亀裂を自己修復する金属配線 金属ナノ粒子の電界トラップを用いて実現へ

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理工学術院岩瀬准教授

早稲田大学理工学術院の岩瀬英治(いわせえいじ)准教授(基幹理工学部機械科学・航空学科)、大学院基幹理工学研究科修士1年の古志知也(こしともや)氏は、金属ナノ粒子の電界トラップを用いることで、配線上に一度クラック(亀裂)が生じた場合でも電圧印加によりクラックを自己修復する金属配線を実現しました。

本研究の成果は、フレキシブルデバイスに用いる伸縮配線や、環境の温度変化により疲労を受ける電子基板上の金属配線などに自己修復機能を付与することが社会的に期待されます。

本研究の内容は、ポルトガル エストリルで2015年1月18日~22日に開催された国際学会MEMS2015(The 28th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)で発表されました。本発表は、日本の大学・機関の発表としては唯一Outstanding Oral Paper Award Finalistsに選ばれるなど(学会全体でも選ばれたのは11件のみ)、本国際学会において高い関心を集めました。

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デバイス応用のデモンストレーション。柔軟基板(ポリイミド基板)上にチップLEDが載ったデバイスを貼り、一定電圧3Vを印加、自己修復を実行した。

発表論文: Tomoya Koshi, Eiji Iwase, “Self-healing Metal Wire using an Electric Field Trapping of Gold Nanoparticles for Flexible Devices,” Proceedings of the 28th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (MEMS2015), pp. 81-84, Estoril, Portugal, January 18-22, 2015.

亀裂を自己修復する金属配線  金属ナノ粒子の電界トラップを用いて実現へ

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

近年、フレキシブルデバイス(※用語解説参照)が盛んに研究されており、伸縮配線はその基本要素として様々な研究がなされている。しかしながらそれらの研究は、導電性材料をゴムなどに混ぜたり、金属を湾曲させた形状として伸縮性を持たせたりするなど、”材料” や “形状” に着目したものがほとんどである。 一般的に、導電性材料をゴムに混ぜたものは金属に比べると導電率が低く、また湾曲させた金属配線は繰り返し変形や過剰な変形によって断線するという問題点がある。 また、実際に配線を使用する状況において、クラック(※用語解説参照)の場所やクラックの大きさを知ることは困難であることがほとんどである。そのため、それらを知らずともクラックを修復することは非常に重要である。加えて、クラック部以外やクラックが修復した後にも “修復” が行われてしまうことは、過度の望ましくない “修復” であるため、避けるべきである。このように、クラックのあるなし、クラックの場所、大きさをヒトが知らずとも、自ら診断したように適切に修復する“自己修復”(※用語解説参照)は非常に有益な機能である。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究グループは、金属配線に 自己修復機能を付与することによって、高い導電率と高い伸縮耐性を兼ね備えた配線を実現しようと試みた。これは、伸縮配線を実現するために、従来の研究では “材料” や “形状” に着目したアプローチが試みられてきたのに対し、”機能” に着目した新たなアプローチであると言える。

(3)そのために新しく開発した手法

金属配線として厚さ100 nmの金配線、金属ナノ粒子(※用語解説参照)の分散した液体として半径20 nmの金ナノ粒子分散水溶液を用いた。まず、自己修復機能を確認するために、ガラス基板上に幅が一定のクラック(亀裂)をもつ金配線を作製した。 その構造としては、金属配線とそれを覆うように金属ナノ粒子を含む液体が配置(※図1参照)されている。クラック部(亀裂)のある金属配線に電圧を印加すると、クラック部にのみ電界が生じる。この電界により、金属ナノ粒子には、金属ナノ粒子がクラック部に引き寄せられる力(誘電泳動力)が働く。通常の状態で、金属ナノ粒子はファンデルワールス力や静電反発力を受け液中に分散しているが、電圧の印加により誘電泳動力が大きくなると、クラック部に集められる電界トラップ(※用語解説参照)現象が生じる。そのため、クラック部のみに金属ナノ粒子が集まり、集まった金属ナノ粒子によりクラック部が架橋され、金属配線が修復する。さらに一度クラックが修復してしまうと、金属配線がつながり電界が生じ なくなるため、それ以上過度な修復は行われない。前述の通り、金属ナノ粒子はファンデルワールス力や静電反発力を受け液中に分散しているため、クラック部以外の金属配線部に金属ナノ粒子が吸着することもない。

(4)今回の研究で得られた結果及び知見

今回の研究では、修復するための電圧を100 kHz、3.2 V以下の交流電圧とした場合、幅が1.3 μm(1 μmは1 mmの1000分の1)以下のクラックは自己修復できることを示した。 配線のインピーダンス(交流抵抗値)としては、クラックが生じているときには104 Ωオーダであったのに対し、自己修復後はクラックのない金配線と同じ101 Ωオーダとなった。また、電子顕微鏡(SEM)での観察により、電界トラップされた金ナノ粒子がクラック部を架橋していることを確認した。さらに、柔軟基板(シリコーンゴム基板)上での配線の自己修復も、ガラス基板上と同様に可能であることを確認(※図2参照)した。

(5)研究の波及効果や社会的影響

本研究の成果は、高い導電率を有する金属配線に、高い伸縮耐性を持たせることができるという点で大きな利点を有する。例えば、フレキシブルデバイスに用いる湾曲した金属配線に自己修復機能を持たせるという利用が可能となる。 また、フレキシブルデバイスのみならず、通常の電子機器においてもこの自己修復機能は有用性が期待される。具体的には、外気温の変化および基板と配線の熱膨張率の差により、電子機器内の基板上の金属配線は伸縮変形をするため、長時間の使用において配線にクラックが生じるという問題がある。しかし本研究の自己修復機能はこれらの問題も解決することができるようになる。このように本研究の社会的な効果や適用範囲は非常に広いといえる。なお、本研究成果は、早稲田大学より特許出願済みである。

(6)今後の課題

現在、さらに大きなクラック幅の修復の実現や、さらに高い自己修復機能を目指して改良を行っている。 また、現状の構成では液体の封止が必要となるが、液体の封止が構造上、製造上問題になることも考えられるため、金属ナノ粒子をゲル中に分散させた構成での自己修復機能の研究を試みている。

用語解説

  • 金属ナノ粒子: 粒径(サイズ)が数nm~数百nmの金属の微小な粒子
  • 電界トラップ: 電極の間に生じる電界によって電極の周りにある粒子が、電極間に引き寄せられる現象のこと。このとき、粒子は電界から誘電泳動力と呼ばれる力を受けている。
  • クラック(亀裂): ここでは、金属配線に関して、力による変形や熱変形によって金属配線に生じたひび割れ・亀裂のことを指している。
  • 自己修復: 広く言えば、「不具合の場所や状況を調べずとも不具合部のみを選択的に修復し、かつ過度の修復を行わないこと」である。今回の場合では、「クラックの生じた電気配線に電圧印加するだけで、クラックの場所や大きさを知らずともクラック部のみを選択的に修復し、かつ過度の修復を行わない」という特徴を指している。
  • フレキシブルデバイス: 曲げたり、伸ばしたりすることができるシート状の電子機器。最近では、曲げられるディスプレイや太陽電池、照明、センサーシートなどのフレキシブルデバイスが研究されている。一方で、伸ばせるフレキシブルデバイスの例はまだ少ない。

説明図

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図1:金属ナノ粒子の電界トラップによる金属配線修復の原理

構造としては、金属配線とそれを覆うように金属ナノ粒子を含む液体が配置されている。 金属配線に電圧を印加すると、クラック(亀裂)部にのみ電界が生じる。この電界により金属ナノ粒子がクラック部に引き寄せられる電界トラップ現象を利用することにより、クラック部のみが金属ナノ粒子によって修復する。一度クラックが修復してしまうと、金属配線がつながり電界が生じなくなるため、それ以上過度な修復は行われない。

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図2:金配線上のクラックを金ナノ粒子(半径20 nm)により自己修復した様子

金の配線上に、幅270 nmのクラック(亀裂)を人工的に作製し、そのクラックの自己修復を行っている。

早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部 機械科学・航空学科 岩瀬研究室

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