“他者を理解する” 観客参加型ワークショップ&演劇公演「のがれの町~エピセンタ~」どらま館で開催

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)主催の演劇公演「のがれの町~エピセンタ~」が11月26日から29日まで早稲田小劇場どらま館で上演されました。演劇を教育の場で活かす実践として、プロの役者に交じり早稲田生8名が出演しました。自分ではない、「役という他者」を演じることを通して、他者と向き合う経験をする。演劇の「他者を理解するツール」という側面に注目し、他者になりきる過程に学びの機会を見出しています。この公演は企画・監修を務めた石野由香里助教(WAVOC)による、「演劇的手法を用いて他者の立場に立ち、社会貢献に活かす」授業と課外プロジェクトから発展しました。

舞台は2000年前のイスラエル。その時代、その場所にいたであろう人を想像し、その心情をくみ取って、自分の体を通して観客に伝えます。いま日本で生きている自分が、時代も地域も遠く離れた架空の人物になりきるにはどうすればいいのか。観客の方々に遠い世界で起きた架空の話を、より身近に現実世界や自分自身に置き換えて考えてもらうにはどうすればいいのか。本企画では、「他者と自分」、「架空と現実」の境界を超え、両者をつなぐ挑戦をしました。

舞台装置は一切ない、光と音だけのミニマムなステージ

舞台装置は一切ない、光と音だけのミニマムなステージ

他者を理解するツールとしての演劇

日頃、他者の心情や行為を理解しようとする際、頭で考えることが多く、その結果、自分よがりな他者解釈に陥りがちです。演劇は頭で考えるのではなく、体を使い、全身の神経で他者を感じ取ります。劇中、仕事が見つからず路頭にさまよっている人物を演じた学生がいました。彼女は役になるために、実際に地面に座り込んで人々の往来を眺めてみます。地面の冷たさ、人の足音のうるささ、普段とは違う感覚が孤独感や絶望感を心の中に湧きたてます。頭でどんなに想像してもたどりつけない心情を、体を動かして感じることによってつかみます。

また「石打の刑」で石を投げて人を殺す民衆の役も学生が演じました。 人を石で打って殺してしまう心理は、現代日本を生きる私たちには理解できません。しかし「石打の刑」に懐疑的であっても「石で打って殺せ」とみんなでセリフを唱えていると、そこに連帯感や安心感が自然と生まれてきます。集団で同じお題目を唱えることの心地よさや集団から抜け出して異を唱えることの難しさを疑似体験します。理解できないと思っていた心理が、実際に体を動かしセリフを言ってみることによって、他者と自分との境界を無くし、他者を自分の中に受け入れていくことが出来ます。

「石打の刑」を止める民衆たちのシーン(学生出演者たち)

「石打の刑」を止める民衆たちのシーン(学生出演者たち)

プロ顔負けの表情を見せる、舞台初出演の学生

プロ顔負けの表情を見せる、舞台初出演の学生

観客にも「他者になる」経験をしてもらう

終演後に観客の方も「他者になって世界を感じる」経験ができるワークショップを企画しました。一つ目のワークは、石打の刑に参加する人の役を演じて、処刑場面を再現してもらうものです。他者の視点から発言しながら集団の圧力を体感していただきました。このワークに参加して、「インターネットの空間において、ある対象の人に向けて言葉で攻撃することを想起した」という方がいました。観客の方にも現実社会に結びつけて、自分たちの問題として考えていただくきっかけを提供できました。

二つ目のワークは、本企画スタッフの学生が「のがれの町」を見た時に想起した現実世界のワンシーンを観客の方に再現してもらうものです。満員電車の中、障害者の周りにだけ人がいない状況を見て見ぬふりをした学生のエピソードをもとに、観客の方にそのシーンを演じてもらいました。多くの人が無関心を装う中で行動を起こすことの難しさを感じてもらいつつ、その状況の中でもこの場面を少しでもいい方向に運べる方法を考え、行動に移してもらいました。ワークショップを通じて、「のがれの町」の作品の中で起こったことは、現実世界にも起こりうるものであり、一人の人間が起こす小さな行動が周囲や社会を変える「波紋」となる可能性を提示出来ました。

観客が舞台上で演じる参加型ワークショップ

観客が舞台上で演じる参加型ワークショップ

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