手術で使える腸に貼る癒着防止ナノ絆創膏 防衛医大、早大、名古屋大の共同研究

手術で使える腸に貼る癒着防止ナノ絆創膏
―感染があっても使える新しい癒着防止材を目指して―

防衛医科大学校の研究グループは早稲田大学と名古屋大学医学部小児外科の研究グループとの共同研究により、膜厚80nm(1nmは1mmの百万分の1)の薄膜からなるナノ絆創膏をマウスの傷付いた腸に貼ることで、腸の癒着を予防できることを世界で初めて報告しました。本研究成果は、ヨーロッパの外科系雑誌では最も権威のある英国外科学会誌 British Journal of Surgery(3月3日電子版、5月第103巻6号誌上掲載)に掲載されました。ナノ絆創膏は体に吸収されるポリ乳酸から作られており、感染を増悪させる作用もないため感染があっても使える長所が考えられ、従来有効な対策がなかった穿孔性腹膜炎時の腸癒着の予防、とくに将来ある小児での腸癒着の予防に大いに役立つと期待されます。

概要

お腹の手術をした後に時々、腸が癒着して食事が通りにくくなることがあります。このような患者さんは、手術に成功しても腸の癒着により生活の質(QOL)がひどく低下してしまいます。とくに腸に穴が開いて起こる穿孔性腹膜炎では腸の癒着が起こり易く注意が必要ですが、現在有効な治療法がありません。小児では手術後に腸が癒着し食事が困難になると成長障害が起こり、深刻な問題となることもあります。このような腸の癒着に対し、私たちはナノ厚の絆創膏を傷付いた腸に貼ることで、腸の癒着を防止することに成功しました。

ナノ絆創膏をしょう膜が欠損した小腸に貼るところ

ナノ絆創膏(中央の透明四角部分)をマウスのしょう膜が欠損した小腸に貼るところ

防衛医科大学校の研究グループは早稲田大学との共同研究で、細胞膜と同じ位の薄い膜厚80 nm (1 nmは1 mmの100万分の1)のシートを開発し、肺気胸のように肺に穴が開いた場合や大静脈が裂けて大出血した場合にこのシートを貼ることで創部が閉鎖できることを報告して来ました。この薄膜シートは接着剤なしにあらゆる臓器や組織の表面に間隙なくぴったりと貼付できる、いわば「ナノ絆創膏」で、さらに興味深いことに癒着を防ぐ働きがあることを発見しました。今回、私たちのグループに名古屋大学小児外科が加わって研究を行い、このナノ絆創膏をマウスの傷付いた腸に貼ることで腸の癒着を予防できることを世界で初めて報告しました。ナノ絆創膏は体に吸収されるポリ乳酸で作られており、感染を増悪させる作用もないため、感染があっても使える可能性が考えられ、従来有効な対策がなかった穿孔性腹膜炎時の腸癒着の予防、とくに将来ある小児での腸癒着の予防に大いに役立つと期待されます。本研究成果は、英国外科学会誌 British Journal of Surgery(3月3日電子版、5月第103巻6号誌上掲載)に掲載されました。

発表雑誌

研究の詳細

背景

お腹の手術の後に腸が癒着し、食事がうまく取れなくなることが時に起こります。腸に穴が開いて起こる穿孔性腹膜炎は緊急手術が必要となることがありますが、手術後に腸の癒着が起こり易く、このような場合、患者さんは手術が成功したにもかかわらず食事が通りにくくなり、手術後はこれに悩まされ続けることになります。とくに患者さんが成長期にある小児の場合は、この腸癒着で成長に必要な栄養が取りづらくなり、患者さんや家族、医療従事者にとって大きな問題となることもあります。

現在、手術後の癒着防止材として医療現場で盛んに使われているものは、穿孔性腹膜炎のようなお腹に感染がある患者さんでは適応がなく、感染があるお腹の手術でも使える新しい癒着防護剤が待ち望まれておりました。

私たちの使用したナノ絆創膏は、ポリ乳酸で出来ており、接着剤なしでいろいろな部位に貼ることが出来、しかも癒着を防ぐ一方で傷の治りも促進する効果があります。今回、私たちはお腹の手術において傷つけた腸にナノ絆創膏を貼ることで腸の癒着を防止することに成功しました。またナノ絆創膏には感染を増悪させる作用がなく、感染があるお腹の手術でも腸癒着防止材として使えることが示唆されました。

研究成果

私たちは細胞膜と同じ位の薄いナノ厚(1 mmの百万分の1)のシートを防衛医科大学校と早稲田大学との共同研究で開発してきました。この薄膜シートは接着剤なしにあらゆる臓器や組織の表面に間隙なくぴったりと貼付できる、いわば「ナノ絆創膏」です。このナノ絆創膏は傷付いた部位の被覆治療に使えるだけでなく、癒着防止効果と傷の治りを促進させる効果があります。今回はマウスのお腹を開き、腸に傷を付け、その上からポリ乳酸で出来たナノ絆創膏を貼りました。1週間後、無処置の傷付いた腸は全て癒着していましたが、ナノ絆創膏を貼った腸では癒着防止効果が認められました。また、私たちの癒着防止ナノ絆創膏には感染を増悪させる作用がなかったため、従来の癒着防止材には適応がなかった、「感染があるお腹の手術」の際にも私たちの癒着防止ナノ絆創膏は使える可能性が考えられ、臨床現場での高い有用性が期待されました。本研究成果は、英国外科学会誌 British Journal of Surgery(3月3日電子版、5月第103巻6号誌上掲載)に発表されました。

用語解説
  • 腸癒着 :腸の表面が傷付いたり感染があったりすることで腸が癒着すること。時に食事が通り難くなることがある。
  • 穿孔性腹膜炎:大腸や小腸に炎症や外傷で孔が開き、腸の内容物がお腹の中に広がり腹膜炎を起こすこと。
  • QOL:患者さんがどれだけ快適で幸せな生活を送れるか生活の質を表わす。Quality of Lifeの略。
  • 肺気胸:肺の表面に穴が開き、空気が胸腔内に漏れてしまうこと。
著者と所属先

檜  顕成 (防衛医科大学校病院外科、名古屋大学大学院小児外科学)
齋藤 晃広 (早稲田大学大学院先進理工学研究科生命医科学専攻)
○木下  学 (防衛医科大学校免疫微生物学講座)→連絡先責任著者
山本 順司  (防衛医科大学校外科学講座)
齋藤 大蔵 (防衛医科大学校防衛医学研究センター外傷研究部門)
武岡 真司 (早稲田大学理工学術院)
○は責任著者

 

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