早稲田の演劇研究と教育
早稲田大学では、坪内逍遙先生以来の演劇研究の伝統があり、様々なアプローチで研究が進められています。
3人の研究者に、研究と教育の2つの側面から早稲田演劇への思いを語っていただきました。
演劇×人類学×社会貢献 「演じる」ことで、他者の眼でものを見る
石野由香里 ボランティアセンター助教
私は俳優としての実体験から、演劇という手法を2つの側面から教育に生かしたいと考え、その手法を開発しています。一つは、演じることによって他者を理解するという側面です。日常ではしばしば、相手の気持ちが理解できないことでトラブルが起こりますが、他者を演じることによって、自分の視点や解釈が、たくさんある中のたった一つでしかないという気づきを得ることができます。もう一つは、芸術的な側面です。身体を使って動きながら他者の気持ちを想像することで、自分には無かった新しい発想が生まれます。
授業では、将来的に各々の仕事の中で課題を解決する際、多様な人々の目線に立った上で、社会に対し働きかける方法を自らの力で導き出せるような仕掛けを実践しています。それは、他者の目線に立つことが大前提となるボランティアや地域づくりに対して、演じることで「その人になってみる」というシンプルな方法です。学生たちは障がい者就労支援NPOや高齢化団地など、それぞれが関心を持った現場でフィールドワークを行い、そこで見た現実をそのまま再現します。発表の場では観客である履修生や現場の方々に演者としても参加していただき、共に現場の課題を掘り起こし、今後何をすべきかを議論します。学生たちからは「分かっているつもりで、分かっていなかったことに気付くことができた」「演じることを通して、自分のモノの見方や価値観を認識し、リセットできた」といった声が多く上がります。授業修了後に履修生達が自ら「あくと〜社会とつがる演劇プロジェクト」という団体を立ち上げ、様々な現場で活動しています。
日本の社会を牽引する立場となっていく早稲田大学の学生たちが、他者を理解する手法を獲得していけば、社会はもっと良くなると信じています。演劇は、自分の発想や限界を超えたことに出会えるもの。演劇が持つ力を多くの人に知ってほしいですね。
石野先生監修・出演の舞台&ワークショップ出演者・スタッフ募集中
ローマの支配下にあったユダヤを舞台に、人はなぜ他者を排斥し攻撃しようとするのかを問い、出演者・参加者共に解決策を探る試み。
2015年11月26日〜29日、早稲田小劇場どらま館にて。