国際宇宙ステーション「きぼう」搭載の 高エネルギー電子、ガンマ線観測装置(CALET)により、 世界初のテラ電子ボルト(TeV)領域の電子直接観測を開始

宇宙航空研究開発機構(JAXA)と早稲田大学は、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟 船外実験プラットフォームに設置されている「高エネルギー電子、ガンマ線観測装置(CALET)」にて、テラ電子ボルト(TeV:1兆電子ボルト)という非常に高いエネルギー領域での電子の直接観測を世界に先駆けて開始しました。

JAXA東京事務所にて観測データの説明をする鳥居祥二理工学術院教授(右)とJAXACALETプロジェクトマネージャの及川幸揮氏

JAXA東京事務所にて観測データの説明をする鳥居祥二理工学術院教授(右)とJAXA CALETプロジェクトマネージャの及川幸揮氏(左)

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図1 初期検証・データ較正作業中(10月14日)に観測されたテラ電子ボルト領域の電子(候補)イベント(粒子数換算処理したもの)

 

(図1は、CALETに搭載された検出器(カロリメータ)に入射した高エネルギー宇宙線(電子候補)が、3種類の測定装置(CHD:電荷測定器、IMC:イメージングカロリメータ、TASC:全吸収型カロリメータ)により、観測された様子を示したもの。
上方から入射した宇宙線がカロリメータ内でシャワー粒子を生成する様子を、各センサで検出した粒子数(エネルギーに比例)に基づいて、青色(低)から赤色(高)で表示されている。このような宇宙線の可視化技術により、種類(電子、ガンマ線、陽子・原子核)、到来方向、エネルギーが決定される。
左図はX方向、右図はY方向からみた画像で、両者を使って3次元的なデータ処理が可能になる。)

CALETは、最新の検出・電子技術を用いた検出器を搭載し、これまでの観測では困難であった非常に高いエネルギーの電子やガンマ線、陽子・原子核成分の高精度観測やガンマ線バースト現象の測定などが可能な観測機器です。CALETの観測を通じて、①高エネルギー宇宙線の起源と加速のメカニズム、②宇宙線が銀河内を伝わるメカニズム、 ③暗黒物質(ダークマター)の正体等の「宇宙の謎」の解明を目指しています。

CALETは、本年8月に「こうのとり」5号機で種子島宇宙センターから「きぼう」に運ばれ、船外実験プラットフォームに設置されました。その後、観測機器の初期検証作業を完了し、現在は検出データの較正・検証作業を進めています。その初期検証段階において、前ページに示すようなTeV領域の電子(候補)がすでに観測されています。

CALETの定常観測への移行はデータの較正・検証作業後となりますが、今後、2年以上に亘る高精度な観測によって、観測目的を達成する予定です。

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図2 前頁のテラ電子ボルト領域の電子(候補)イベントの源泉となった高感度(上)と低感度(下)での取得画像

CALETとは

国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟 船外実験プラットフォームに取り付けられた、宇宙空間における高エネルギー宇宙線観測ミッションです。JAXAと早稲田大学と[Sano1] の共同研究プロジェクトであり、代表研究者は鳥居祥二氏(早稲田大学 理工学術院教授)。日本の研究チームには、神奈川大学、青山学院大学、東京大学宇宙線研究所など22の研究機関が参加しています。

また、CALETの開発及び観測データ解析は、アメリカ航空宇宙局(NASA)及びイタリア宇宙機関(ASI)の協力を得て行っています。NASA(米国研究者含む)は、宇宙線観測センサの技術支援を、ASI(伊国研究者含む)は高電圧電源の提供及び宇宙線観測センサの技術支援を提供し、相互にCALETの観測データの解析協力を行います。

CALET搭載カロリメータとは

CALETには、日本・NASA・ASIの協力の下、CERN(欧州合同原子核研究機構)における予備実験等を踏まえて開発された、シャワー粒子の位置検出が可能なカロリメータを搭載しています。宇宙線がカロリメータ内部で引き起こす「シャワー粒子」の飛跡を可視化することにより、高エネルギー宇宙線を精密に測定します。

カロリメータとは、高エネルギー粒子のエネルギーを測定する装置です。原子番号の大きい物質を電子やガンマ線が通過する場合、制動放射や電子・陽電子対生成といった電磁相互作用を繰り返すことにより、粒子の多重増殖(カスケードシャワー)が発生しますが、このシャワー粒子によるエネルギー損失を測定して、入射粒子のエネルギーを決める装置をカロリメータといいます。

CALETは3層構造となっていて、一番底辺にあるTASCでは、シンチレータとして「タングステン酸鉛(PbWO4結晶)」を使用しています。宇宙線観測機器としてシンチレータが最も厚く、1TeVを超える高エネルギー領域まで他を圧倒するエネルギー決定精度と粒子選別能力を有しています。また、中層部にあるIMCで使用しているシンチレーティングファイバーは、断面が1mm角で、それぞれを独立に読み出すことで、高精度な位置分解能で、宇宙線の到来方向や、入射宇宙線の種類の判定に必要な情報が得られるようになります。

カロリメータ全体で、従来の方法では観測困難であった高エネルギー領域を探ることが可能な性能を持っています。

テラ電子ボルト(TeV)領域の観測と暗黒物質について

これまでの研究により、暗黒物質(ダークマター)は宇宙初期にできた「弱い相互作用をする重い粒子(WIMP)」である可能性が高いとされています。理論上では、WIMPは対消滅や崩壊により既知の素粒子(電子・陽電子対など)を生成し、そのエネルギーはWIMPの質量エネルギーが上限となります。このWIMPの質量は、これまでの電子・陽電子観測から数100GeV以上であることが期待されるため、暗黒物質の探索には、CALETのカロリメータによるTeV領域の電子・陽電子観測が重要となります。これほどの高エネルギー領域の電子観測ができるのはCALETが世界初となります。

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関連リンク

・CALET紹介ホームページ

http://iss.jaxa.jp/kiboexp/equipment/ef/calet/  (JAXAホームページ)

http://calet.jp  (早稲田大学ホームページ)

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