芳香族化合物(Ar–X)とアレノール類(Ar’–OH)のクロスカップリング反応で合成されています。大変信頼性の高い手法ですが、原料が高価であること、廃棄物排出の点から改善すべき点が残されています。また、従来法とは異なる合成法の開発は、医薬品などの合成手法を一新する可能性があることから、ジアリールエーテル骨格の新しく、効率的な構築法の開拓は強く望まれていました。

(2) 今回の研究で新たに実現しようとしたこと

早稲田大学の研究グループ(山口潤一郎准教授・武藤慶助教・一色遼大学部4年生)と名古屋大学の研究グループ(伊丹健一郎教授・瀧瀬瞭介博士後期課程2年)は共同で「ジアリールエーテル骨格」の新たな合成法の開発に挑戦しました。

(3)そのために新しく開発した手法

20170222fig2その方法は、芳香族エステル(Ar–COOAr’)から一酸化炭素(CO)を取り除いて、ジアリールエーテル化合物(Ar–O–Ar’)へと導くものです。大変シンプルな手法ですが、この反応の実現にはエステルから効率的に一酸化炭素を取り除く触媒(脱一酸化炭素金属触媒)が必要でした。今回、独自で開発したニッケルもしくはパラジウム触媒により、この新しい反応の実現に至りました。

(4)今回の研究で得られた結果及び知見

20170222fig3ニッケル触媒(Ni-dcypt)もしくはパラジウム触媒(Pd-dcppt)をつかうと、30種類以上の芳香族エステルを、ジアリールエーテルに変換できることがわかりました。この触媒で重要なのは配位子(金属以外の部位。dcyptとdcpptと呼ぶ)と呼ばれる部分です。この部分を変更すると反応はほとんど進行しません。独自に開発した配位子により、新しい有機合成反応の開発に成功しました。なお、配位子dcyptは近日中に試薬会社から販売予定です。

(5)研究の波及効果や社会的影響

今回開発した「脱カルボニル型エーテル合成」はこれまで主に単一の方法しか知られていなかったジアリールエーテル骨格の合成法に第二の合成法を提供することとなります。また、芳香族エステルは大変安価で入手容易な化合物群であるため、ジアリールエーテル骨格のもつ医農薬の開発研究や工業生産の手法を置き換える可能性があります。
さらに、開発した脱一酸化炭素金属触媒を利用すれば、芳香族エステルをカップリング剤とした新型クロスカップリング反応に展開できます。様々な反応剤と反応させることで新しい芳香族化合物を合成することができます。

(6)今後の課題

非常にユニークな方法ですが、いまだ使える化合物が限られていること、反応には高温を必要とすることが今後の課題です。まだ反応は見つかったばかりであるため、今後より高活性な触媒をデザイン・合成することにより、これらの課題を克服したいと考えています。

(7)100字程度の概要

早大の山口潤一郎准教授らは、エステルをエーテルに変える脱一酸化炭素触媒の開発に世界で初めて成功しました。抗がん剤や抗マラリア薬などの医農薬に重要な「ジアリールエーテル骨格」の合成に新たな標準手法を提供します。

用語解説
  • 芳香族エステル:ベンゼン環にエステル基(COOR)がついたもの。安価な安息香酸誘導体やサリチル酸などから誘導できるため、容易に入手可能。香りのある化合物が多い。
  • クロスカップリング反応:金属触媒をもちいて、有機分子をつなげる効率的な手法。2010年のノーベル化学賞「パラジウム触媒によるクロスカップリング反応の開発」にあるように、化学合成において、重要な有機反応の1つである。
  • 配位子:金属触媒の性質を変化させることができる部位。この精密な設計により、触媒効率や反応性を劇的に変化させることができる。
掲載雑誌、論文名、著者
  • 掲載雑誌:Journal of the American Chemical Society(アメリカ化学会誌)
  • 論文名:Decarbonylative Diaryl Ether Synthesis by Pd and Ni Catalysis
    (パラジウムまたはニッケル触媒を用いた脱カルボニル型ジアリールエーテル合成)
  • 著者:Ryosuke Takise, Ryota Isshiki, Kei Muto, Kenichiro Itami, and Junichiro Yamaguchi(瀧瀬瞭介、一色遼大、武藤慶、伊丹健一郎、山口潤一郎)
  • 論文公開日: 2017年2月21日 (Just Accepted Manuscripts)
  • DOI: 10.1021/jacs.7b00049
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