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「特集 Feature」 Vol.3-1 多様なつながりで日本はまた立ち上がる(全3回配信)

国際経済学・開発経済学研究者
戸堂 康之(とどう やすゆき)/政治経済学術院 政治経済学部 国際政治経済学科 教授

イノベ-ションを引き起こす社会・経済ネットワ-ク

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20年以上にわたって停滞している日本経済。株価は上昇しているものの、必ずしも所得レベルが上昇していない現状の中、このままでは日本は先進国の中で最下位層に落ち込んでしまうかもしれないと憂慮する研究者がいます。早稲田大学 政治経済学術院 政治経済学部 国際政治経済学科 教授、戸堂康之。これまで経済学の理論と実証研究を通して経済成長をよびこむ方策について社会に提言してきました。今回、最近の研究事例と経済学者としての理念を踏まえ、これからの日本経済について必要なことは何なのか、3回にわたってお聞きしました。

 

ネットワークと経済の相関性

私は、国際経済学や開発経済学などの枠組みで経済の成長について研究しています。特に、社会・経済ネットワークが経済の成長や発展に及ぼす影響の実証研究に注力しています。社会・経済ネットワークとは、人と人とのつながりや企業をはじめとする経済組織のつながりのことで、地域や組織内の人のつながりや、組織を越えた人のつながり、企業間のサプライチェーンなどがその例です。

これまで、日本国内はもちろん、中国、インドネシア、ベトナム、エチオピア、ブルキナファソなどの途上国でも研究を行ってきました。

 

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図:社会・経済ネットワークが経済成長・発展に及ぼす影響(出典:戸堂 康之)

 

日本を対象にした研究では、東京商工リサーチが収集した80万社間の400万の取引関係を網羅した企業データや独立行政法人経済産業研究所が収集した企業データなどを用いて統計的な実証分析を行っています。同時に、東日本大震災の被災地を含む多くの地方の企業を訪れて話をうかがい、現場での観察を組み合わせて統計的な分析結果を解釈することを心がけています。海外においても、既存のデータを利用して分析することもありますが、自分で現地に行って現場で何が行われているかを観察し、独自のデータを収集することも多いのです。

 

被災地内のつながりと被災地外のつながりと

このような国内外の実証研究で明らかになったのは、多様なネットワークが技術の進歩や企業の成長、経済の発展に寄与するということです。

私が国内の企業のサプライチェーンを調査した例では、同じ都道府県内よりも県外との取引関係、すなわち「よそ者」とのつながりがある企業のほうが、企業の業績が高いことが分かりました。都道府県ごとに優れた技術分野が異なることは、特許データを使った分析でも明らかになっていますので、他県とつながることで多様な知識を吸収することができ、企業が成長するのだと考えられます。

 

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図:被災地における企業のサプライチェーン・ネットワーク(出典:戸堂 康之)

 

一方、地域内の強い絆も必要です。東日本大震災後に被災地の企業を対象として行った調査では、被災地外の企業との取引が多い企業のほうが、被災後に操業を早く再開するという結果が出ました。反面、被災後の中期的な売上高の回復が早かったのは被災地内の企業との取引が多い企業でした。つまり、災害に対して強靭な経済を作るには、よそ者とのつながりも地域内の強い絆もあわせ持った多様なネットワークを構築することが必要なのです。

 

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写真:真摯な面持ちでお話くださる戸堂康之教授。研究室にて

 

多様なネットワークの必要性は、途上国の調査でも明らかになっています。エチオピアの農村において、新しい農業技術の普及に社会ネットワークがどのような影響を与えているかを、独自のデータを収集して行った研究を紹介しましょう。

正条植え(種をバラバラにまかずに1列に植える方法)のようにごく単純な技術は、技術を知っているよそ者である農業普及員とのつながりがあればすぐに普及していました。しかし、習得の難しい有機肥料については、自分の友人同士も友人であるような密接な強い絆があることで普及が早まることがわかりました。これは、難しい技術の普及においては、地域の強い絆を通じて新しい技術の理解を深めていく必要があるからだと思われます。ですから、多様なつながりがなければ、多様な技術の普及に対応できないのです。

 

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写真:エチオピアでの農村調査(出典:戸堂 康之)

 

このように、社会や経済の成長や発展のためには地域や組織内の強い絆とよそ者とのつながりの両方が必要であり、多様なネットワークが社会に寄与するということがわかってきています。
次回は政治的なつながりと経済活動の相互関係についてお話ししようと思います。

 

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 プロフィール

6 戸堂 康之(とどう やすゆき)/政治経済学術院教授

 1991年東京大学教養学部卒業、1994年アジア経済研究所開発スクール修了、1995年スタンフォード大学Food Research Institute修士課程修了 (M.A.)、2000年同大学経済学部博士課程修了 (Ph.D.)、2000年南イリノイ大学経済学部助教授、2001年東京都立大学経済学部講師、2002年同大学同学部助教授、2005年青山学院大学国際政治経済学部助教授、2007年東京大学大学院新領域創成科学研究科国際協力学専攻准教授、2010 年同大学院同研究科国際協力学専攻教授、2012年同専攻長、2014年より早稲田大学政治経済学術院経済学研究科教授

現在、経済産業研究所ファカルティフェロー、JICA研究所客員研究員、日本貿易振興機構運営審議会委員、海外産業人材育成協会業績評価委員会委員、経済産業所産業構造審議会通商・貿易分科会委員を務める。

個人WEBサイト http://www.f.waseda.jp/yastodo/index.html

研究業績
学術論文
著書
  • 開発経済学入門,新世社,2015(近刊)
  • 日本経済の底力-臥龍が目覚めるとき-,中央公論新社,2011.
  • 途上国化する日本,日本経済新聞出版社,2010.
  • 技術伝播と経済成長-グローバル化時代の途上国経済分析-, 勁草書房, 2008.
一般向け論説・講演資料

日本経済

途上国・新興国経済

 

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