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「特集 Feature」 Vol.10-2 我慢しない!快適な省エネ(全2回配信)

田辺新一(たなべしんいち)/理工学術院 創造理工学部 建築学科 教授

ゼロ・エネルギービル(ZEB)への挑戦

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2016年4月から建築物省エネ法が施行され、これに基づく省エネ性能の表示制度が始まります。また、国ではゼロ・エネルギーハウスやビルの普及に力を入れています。これらの政策にも深く関与されている理工学術院 創造理工学部 建築学科 田辺教授に、建築における省エネの将来について伺いました。

 

日本の住宅における省エネ技術は遅れている?

省エネ大国と言われる日本。確かに技術は進んでいますが、実は、住宅や建築の外皮性能は先進国と比べて決して進んでいるとは言えません。住宅の場合、基本は窓・壁・天井・床をきちんと断熱もしくは遮熱することですが、これができていない住宅が4割近くあります。穴だらけの容器に、高効率の暖房器具で温めたお湯を注ぐ様を思い浮かべてください。まずは箱の穴をふさごうよ、と思いませんか?建築物も同じです。建物の中に入れる設備、たとえば照明をLEDにしたり、省エネ性能の高いエアコンを導入したりすることはもちろん有効ですが、何よりも、建物自体の性能を上げることが重要です。

 

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図 4 日本の住宅の建築基準分布。無断熱といえる昭和55年以前の基準で建てられたものが約40%存在する
(出典:2012年国土交通省推計データ)

 

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図 5 “質実剛健”なドイツ住宅の断熱構造

 

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書では、「世界のエネルギーの32%を住宅・建築物部門が消費しており、さらに増えていく」と予測されています。一度建つと50年は持つ、逆に言うと50年間は建てた時の外皮性能が固定化(ロック・イン)されてしまうため、未来を見据えて建築技術を向上させる必要があるのです。日本国内だけを考えると、今後ますます、新築住宅や建築は減少していきます。一方で、今後20年間の経済成長の65%はアジアの非OECD国で起こるといわれており、その一つであるインドに至っては2030年に存在する建築物の70%は現在建っていない、と言われているほどです。インドや東南アジア諸国は蒸し暑い地域が多く、夏に湿度が高い日本の建築技術が貢献できる余地は大いにありますから、日本は環境性能を高める建築技術を磨き、積極的に輸出産業として育てていく必要があります。

 

車の燃費のように、建築物の環境性能を意識する

その追い風になるのでは、と期待しているのが、2016年4月に第一弾が施行される「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」です。これまでの省エネ法から建築物だけを対象として切り離した新法で、外皮性能と設備性能を総合的に評価する一次エネルギー消費量を指標として導入しています。なんだか難しいですが、自動車のように燃費性能の高さを表示しましょう、ということと、ある程度大規模な建築に関しては性能の悪いものは建てられなくなるというものです。私はこの「住宅・建築物の省エネラベリング制度検討委員会」の委員長を務めました。

 

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図 6 BELS(ガイドラインに基づく第三者認証)と基準適合認定マークの活用イメージ
(出典:国土交通省住宅局住宅生産課建築環境企画室 石坂聡氏資料)

 

建築物省エネ法では、統一的な計算方法で建築物の環境性能を評価します。従って、こういった計算の基礎を大学では良く学んでおく必要が出てきました。また、計算方法を学ぶだけではなく、その背景にあることを含めて理解することが大切です。第二弾となる2017年4月からは、2000m2以上の非住宅建築物を新築する際に、基準に達しない建築物は建てられなくなります。ヨーロッパでは、不動産取引に省エネラベルの提出が義務付けられており、同様に、日本でも環境性能と資産価値の連動性が高まれば、車の燃費のように、購入を考える誰もが気にして当たり前、という世の中になるでしょう。もちろん、実際に建物が運用されてからの消費量のデータも大切になります。

アメリカでは、省エネ性能の優れた上位25%の建築物に対してエネルギー・スターというパソコンにも付いているマークを表示する許可を出しています。公共機関は当該マークを表示しているビルにしか入居しないという方針を出している例もあります。日本でも建築デザインに環境的な合理性が求められるようになっています。

 

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図 7 フランスの不動産広告。各広告の右下に環境性能が示されている

 

ゼロ・エネルギー建築が当たり前の社会へ

さらに将来的に目指しているのは、年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロ(使うエネルギーと創るエネルギーが差引ゼロ)であるネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)、ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング(ZEB)です。すなわち、人々が快適に暮らせる化石エネルギー・フリーな社会の実現です。エネルギー基本計画でも「2020年までにZEHを標準的な新築住宅、2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」としています。日本では、2015年にZEH、ZEBの定義やロードマップが定められたことにより、特に戸建住宅に関しては、今年度約1万棟のZEHが建築されました。しかし年間総建設数80万棟に比べると、まだまだ少ない。さらに、既にZEHを売りだしている大手だけではなく、地域に根差した中小工務店もZEHに取り組むことが重要です。

 

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図 8 ZEH(住宅)の定義・評価

 

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図 9(a)  先進的なZEH の技術やZEH を活用した新たな住まい方を取り込んだモデルハウスを建築・展示する「エネマネハウス2014<コンセプト:2030年の家>」における早稲田大学の作品「Nobi-Nobi House」

エネマネハウス2014<コンセプト:2030年の家>
Nobi-Nobi House

 

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図 9(b) 同、「エネマネハウス2015<コンセプト:“エネルギー”、“ライフ”、“アジア”>」における「ワセダライブハウス」。最優秀賞を受賞した

エネマネハウス2015<コンセプト:“エネルギー”、“ライフ”、“アジア”>
ワセダライブハウス

 

ZEBは、ZEHと比べて個人の意思を反映しづらいため、ビルに入るテナント企業の環境意識の醸成が必要不可欠です。アメリカでは今、アップルコンピュータが本社をZEBとして建設中です。スタンフォード大学の新校舎もZEBとして建設されています。日本でも定義が明確になりましたので、早稲田大学でもZEB ready、nearly ZEBなどZEBに近い校舎を建設して欲しいと思っています。

 

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写真 終始、楽しそうに研究のことをお話しくださった田辺新一教授。研究室にて

 

省エネは第2の燃料:EMSで豊かに生きる

政府は2015年4月に、2030年の望ましいエネルギー・ミックス像を提示し、「省エネ17%実現の上での再生可能エネルギー20%導入」という目標を盛り込みました。実は、産業や運輸部門ではエネルギー消費量が減少している中、住宅・建築物部門は増えており、全体の1/3を占めている状況にあります。このため、省エネ17%の目標のうち半分は住宅・建築物部門が担うことになっています。かなり大変なことですが、頑張るしかないのです。

今、日本はエネルギーに対する考え方を大きく転換する時期にあります。エネルギー消費量を減らしながら、生活を豊かにしていかなければいけません。省エネは第2の燃料とも言われていますし、さらに再生可能エネルギー導入によるCO2削減も並行して進めることで、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第21回締約国会議(COP21)で日本が提案した「2030年に2013年比26%削減」という目標を達成していく必要があります。再生可能エネルギーは自然を相手にしますので、自然のゆらぎに合わせて貯めたり調節したりしながらうまく利用する、エネルギー・マネジメント・システム(EMS)が必須です。ひとつの住宅、ビルだけではなく、複数が集まるコミュニティや都市になった場合にどう融通するか、建物内にどう貯めるか、どう使って豊かに生きるか。電気・建築・機械などの分野が横断して取り組む研究は今後の新たなフロンティアになると思います。日本には「お裾(福)分け」の文化がありますから、エネルギーについてもそのような融通システムが花開くと良いですね。

 

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プロフィール

プロフィール 田辺新一(たなべしんいち)

1982年早稲田大学理工学部建築学科卒業。1984年同大学大学院博士前期課程修了。工学博士。1984-86年デンマーク工科大学暖房空調研究所研究員、1986年早稲田大学理工学部助手、1988年お茶の水女子大学家政学部専任講師、1992年同大学生活科学部助教授、1992-93年カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、1999年早稲田大学理工学部建築学科助教授、2001年同教授を経て、改編により、2007年から早稲田大学理工学術院創造理工学部建築学科教授。現在、建築設備技術者協会会長、日本建築学会副会長、東京都環境審議会会長なども務める。

 

主な業績

研究業績

著書

 

 

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