本日は名誉博士号を拝受し、誠に光栄に存じます。これは日産自動車と14万人の社員の功績を評価していただいた証だと思っております。日産自動車では、およそ1000名の早稲田大学の卒業生が活躍しております。卒業生と同様に、私も、この伝統ある、屈指の、早稲田大学との絆を大切にしていきたいと思っております。
今日、早稲田大学は、約1万人の新入生を迎えるとの事ですが、皆様の新たな門出をお祝いしたいと思います。私が大学を卒業してからもう何年も経ちますが、学生の頃の気持ちと、将来の可能性について感じた思いは、今でも覚えています。若い頃は、全てが可能に思えます。大学時代は多くのことを学べる時期です。勉強だけでなく、自分自身についても深く知る事が出来るでしょう。
勉学は大事ですが、知識を身に付ける事が全てではありません。大学は、学ぶ方法を学ぶ場所です。人と協力することを覚えること。将来の環境に適応すること、人との関わり方、時間管理、自制心を学ぶことです。また、新しいアイディアを生み出し、今、そしてこれからの人生を生きるための準備をすることです。
皆さんの将来は可能性に溢れています。
早稲田大学の校歌のなかに、「東西古今の文化の潮」という歌詞があります。ほぼ100年前につくられたそうですが、近代的で、前向きな精神に溢れています。早稲田大学の創立者は世界観の現実を認識していたようですが、これは学習する上で、とても大事なものです。境界線を取り払い、自分とは違った視点や考え方を認めてはじめて、人は成長します。
日産は、グローバルマインドの力に気づくことが出来ました。世界中の人々が、団結し、瀕死の状態にあった会社を復活に導いたのです。当社は異文化を受け入れつつ、自分のアイデンティティを守りながら、長期的な価値を創造できることを立証したのです。
皆さんの人生の節目にあたる今日の日から、早稲田大学の理想を胸に、皆さん自身の久遠の理想を求めていただきたいと思います。大学での数年間、皆さんは先生や教科書から多くの事を学ぶでしょう。ですが、経験によってのみ学べることはさらに貴重です。
皆さんが実りある大学生活を送り、この早稲田大学でそれぞれの可能性を広げ、成功されることを願っています。
カルロス・ゴーン氏 略歴
日産自動車(株)取締役社長兼最高経営責任者。すぐれた実践経営は国境を越えて有効なことを示しながら国際企業人育成にも手腕を発揮し、これを学んだ多くの日本企業の経営者に勇気を与え、日本経済の復活をもたらすうえで大きな貢献をなした。