新しい触媒反応メカニズムを立証し、約150度の低温度下で水素生成に成功

新しい触媒反応メカニズムを立証し、
約150度の低温度下で水素生成に成功

水素製造の簡便化や自動車の総合エネルギー効率向上に大きな期待

早稲田大学理工学術院 関根泰(せきねやすし)教授(先進理工学部応用化学科)らの研究グループは、わずか150度程度の低温度において、天然ガスの主成分であるメタンと水蒸気のパラジウム(Pd)触媒を用い反応系に弱電場をかけることによって、充分に速い反応速度かつ不可逆的に水素を生成することに成功しました。本研究により、必要なときに簡便に水素を作り出すことが可能になります。

化学反応のうち、9割程度は触媒反応です。触媒は反応速度を向上させますが、反応速度は温度と活性化エネルギーに依存するため、多くの触媒反応は高温で実施されます。これまでの水素製造は、700度以上の高温下でメタンと水蒸気を反応させることで行っていました。しかし、高い耐熱性を有する材料や、高温の熱を使い切るための多段の熱交換器を用いる必要があり、高温に長時間さらすことで触媒が劣化してしまうなど、さまざまな問題があり、実用には大きな障害がありました。

本研究グループは、以前から、弱い電場中で触媒反応を行うことで、高温を必要としてきた反応が、150度~200度といった低い温度でも充分に速い速度で進行しうることを見出してきましたが、そのメカニズムはこれまでの教科書的知見では分かっていませんでした。

今回の研究では、電場の中で反応中の触媒の状態を観察することで、触媒表面に吸着した水を介して、プロトン(H+)が速やかに動き、プロトンの表面ホッピングが低温でも反応を促進していること、また、このプロトンと吸着分子との衝突が不可逆過程を生み出していることを発見し、新しい触媒反応メカニズムの立証に成功しました。

水素利用社会の到来の機運が高まる中、本研究成果は水素製造のみならず、水素や水が絡むさまざまな反応を低温化させることを可能とし、民生分野への応用も期待されます。すでに、排気ガスと燃料を低温で反応させて自動車の総合エネルギー効率向上を狙った研究を展開中です。

今回の研究成果は、英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌『Scientific Reports』に、12月1日10時(日本時間12月1日19時)に掲載されました。

掲載論文:Surface protonics promotes catalysis

(R. Manabe, S. Okada, R. Inagaki, K. Oshima, S. Ogo, Y. Sekine)

研究成果ダイジェスト

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

化学反応のうち9割程度の反応が、触媒反応である。触媒は反応速度を向上させるが、反応速度は一般には温度と活性化エネルギーに依存する。よって、多くの触媒反応は高温で実施される。

水素利用社会の到来が期待されるが、現在の水素製造は天然ガスの水蒸気改質反応により行われる。この反応式を式(1)に示す。この反応は天然ガスの主成分であるメタンと水蒸気の反応により二酸化炭素と水素を得る吸熱反応である。原料のメタンが安定な正四面体構造を有していることと、その反応速度と熱力学的な制約に鑑みて、一般的にはこの反応は700℃以上で行われる。

CH4 + 2H2O → CO2 + 4H2     (1)

こうした高温環境は様々な問題を含むことが知られる。一例として高い耐熱性を有する材料を用いてプロセスを構築する必要が有ること、高温に長時間さらすことによる触媒劣化、高温の熱を使い切るための多段の熱交換器の設置、などである。

前述のように触媒反応の速度は温度に依存し、かつ従来はLangmuir-Hinshelwood型機構(※)、あるいはRedOx機構(※※)で反応が進むものがほとんどであった。これらの反応機構を介する限り、大幅な低温化を望むことは難しかった。これまで、プラズマを併用するなどの、反応メカニズムを変える新たな取り組みも行われてきたが外部から投入するエネルギーが大きく、実用には大きな障害があった。

本研究グループは以前から、弱い電場中で触媒反応を行うことで、前述のメタン水蒸気改質のような高温を必要としてきた反応が、150℃~200℃といった低い温度でも充分に速い速度で進行しうることを見出してきた。この際に、低温側では熱力学的な平衡転化率をも上回っており、この電場中での触媒反応が非平衡な反応系であるということが想像できた。しかしながら、なぜ電場を印加すると低温で十分な速度が得られるのか、またなぜ非平衡となりうるのかは、これまでの教科書的知見では全く説明がつかない現象であった。

  • ※Langmuir-Hinshelwood型機構
    固体表面の吸着反応として最もよく知られた機構。Langmuirの吸着等温式を用いて反応物の分圧と生成物量の測定から反応速度式を求める。
  • ※※RedOx機構
    酸化還元反応に基づいた触媒反応。触媒と反応物間の電子のやりとりがある。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

今回の論文において、本研究グループは電場中での天然ガスの水蒸気改質が、低温で不可逆に速やかに進行するメカニズムを明らかにしようとした。

この結果、電場中では、表面に吸着した水を介して、プロトン(H+)が速やかに動いていること、このプロトンの表面ホッピングが低温でも反応を促進していること、またこのプロトンとの衝突が不可逆過程を生み出していること等がわかった。

これは従来の教科書的な知見では知られていなかったことである。

 

Sekine Fig ion hopping
論文中の図5から切り取った図 表面でイオンがホッピングして反応が進むイメージを表す
表面はCeO、大きな灰色の塊がPd、赤い球が水素原子あるいはプロトン(H+)、薄黄色が酸素原子、青が炭素原子を表す。電場は図のCeO表面に沿うようにかかっている。水分子は隣同士の水と緩やかに水素結合していることが知られている。H+がある水分子と結合すると元からあったO-Hが切れ隣の水にH+を渡す。これを繰り返すと図のようにH+は、水分子自身が移動しなくても、あたかもCeOの表面をバケツリレーのように非常に素早く移動することができる。H+は一方的にPdに衝突し、そこに捕まっているメタンと反応し水素分子と二酸化炭素が生成される。

(3)そのために新しく開発した手法

電場の中で活きた触媒の状態を観察するために、本研究グループは電場を印加しながら赤外光やX線を照射しうるセルを特別に作成し、これを用いて反応ガスを流し電場を印加した状態の触媒表面を生け捕りにする方法を考案し実現した。これはoperando(生け捕り)分光と呼ばれ、分析技術の世界でもホットな技術である。

併せて、同位体(HとD)を駆使した速度論的解析や、オスロ大学と共同で測定した表面インピーダンス評価などの新しい手法が、前述のような新しい反応メカニズム立証に強い証拠となってくれた。

(4)今回の研究で得られた結果及び知見

今回、わずか150℃程度といった低い温度において、天然ガスの主成分であるメタンと水蒸気からパラジウム(Pd)触媒を用い反応系に弱電場をかけることによって、充分に速い反応速度かつ不可逆的に水素を生成することに成功した。これは、今後の水素製造において、ほしいときに簡便に水素を作り出す方法として重要なものとなりうる。

また、本研究で見出した新たな反応メカニズムは一般化が可能であり、プロトンが絡むいろいろな反応を低温化させ、反応したいときだけ電場を印加する(スイッチひとつで反応が立ち上がる)ということが可能となる。これによって、民生分野などでの低温反応の可能性が大きく拡がると考えられる。

また、その際に印加する電場は、非ファラデー系と呼ばれて、一電子供給によって数十から数百の分子の反応を駆動することが出来、エネルギー効率も高い。

(5)研究の波及効果や社会的影響

前述のように、本反応は外部電場によって非ファラデー的に触媒反応を低温・不可逆に駆動しうるため、その応用範囲は広く、プロトンが絡む触媒反応であれば展開や、水素製造を含む水素が絡む反応や水が絡む反応への展開も可能と思われる。

現時点ではすでに、水素と窒素からアンモニアを創り出す反応にも本メカニズムが適用可能であることがわかっている。現在、排気ガスと燃料を低温で反応させて自動車の総合エネルギー効率の向上を狙った研究を展開中である。

本反応系は、従来の触媒反応に対して外部から電極を挿入して電場を印加するだけで実施可能であり、社会的な応用範囲は広く、今後、多様な反応への展開、多様なリアクター形状等が期待される。

(6)今後の課題

プロトン以外のイオンのホッピングの可能性についても、さらなる検討が期待される。

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