「特集 Feature」 Vol.6-1 高機能薄膜材料が切り拓く未来へ(全3回配信)

高機能薄膜材料研究
逢坂哲彌(おおさかてつや)/理工学術院 ナノ・ライフ創新研究機構 教授

電池王国、日本が世界を救う

1

理工学術院 ナノ・ライフ創新研究機構 逢坂哲彌教授の研究テーマは、「高機能薄膜材料の開発」。電気化学ナノテクノロジーを駆使して、産業や人々の暮らしに役立つ、これまでにない材料を生み出す研究を続けています。ナノテクノロジーの「ナノ」とは、10のマイナス9乗メートルのサイズを意味します。それはほぼ分子一つ分の大きさですが、その応用分野は、電気自動車などに搭載される大容量の蓄電池、血液や人体の組織を測る医療用センサー、次世代のハードディスクドライブなど、産業・医療・IT分野の多岐にわたります。日本におけるナノテクノロジー研究において、トップレベルの水準にある早稲田大学は、産官と密接に連携しながら、どのような未来を実現しようとしているのか、改めて逢坂先生に教えていただきました。

 

世界中で開発競争が激化する大型・大容量の蓄電池

我々の研究室では、電気化学ナノテクノロジーによってさまざまな「高機能薄膜材料」を開発しています。薄膜材料とは、「めっき」のことですが、この古くからある技術が、ナノテクノロジーに大きな革新をもたらそうとしています。中でも現在、もっとも力を入れているのが、これまでにない高エネルギー密度・高出力・高機能の「蓄電池」の開発です。

蓄電池とは、電気を貯めて、必要なときにその電気を放出するための道具です。以前の蓄電池は容量が小さく、パソコンなど小型エレクトロニクス製品のエネルギー供給源にしか使われていませんでした。しかし近年、蓄電池の性能は著しく向上し、ガソリンに替わる自動車の動力源、家庭やオフィスの給湯や照明、空調等のエネルギーインフラとして、さまざまな場で実用化されるようになりました。

蓄電池の利点として、風力や太陽光など環境に与える負荷が低い発電方式で作った電気を、貯めて一気に使うことが挙げられます。東日本大震災が起こした福島第一原発の事故により、原子力発電の安全性に対する懸念が大きくなっている現在、高エネルギー密度・大出力・高効率のエネルギー源となりうる蓄電池産業は、今後ますます成長していくことが確実視されており、世界中でその開発競争が激化しているのです。

 

2改

図:蓄電池のしくみ(出典:逢坂研究室)

 

日本の強みは高い安全性をもった大型蓄電池の開発プロセスにある

日本は長年、蓄電池の技術開発において、世界のトップを走ってきました。1998年時点の世界のリチウムイオン電池市場を振り返ると、その9割以上を日本が生産しています。ところが近年、韓国や中国などのメーカーの技術力が向上し、低価格の製品が次々に開発されたことで、2013年時点になると、わずか32%にまで日本のシェアは減ってしまいました。

ただし、中国・韓国のメーカーが生産する蓄電池のほとんどは、パソコンやスマートフォンなどに使用される、エネルギー的には小型の蓄電池です。電気自動車などに使われる大型の蓄電池に関しては、依然として日本製品が7割以上の世界シェアを握っています。これから、さらに高機能の製品を開発できるかどうかで、再び日本が蓄電池の「覇者」となれるか決まるのです。

大型蓄電池の開発に注力するのは日本だけではありません。中国政府も、2010年上海万博の開催時期に合わせて蓄電池産業を支援し、それを搭載した電気自動車の普及に努めました。ところが上海万博開催後2年ほどして、中国メーカーが開発した蓄電池を載せた自動車に発火事故が多発するようになったのです。蓄電池のエネルギーおよび出力を大きくするには、電池内部のエネルギー密度と電流出力を高くする必要がありますが、それは同時に、発火や爆発の危険が高まることを意味し、中国の蓄電池の技術は、まだ安全性において十分とは言えない状況にあることがわかりました。

 

3改改

図:日本へのリチウム二次電池技術回帰の動向(出典:逢坂研究室)

 

これは日本の蓄電池の生産ラインでは「常識」ですが、ニッケル水素を原料とする蓄電池を作る工程では、家の鍵ぐらいの小さな合金でも、工場に持ち込んではいけません。それは合金に含まれる鉄や銅の金属イオンが、非常にわずかな量ですが、空気中に拡散し、それが製品に混入することで、電池の電極と結合して、発火事故の原因となるからです。日本の生産技術は、そうした空気中の重金属のイオンでさえ徹底して排除する工程を実現しています。その他にも大型蓄電池を開発するには、発火や爆発の危険性を下げるためにさまざまな安全対策をとる必要があり、その高度な生産管理プロセスを保持していることが、日本の強みなのです。日本はこれからこの強みを大いに活かしていく必要があるでしょう。

 

4改改

図:経産省「蓄電池戦略」への提言(出典:逢坂研究室)

 

次回は、大型蓄電池が実現する「自動運転社会」の未来、そして街ぐるみで蓄電池を活用しエネルギーコストを下げるCEMSの技術について、教えていただきます。

 

☞2回目配信はこちら
☞3回目配信はこちら

 

プロフィール

プロフィール

1974年早稲田大学大学院理工学研究科応用化学専攻修了、工学博士取得、1976年米国ジョージタウン大学 博士研究員、1986年早稲田大学教授、現在に至る、1989年米国ミネソタ大学客員教授、1998年早稲田大学理工学研究科委員長、早稲田大学評議員、2002年早稲田大学研究推進部長、2014年早稲田大学学長代理(研究推進)、2014年早稲田大学理工学術院副学術院長
2015年早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 機構長。

学外の役職として2013年に米国電気化学会(ECS)会長を務める。エレクトロニクス実装学会会長、電気化学会会長、日本磁気学会会長など、数々の役職歴がある。近年の受賞歴として2008年文部科学大臣表彰科学技術賞(開発部門)、 2010年平成22年春 紫綬褒章(発明改良功績)、2013年大隈記念学術褒賞等、数多くの賞を受賞している。

 研究業績

Batteries & Fuel cells(バッテリー&燃料電池)

  • “New Si–O–C composite film anode materials for LIB by electrodeposition”, J. Mater. Chem. A, 2, 883 (2014)
  • “Application of Electrochemical Impedance Spectroscopy to Ferri/Ferrocyanide Redox Couple and Lithium Ion Battery Systems Using a Square Wave as Signal Input”, Electrochim. Acta, 180, 922 (2015)
  • “Development of Diagnostic Process for Commercially Available Batteries, Especially Lithium Ion Battery, by Electrochemical Impedance Spectroscopy”, J. Electrochem. Soc., 162, A2529 (2015)
  • “Impedance analysis counting reaction distribution on degradation of cathode catalyst layer in PEFCs”, J. Electrochem. Soc., 158, B1184 (2011)

Biosensors & Biomaterials (バイオセンサー& 生体材料)

  • “Attomolar detection of influenza A virus hemagglutinin human H1 and avian H5 using glycan-blotted field effect transistor biosensor”, Anal. Chem., 85, 5641 (2013)
  • “Sensitive electrical detection of human prion proteins using field effect transistor biosensor with dual-ligand binding amplification”, Biosens. Bioelectron., 67, 256 (2015)
  • “Induction of Cell Death in Mesothelioma Cells by Magnetite Nanoparticles”, ACS Biomater. Sci. Eng., 1, 632 (2015)

Magnetic recording devices & Electronic devices(磁気記録装置電子デバイス)

  • “A Soft Magnetic CoNiFe Film with High Saturation Magnetic Flux Density and Low Coercivity”, Nature, 392, 796 (1998)
  • “Injection of synthesized FePt nanoparticles in hole-patterns for bit patterned media”, J. Magn. Magn. Matter., 324, 303 (2012)
  • “Effect of Carbon Inclusion on Microstructure of Electrodeposited Au-Ni Alloy Films”, J. Electrochem. Soc., 158, D403 (2011)

 

 

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/top/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる