「特集 Feature」 Vol.6-2 高機能薄膜材料が切り拓く未来へ(全3回配信)

高機能薄膜材料研究
逢坂哲彌(おおさかてつや)/理工学術院 ナノ・ライフ創新研究機構 教授

蓄電池がつくる「自動運転社会」

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理工学術院 ナノ・ライフ創新研究機構 逢坂哲彌教授の研究テーマは、「高機能薄膜材料の開発」。前回、世界中で開発競争が激化する大型・大容量の蓄電池において、日本の強みは高い安全性をもった大型蓄電池の開発プロセスにある、というお話を伺いました。今回は、電気自動車など自動運転社会の在り方や、街ぐるみのエネルギーコスト減の技術など、蓄電池の社会実装について、逢坂先生に教えていただきます。

 

大型蓄電池が実現する「自動運転社会」

蓄電池関連の産業は、2011年は世界全体で5兆円の市場規模ですが、経済産業省の試算によると、2020年時点で20兆円以上に成長すると見込まれています。そのうち50%のシェアを確保するのが、これからの我が国の産業の成長にとって、非常に重要になると考えています。

そこで必要なのが、これまで以上の大容量・高効率・高出力の蓄電池の開発です。リチウムイオン電池の性能を高めるには、電極の材料を工夫することが必須となります。我々の研究成果では、現在の電池の負極に使われている炭素に替えて、マイナス極に錫とシリコンの化合物を使い、プラス極に硫黄を付加することで、充放電できる量を従来の1・7倍に高めることに成功しています。さらに改良することで、将来的には約7倍に性能を高めることを目標としています。

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、電気自動車用リチウムイオン電池の性能を、現在の約2倍、電池1kgあたり300Wh(ワットアワー)に増やすことを目標としています。これは、自動車の走行距離に換算すると、一回の充電で現在の200kmから400kmまでに延びることを意味します。一度の充電で、東京から大阪まで余裕を持って走れるようになれば、電気自動車は一気に市場に普及するようになるでしょう。

電気自動車の欠点は、まだ製品が高く、導入に必要なイニシャルコストが高いことです。しかし維持費はガソリン自動車より低いため、トータルコストで見れば導入した方が安くなります。事業活動に沢山の自動車が必要な業界であれば、最初に大きなコストがかかっても、電気自動車を導入して運用したほうが、後々大きな利益を生むことになります。

 

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図:逢坂先生監修の『自動運転—ライフスタイルから電気自動車まで、すべてを変える破壊的イノベーション
(出典:日経BP社)

 

 

街ぐるみで蓄電池を活用しエネルギーコストを下げるCEMSの技術

今後、人間に替わってコンピュータによる「自動運転」が実用化され、多くの車に導入されるようになれば、車は「個人の所有」から「シェアして利用するもの」に変わって行くと予想されます。そうなったとき、自動車は「ガソリン車」からイニシャルコストは高いが総コストが低い「電気自動車」へ一気にパラダイムチェンジするはずです。アメリカのIT企業、グーグルが「グーグルマップ」や「グーグル・アース」などの地図サービスに力を入れるのも、やがて確実に到来する「自動運転社会」において、「自動車のOS」の地位を確立することを狙っているからだと考えられます。大容量の蓄電池は、電気自動車にとって最も重要な「キーテクノロジー」であり、日本の産業の未来を左右する技術であると言えるでしょう。

大容量蓄電池が切り拓く未来は、電気自動車だけではありません。埼玉県の本庄にある「早稲田エネルギーマネジメントシステム本庄研究センター」で、私たちが近い将来の実現に向けて研究を進めるのが、「コミュニティエネルギーマネジメントシステム(CEMS)」です。

CEMSとは、ある地域のなかの発電・蓄電設備と、その電気を使用する家庭やビルをネットワークでつなぎ、最適な効率で運用するシステムのことです。各家庭から電気量の需要をリアルタイムで集め、それに応じた電力量を、電力会社や大規模ソーラー発電所とも連携して、蓄電池を通じて適切に供給します。そうすることで、地域全体の電力消費を大きく削減することができ、蓄電池の効率も、各家庭に配備するよりも3倍程度高めることができると見込んでいます。

 

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図:エコタウンへの実現に向けた定置用蓄電池次世代運用システム研究開発プロジェクト(出典:逢坂研究室)

 

 

 国内トップレベルの設備を持つ早稲田大学で世界最高峰の電池を開発

このように我々は、さまざまな用途の蓄電池の開発を進めていますが、その大きな原動力となっているのが、早稲田大学120号館にある「スマートエナジーシステム・イノベーションセンター」、通称「電池ビル」です。

 

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図・写真:(左)スマートエナジーシステムイノベーションセンター概観イメージ(平成26年12月竣工)、(右)洒落たビル内スペース
(出典:早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構)

 

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写真:施設内で電池をつくっている。プロセスの説明コーナーが設けてあり、初めて訪れる人にもわかりやすい

 

リチウムイオン電池の開発では「水」が大敵ですが、早稲田大学では、日本の大学で初めて1999年にドライルームを備えた施設を設立しました。そのノウハウをもとに2014年度末に、80㎡の小規模ながら市販のものと同等の電池を製造できる設備を整えた「蓄電池ビル」を建設しました。そこでは平らな板状のパウチ型電池、家庭でよく使われる缶型の電池、小型の液晶機器に使用されることが多いボタン型電池など、各種の電池をメーカー並みの品質で作成することができます。同施設には、トヨタ、東芝、パナソニックなど電池に関係する関連企業にも入ってもらい、系列の材料メーカーとともに開発研究を進めているところです。

半導体チップの制作設備がある大学は他にもありますが、蓄電池を5Ahクラスの大容量でまるごと作れる設備があるのは、国内では早稲田大学のみになります。さらに私たちは、電池を分解することなく、製品のまま評価できる「交流インピーダンス解析」という技術を15年程前に提案しました。これはスポーツクラブに置いてある「体脂肪計」と似た仕組みで、電池に速さの異なる電気信号を入力し、その応答との差を診断することで、電池内部のどの部材が劣化したかまで測定が可能な、非常に精度の高い診断技術になります。この評価技術を武器に、国内のメーカーとも連携して、世界の市場で戦える電池を開発し、同時に、世界トップレベルの研究者を育成する仕組みをつくっていきたいと考えています。

次回は最終回です。蓄電池同様、逢坂先生のもう一つの研究の核である「半導体生体センサー」がもたらす医療の革新についてお話を伺います。

 

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プロフィール

プロフィール

1974年早稲田大学大学院理工学研究科応用化学専攻修了、工学博士取得、1976年米国ジョージタウン大学 博士研究員、1986年早稲田大学教授、現在に至る、1989年米国ミネソタ大学客員教授、1998年早稲田大学理工学研究科委員長、早稲田大学評議員、2002年早稲田大学研究推進部長、2014年早稲田大学学長代理(研究推進)、2014年早稲田大学理工学術院副学術院長 2015年早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 機構長。

学外の役職として2013年に米国電気化学会(ECS)会長を務める。エレクトロニクス実装学会会長、電気化学会会長、日本磁気学会会長など、数々の役職歴がある。近年の受賞歴として2008年文部科学大臣表彰科学技術賞(開発部門)、 2010年平成22年春 紫綬褒章(発明改良功績)、2013年大隈記念学術褒賞等、数多くの賞を受賞している。

 研究業績

Batteries & Fuel cells(バッテリー&燃料電池)

  • “New Si–O–C composite film anode materials for LIB by electrodeposition”, J. Mater. Chem. A, 2, 883 (2014)
  • “Application of Electrochemical Impedance Spectroscopy to Ferri/Ferrocyanide Redox Couple and Lithium Ion Battery Systems Using a Square Wave as Signal Input”, Electrochim. Acta, 180, 922 (2015)
  • “Development of Diagnostic Process for Commercially Available Batteries, Especially Lithium Ion Battery, by Electrochemical Impedance Spectroscopy”, J. Electrochem. Soc., 162, A2529 (2015)
  • “Impedance analysis counting reaction distribution on degradation of cathode catalyst layer in PEFCs”, J. Electrochem. Soc., 158, B1184 (2011)

Biosensors & Biomaterials (バイオセンサー& 生体材料)

  • “Attomolar detection of influenza A virus hemagglutinin human H1 and avian H5 using glycan-blotted field effect transistor biosensor”, Anal. Chem., 85, 5641 (2013)
  • “Sensitive electrical detection of human prion proteins using field effect transistor biosensor with dual-ligand binding amplification”, Biosens. Bioelectron., 67, 256 (2015)
  • “Induction of Cell Death in Mesothelioma Cells by Magnetite Nanoparticles”, ACS Biomater. Sci. Eng., 1, 632 (2015)

Magnetic recording devices & Electronic devices(磁気記録装置電子デバイス)

  • “A Soft Magnetic CoNiFe Film with High Saturation Magnetic Flux Density and Low Coercivity”, Nature, 392, 796 (1998)
  • “Injection of synthesized FePt nanoparticles in hole-patterns for bit patterned media”, J. Magn. Magn. Matter., 324, 303 (2012)
  • “Effect of Carbon Inclusion on Microstructure of Electrodeposited Au-Ni Alloy Films”, J. Electrochem. Soc., 158, D403 (2011)

 

 

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