「特集 Feature」 Vol.3-2 多様なつながりで日本はまた立ち上がる(全3回配信)

国際経済学・開発経済学研究者
戸堂 康之(とどう やすゆき)/政治経済学術院 政治経済学部 国際政治経済学科 教授

政治と経済のつながり

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世界には急速に経済発展を遂げる国もあれば、長期間にわたって経済停滞する国もあります。経済が成長するか停滞するかには、政府の政策のあり方が大きく影響します。途上国の場合には、先進国による政府開発援助(ODA)も重要な役割を果たします。しかし、政府と企業とのつながりが強すぎると成長に必要な多様なつながりが損なわれ、経済が停滞することがあると戸堂教授は考えます。国際協力や政治と経済とのつながりのあり方について、自身の研究成果を踏まえて語っていただきました。

 

途上国の経済発展における国際協力の役割

政府開発援助(ODA)によるプロジェクトがそもそも途上国の経済発展や貧困削減に本当に役立っているのかということについては広く議論されてきました。しかし、プロジェクトの効果を測るのは、一般に考えられているよりも難しいのです。

例えば、オリンピックに向けて優秀な選手を選んで強化プログラムを実施して、その選手がメダルをとったとしても、それが強化プログラムのおかげなのか、選手のもともとの力のせいなのかははっきりしません。ODAプロジェクトも同様で、潜在力の高い人だけがプロジェクトに参加していれば、プロジェクトの効果と潜在力とを切り分けるのはなかなか難しいのです。

とは言え、この2つを切り分けてプロジェクトの効果を正確に測る手法は、計量経済学によって発展してきています。その1つはマッチングといわれる手法で、プロジェクトの参加者と同じような潜在力を持った非参加者とをマッチさせ、その二者を比較することでプロジェクトの効果を測るのです。

このマッチングの手法を用いて、私自身もJICA(国際協力機構)がインドネシア製造業で行った技術協力プロジェクトが大きな効果を挙げていることを見出しました。これは、JICAプロジェクトの定量的なインパクト評価としては先駆けと言っていいものです。

 

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写真:インドネシアの技術協力プロジェクト(出典:戸堂 康之)

 

もう1つの手法は無作為化比較試験(randomized controlled trial、略してRCT)です。RCTとは、参加者と非参加者をランダムに分けることで、両者の潜在能力を平均的には合わせた上で比較することで、プロジェクトの効果を測ろうとするもので、医薬の効果分析に使われている手法です。

RCTの手法でJICAが初めてインパクト評価を行ったのが、2010年に西アフリカのブルキナファソで実施された「みんなの学校プロジェクト」です。東京大学の澤田康幸教授が主導したこのプロジェクトでは、約300校の小学校をランダムにふたつに分け、一方では住民参加型運営委員会を設立し、地域住民が積極的に学校の運営に関われるようにしました。

その結果、児童の教育に対して効果があったばかりか、地域住民の信頼関係や地域コミュニティ内のインフォーマルな金融制度の発展にも貢献したことがわかりました.

 

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写真:ブルキナファソの小学校(2枚とも)(出典:戸堂 康之)

 

ブルキナファソのような最貧国においては、市場が十分に発達しておらず、政府による法の支配も十分に行きわたっていないことが経済停滞の要因になっています。我々の研究は、コミュニティの力を強めることで市場や政府の不備を補うことが可能で、住民参加型プロジェクトに対する国際協力によってそのようなコミュニティの強化が可能であることを示したのです。

 

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写真:戸堂康之教授。研究室にて

 

経済停滞を生む政府(政治)と企業(経済)の強いつながり

目下取り組んでいる研究として、中所得国における政治と経済の相互作用に関する実証分析があります。貧困国を卒業して中程度の所得を達成した途上国で経済が停滞してなかなか先進国になれないという「中所得国の罠」が最近話題になっています。

この1つの原因は、途上国内の絆が強くなりすぎて、外国に対する排他性が増していき、多様な知識の源となるはずの多様なつながり(前回の話を参照してください)が阻害されて経済が停滞することにあると考えています。経済が停滞すると、その原因を外国に求めて保護主義が台頭し、ますます排他的になるという悪循環が生じます。そうなると、まさに「罠」にはまってしまって、そこからなかなか脱却できなくなってしまうのです。

いま、こうした排他性と経済停滞の悪循環を引き起こす1つのきっかけが、政治と企業とのつながりではないかという仮説を立て、インドネシアとベトナムで独自の調査を行って実証研究を進めています。調査では、企業のデータに加え、経営者へのインタビューで個人データを集めています。インタビューでは、経営者と政治家の個人的なつながりやグローバル化に対する意識を測るための質問をしています。

予備的な実証分析の結果、政治的なつながりが強いほど経営者の保護主義的な意識が強く、先ほど述べたような経済停滞の悪循環につながる可能性が示されています。

 

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写真:インドネシアのある県庁舎前でポーズする筆者(出典:戸堂 康之)

 

このような悪循環を打破する1つの方法は、よそ者とのつながりを構築することです。ベトナムの研究では、社会実験として中小零細企業に対して輸出振興のための研修を実施し、輸出に成功した企業や輸出振興を担う政府機関とのつながりをつくることで企業がグローバル経済に対して開放的になり、実際に輸出に踏み出すかどうかを検証しています。

この研究はまだまだ途上にあります。もともと、政策研究大学院大学の政治学者、歴史学者をも含む研究チームの中で始まったものですが、その後、私は早稲田大学政治経済学術院に転出し、日常的に優秀な政治学者とつながれる環境を得て、学際的な研究を行う基盤が整ってきています。ぜひ経済学の枠組みを超えた新しい研究をしたいと考えています。

 

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  プロフィール

6 戸堂 康之(とどう やすゆき)/政治経済学術院教授

 1991年東京大学教養学部卒業、1994年アジア経済研究所開発スクール修了、1995年スタンフォード大学Food Research Institute修士課程修了 (M.A.)、2000年同大学経済学部博士課程修了 (Ph.D.)、2000年南イリノイ大学経済学部助教授、2001年東京都立大学経済学部講師、2002年同大学同学部助教授、2005年青山学院大学国際政治経済学部助教授、2007年東京大学大学院新領域創成科学研究科国際協力学専攻准教授、2010 年同大学院同研究科国際協力学専攻教授、2012年同専攻長、2014年より早稲田大学政治経済学術院経済学研究科教授

現在、経済産業研究所ファカルティフェロー、JICA研究所客員研究員、日本貿易振興機構運営審議会委員、海外産業人材育成協会業績評価委員会委員、経済産業所産業構造審議会通商・貿易分科会委員を務める。

個人WEBサイト http://www.f.waseda.jp/yastodo/index.html

研究業績
学術論文
著書
  • 開発経済学入門,新世社,2015(近刊)
  • 日本経済の底力-臥龍が目覚めるとき-,中央公論新社,2011.
  • 途上国化する日本,日本経済新聞出版社,2010.
  • 技術伝播と経済成長-グローバル化時代の途上国経済分析-, 勁草書房, 2008.
一般向け論説・講演資料

日本経済

途上国・新興国経済

 

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