テキサス大学(University of Texas, Dallas)より、経営戦略論や組織論、国際経営論の分野で多くの優れた業績をもつEric Tsang氏をお招きし、10月22日と23日の2日間に渡り研究報告会を開催いたしました。
10月22日(木)
テーマ:Foreign IPOs and Institutional Investors: The Signaling Role of a CEO’s Degree
10月23日(金)
テーマ:A Realist Perspective of Entrepreneurship: Opportunities as Propensities
主催:早稲田大学SGU実証政治経済学拠点 共催:産業経営研究所
司会:商学学術院 山野井順一准教授
初日は、米国でIPO(新規株式上場)を実施した非米国企業を対象に、最高経営責任者(CEO)の学歴がIPOでの機関投資家の参加へ与える影響に関する研究が報告されました。Eric Tsang氏の報告によれば、CEOが米国の著名な大学で学位を取得している企業はそうでない企業に比べて、平均で0.5社多くの機関投資家の参加を促すそうです。また、CEOが米国以外の著名な大学で学位を取得している企業は約0.3社多くの機関投資家の参加を促すそうです。CEOの学歴というミクロな要素がIPOでの機関投資家を引き付けていることが実証されました。
2日目は、Eric Tsang氏とStratos Ramoglou氏の共同研究が報告されました。こちらは前日とは対照的に、新たな研究アプローチを提示する論文で、研究哲学的な内容でした。まず、アントレプレナーシップ(起業家精神)の既存研究をレビューし、事業機会を発掘して事業化するとして捉えるアプローチと、事業化のプロセスを通じて事業機会が初めて創出されると捉えるアプローチに整理しました。その上で、これらのアプローチでは説明できない事象を指摘し、Eric Tsang氏らはアントレプレナーシップをリアリスト(現実主義者)として捉え、市場の需要によって事業機会の実現性が変化するというアプローチを提示しました。なお、この論文は経営学領域のトップジャーナルであるAcademy of Management Reviewに掲載される予定です。
研究報告会には本学の教員(商学学術院の坂野友昭教授、藤田誠教授、入山章栄准教授、永山晋助教ら)や経営学領域を中心に大勢の博士課程の学生が参加しました。また、学外からも多くの教員や博士課程の学生が詰めかけ、注目度の高さが伺えました。教員・学生を問わず研究内容や研究手法、背景などについて活発な意見交換が行われ、会場は大いに盛り上がりました。ある博士課程の学生は「最新の研究成果を研究者本人から聞くことができた。研究で気をつけた点や研究の裏話など、論文を読むだけでは得られないことを聞けた。このような貴重な機会に感謝したい」と話していました。
また、研究会とは別途、博士課程の学生を対象とした特別講義も実施されました。
10月19日(月)
テーマ:Why should business researchers study logic (and philosophy)?
10月20日(火)
テーマ:Organization learning and knowledge transfer
「一方的な講義ではなく、双方向の議論にしたい」というEric Tsang氏の狙いのもと、学生からも活発な発言がありました。参加した学生の1人は初日を振り返って、「研究哲学は普段勉強する機会がほとんど無いため、事前資料の論文を読むだけで大変だった。しかし、科学を一歩俯瞰した視点から考えられたのは大変参考になった」と話していました。学生らが真剣な表情で必死に聞き入る姿が印象的でした。
さらに、希望した学生を対象にEric Tsang氏からの個別指導も実施されました。主要ジャーナルのエディターも務めるEric Tsang氏からのアドバイスは、学生に新たな視点を持たせる機会になったのではないでしょうか。