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精神遅滞原因遺伝子産物セレブロンの抗酸化ストレス・細胞保護機能を解明 精神遅滞に有効な薬剤開発に期待

早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構の澤村直哉(さわむらなおや)主任研究員(研究院准教授)と、理工学術院・朝日透教授(先進理工学研究科生命医科学専攻・先進理工学専攻)、同研究科生命医科学専攻博士後期課程1年・片岡孝介氏、同研究科生命医科学専攻修士課程修了・中村智菜氏らの研究グループは、精神遅滞原因遺伝子であるセレブロン(Cereblon、以下CRBN)が、抗酸化ストレス・細胞保護機能を持っていることを明らかにしました。

CRBNは精神遅滞を頻発する家系の解析から得られてきた遺伝子産物です。CRBNの変異の見られる精神遅滞の家系の患者では、CRBNが切断を受けることにより、CRBNの機能が喪失し、精神遅滞が発症するのではないかと考えられています。CRBNは発見当初、ミトコンドリアで働くLonプロテアーゼと呼ばれるタンパク質と高いアミノ酸相同性を示すことから、Lonプロテアーゼと同様に抗酸化ストレス・細胞保護機能を持つのではないかと考えられていました。しかし、CRBN が様々な細胞小器官に存在する多機能なタンパク質であるため、機能を検証するのは困難でした。

今回の研究では、CRBNにミトコンドリア移行シグナル (Mitochondria targeting sequence; MTS) を付加してミトコンドリアに特異的に発現させ、CRBN のLon プロテアーゼとしての機能を解析するという手法を開発し、検証を行いました。その結果、CRBN はLon プロテアーゼと同様に、抗酸化ストレス・細胞保護機能を持っている事が示唆されました。

今後、本研究によるミトコンドリアにおけるCRBNの機能解明が、精神遅滞に有効な薬剤の開発に繋がることが期待されます。また、Lonプロテアーゼは様々な外部ストレスに対して働いているストレス応答タンパク質として、その機能の低下と老化との関わりが指摘されています。ストレス応答分子としてのCRBNに着目し、CRBNをバイオマーカーとしてその濃度を計測できれば、ストレスや老化の指標になるかもしれません。

本研究は早稲田大学がサテライトとして展開している科学技術振興機構(JST)が推進するセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラム**の「さりげないセンシングと日常人間ドックで実現する理想自己と家族の絆が導くモチベーション向上社会創生拠点」で得られた研究成果です。今回の研究成果は、英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌『Scientific Reports』に、7月15日10時(日本時間7月15日18時)に掲載されました。

掲載論文:Mitochondrial cereblon functions as a Lon-type protease

  • **センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム:科学技術振興機構(JST)による公募型研究開発プログラム。現在潜在している将来社会のニーズから導き出されるあるべき社会の姿、暮らしの在り方を見据えたビジョンに基づき、企業だけでは実現できない革新的なイノベーションを創出するため、産学連携による研究開発に取り組んでいます。

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

Cereblon (CRBN) は精神遅滞を頻発する家系の解析から得られてきた遺伝子産物です。この家系の患者では知能指数が低い(IQが 50-70の範囲である)という比較的軽度の精神遅滞の症状を示す事が知られています。この家系の患者から CRBN のミスセンス変異が発見され、CRBNの後半部に停止コドンが入る事から、 CRBNが切断を受けることにより、精神遅滞が発症するのではないかと考えられています (Higgins et al. Neurology 63, 1927-1931 (2004))。

CRBN は様々な細胞小器官に存在するため、多機能なタンパク質であると考えられています。CRBNはサリドマイド結合タンパクとして同定され、E3ユビキチンリガーゼ複合体の一部として機能する事が明らかになりました(Ito et al. Science 327, 1345-1350 (2010))。我々はこの報告に基づき、CRBN の細胞質での機能に着目し、CRBNがプロテアソーム阻害によりアグリソームに蓄積し、細胞死に対する抑制効果を持つ事を明らかにしました (Sawamura et al. BBRC 464, 1054-1059 (2015))。また、最近ではCRBNが核に存在し、転写因子Ikarosに結合する事でその機能を調節する事を見出しました(Wada et al. BBRC 477, 388-394 (2016))。

CRBNは、発見当初はLonプロテアーゼと呼ばれるタンパク質と高いアミノ酸相同性を示す事から、CRBNのLonプロテアーゼとしての機能が示唆されていました(図1)。Lon プロテアーゼは、ミトコンドリア内に存在し、酸化ストレスに伴って発現量が上昇し、酸化タンパク質の減少・マイトファジーの抑制といった細胞保護機能を示すことが知られており、ミトコンドリア品質管理機構に重要な役割を果たしているタンパク質です。しかし、これまでCRBN がLon プロテアーゼと同様の機能を持つのかどうかについては、CRBN が様々な細胞小器官に存在する多機能なタンパク質であるため、解析が困難であり、不明のままでした。

 (2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

今回の研究では、神経系の培養細胞を用いてCRBNがミトコンドリアにおいてLonプロテアーゼとして機能するかどうかを検証しました。その結果、CRBNはLonプロテアーゼとしての活性を持ち、酸化ストレスに対して細胞保護機能を持つことが明らかになりました。

 (3)そのために新しく開発した手法

前述の通りCRBN は様々な細胞小器官に存在し、多機能なタンパク質であると考えられるため、通常の状態でミトコンドリアにおける機能を検証するのは困難でした。そこでCRBNにミトコンドリア移行シグナル (Mitochondria targeting sequence; MTS) を付加してミトコンドリアに特異的に発現させ、CRBN のLon プロテアーゼとしての機能を解析するという手法を開発し、検証を行いました(図1)。

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図1. ミトコンドリア特異的に発現するMTS-CRBNの模式図 CRBNは442アミノ酸から成るタンパク質であり、237アミノ酸から成るLonプロテアーゼと高い相同性を示すLon domain(81-317アミノ酸の部分)を含んでいる (MTS; Mitochondrial targeting signal, Myc; Myc tag.) 。 Scientific Reports 6, Article number: 29986, Figure No. 2a, 15 July 2016. © Macmillan Publishers Limited.

(4)今回の研究で得られた結果及び知見

CRBNを培養細胞のミトコンドリアで特異的に発現させるために、CRBN のN 末端にMTS を付加したCRBN を発現するベクター(pCMV/myc/mito-CRBN) を構築しました(図1)。このベクターをヒト神経芽細胞腫細胞SH-SY5Y にトランスフェクションし、ミトコンドリアで恒常的にMTS-CRBNを発現する細胞を確立し、ミトコンドリアでCRBN が特異的に発現している事を確認しました(図2)。このようにして確立した細胞を用いて、ミトコンドリアにおけるCRBN が、Lon プロテアーゼと同様に、プロテアーゼ活性や酸化ストレスに対する細胞保護機能を持つかを検討しました。

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図2. 神経芽細胞腫細胞SH-SY5Y細胞におけるCRBNのミトコンドリア特異的発現 左から、MTS-CRBNの染色像、ミトコンドリアのマーカーの染色像、MTS-CRBNとミトコンドリアが共局在している事を示す蛍光顕微鏡像。 Scientific Reports 6, Article number: 29986, Figure No. 2d, 15 July 2016. © Macmillan Publishers Limited.

始めに、ミトコンドリア内のCRBN がプロテアーゼとしての活性を持つかを、酵素活性測定法により検証しました。その結果、MTS-CRBN ベクターを導入したSH-SY5Y 細胞のミトコンドリアにおいて、プロテアーゼ活性の有意な上昇が認められました (図3)。また、Lon プロテアーゼは酸化ストレスに応じて発現量が上昇するという酸化ストレス応答タンパク質として知られているため、CRBNも酸化ストレスに応答しているのかを検討したところ、 CRBNの発現量は酸化ストレスによって一過的に上昇することを確認しました。さらに、酸化ストレスによって生じる細胞内タンパク質のカルボニル化を定量した結果、CRBN のミトコンドリア特異的発現によってカルボニル化タンパク質の生成が抑制されていました。最後にCRBN が酸化ストレスに対して細胞保護機能を持つことを検証したところ、ミトコンドリア特異的なCRBN の発現によって、酸化ストレスによる細胞死が抑制される事が明らかになりました (図4)。

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図3. MTS-CRBNを発現する細胞でのプロテアーゼ活性 Control及びMTS-CRBNを発現する細胞からミトコンドリア画分を分画し、FITC-casein を用いた酵素活性測定法により検証した。縦軸が酵素活性の比率を表す。MTS-CRBN ベクターを導入したSH-SY5Y 細胞のミトコンドリアにおいて、プロテアーゼ活性の有意な上昇が認められた(*p < 0.05)。 Scientific Reports 6, Article number: 29986, Figure No. 4a, 15 July 2016. © Macmillan Publishers Limited.

 

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図4. MTS-CRBNを発現する細胞における酸化ストレスに対する細胞死抑制効果 Control及びMTS-CRBNを発現する細胞に様々な濃度で過酸化水素処理し、細胞生存率を測定した。縦軸が細胞の生存率、横軸が過酸化水素(H2O2)の濃度を表す。ControlではH2O2の濃度依存的に細胞死が起こるのに対し、ミトコンドリア特異的なCRBN の発現によって酸化ストレスによる細胞死が抑制された(*p < 0.05, **p < 0.01)。 Scientific Reports 6, Article number: 29986, Figure No. 5a, 15 July 2016. © Macmillan Publishers Limited.

以上の結果から、CRBN はLon プロテアーゼと同様に、抗酸化ストレス・細胞保護機能を持っている事が示唆されました。

(5)研究の波及効果や社会的影響

精神遅滞候補遺伝子産物候補遺伝子であるCRBNのミトコンドリアにおける役割として、Lon プロテアーゼと同様に、抗酸化ストレス・細胞保護機能を持っている事が示唆されました。CRBNの変異の見られる精神遅滞の家系の患者では、CRBNが切断を受けることにより、CRBNの機能が喪失し、精神遅滞が発症するのではないかと考えられています。我々の研究より、CRBNの変異のある精神遅滞の分子メカニズムとして、CRBNのミトコンドリアにおける機能である抗酸化ストレス作用と細胞保護機能が喪失することより、発症に至るのではないかと考えられます。ミトコンドリアにおけるCRBNの機能が精神遅滞の創薬ターゲットとなり、精神遅滞に有効な薬剤の開発に繋がることが期待されます。

また、Lonプロテアーゼは酸化ストレスを始めとして様々な外部ストレスに対して働いているストレス応答タンパク質として知られており、その機能の低下と老化との関わりが指摘されています。ストレス応答分子としてのCRBNに着目し、CRBNをバイオマーカーとしてその濃度を計測できれば、ストレスや老化の指標になるのではないかとも考えられます。

(6)今後の課題

CRBNは脳(Cerebral-)における発現が高く、Lonプロテアーゼに類似するドメインを保持している事から、セレブロン(Cereblon)と名付けられました。精神遅滞の原因遺伝子産物であることからも、脳の機能を制御していると考えられます。培養細胞で得られた本研究の知見を基に、発達期における認知機能の低下に、CRBNがどのように寄与しているかを調べていく必要があると考え、ショウジョウバエやマウスのようなモデル動物を用いた研究を進めています。

(7)100字程度の概要

精神遅滞原因遺伝子産物であるセレブロンは、ミトコンドリアにおいてLon プロテアーゼと同様に、抗酸化ストレス・細胞保護機能を持っている事が明らかになりました。

 

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