見えなかった指紋が浮かぶ新装置 理工・宗田研、科警研などと開発

現場の物証を非破壊・非接触で回収する最新鋭システム
ハイパー・フォレンシック・イメージャー
安全・安心な社会を支える革新的な指掌紋検出装置

image4理工学術院・宗田孝之教授(先進理工学部)は、JFEテクノリサーチ㈱と科学警察研究所との共同研究で、建物の壁や、公共交通機関などの切符の磁気面などからの指掌紋検出、また重なった指掌紋の分離検出を可能とする、光スペクトル計測技術を応用した装置「ハイパー・フォレンシック・イメージャー」を開発しました。本装置は、現場に残されたヒト由来成分、すなわち指掌紋や体液等に含まれる脂肪やたんぱく質(アミノ酸)を非破壊かつ非接触に分析することが可能であり、またスーツケース程度にコンパクトに収納できるため可搬性にも優れています。 DNA型鑑定精度が飛躍的に向上した現在でも、「万人不同、終生不変」の指掌紋は、様々な犯罪・事故現場において被疑者等の特定につながる有力な現場鑑識資料となっています。本装置は鑑識能力の質を高め、被疑者特定・検挙に大いに威力を発揮する可能性があり、ひいては犯罪者に対する抑止力という波及効果をもたらし、安全・安心な社会の実現に資することが見込まれます。また、多数の犠牲者が出る自然災害でも、本装置にさらなる改良を加えれば遺体の指紋を正確に撮像し二次元展開することができ、指紋による身元確認時間を著しく短縮できると推測されます。さらに潜在指掌紋が発する蛍光スペクトルから、印象時期を特定できる可能性も秘めており、今後の挑戦課題といえます。 本装置は2014年10月末より、科学警察研究所などとの合同実証実験を開始しています。

問合せ先:理工学術院・宗田孝之教授(tkyksota◆waseda.jp)

※◆を@に変更して送信してください。

※本成果は、文部科学省の平成23年度に採択された社会システム改革と研究開発の一体的推進による「安全・安心な社会のための犯罪・テロ対策技術等を実用化するプログラム」の一環として、得られたものです。

鑑識能力高める「ハイパー・フォレンシック・イメージャー」

(1)これまでの研究で分かっていたこと

裁判員制度の発足に伴い、さまざまな犯罪、事故現場において被疑者等の特定につながる人間の目では確認できない証拠物の付着状況や形を画像によって分かり易く表現する意味合いは大きく、立証上ますます有効な手段となってきています。 指掌紋は「万人不同、終生不変」であり、DNA型鑑定精度が飛躍的に向上した現在でも被疑者特定のための有力な現場鑑識資料となっています。従来の指掌紋顕在化法(粉末法、液体法、気体法など)の欠点は、たとえば、どの方法も侵襲的であること、裏面が磁気記録媒体となっている切符、フォトペーパーからの指掌紋検出作業が難しいこと、重なった指掌紋は分離不可能なため活用困難な場合が多いことなどが挙げられます。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

光スペクトル計測技術により、従来法を駆使しても顕在化できなかった、現場に残されたヒト由来成分、すなわち指掌紋や体液等に含まれる脂肪やたんぱく質(アミノ酸)を、非破壊かつ非接触に漏れなく顕在化して同定検出し、かつ現場への可搬性に優れたスペクトルイメージング装置を研究開発し実用化したことです。

(3)そのために新しく開発した手法

宇宙から地球を探査するために開発されたリモートセンシング技術の一つであるハイパースペクトル・イメージング技術を応用しました。この技術が、現場に残されたヒト由来成分に特徴的な光吸収スペクトルや蛍光スペクトルなどとその2次元位置情報からなる膨大なハイパースペクトルデータ(HSD)を短時間で計測可能としています。この技術と計測対象からの距離を計測する技術の組み合わせが、潜在する指掌紋を二次元展開かつ等倍とした画像を作成することを可能とし、結果として、我が国が世界に誇る指掌紋データベースと比較することも可能にします。

(4)今回の研究で得られた結果及び知見

開発した可視域対応のハイパー・フォレンシック・イメージャーを図1に示します。コンパクトな収納性による優れた可搬性を実現しています。 警察庁科学警察研究所との実験室レベルでの実証試験の結果、ポータブルサイズの高出力グリーンレーザーとその励起光をカットするオレンジ色カラーフィルターを装着した本装置の組み合わせが、従来法を駆使しても顕在化できなった潜在指紋を顕在化、検出する高い潜在能力を秘めていることが分かってきました。図2は、ヒトの目では検知できない(a)壁に潜在する掌紋および(b)切符磁気面に潜在する指紋を、グリーンレーザー励起時の蛍光スペクトルHSDによって画像化できた例を示しています。 また、蛍光スペクトルHSDを用いることで、重なっている2つの指掌紋を高い成功率(現状で70%を達成)でデータベースと照合可能な精度を保って個々の指掌紋に分離できることを明らかにしました。一例を図3に示します。そこには、グリーンレーザー励起下で、重なった掌紋と指紋を(a)一眼レフカラーCCDカメラで撮影した画像と(b)蛍光スペクトルHSDから再構成した画像、そのHSDに基づいて分離に成功した(c)指紋画像と(d)掌紋画像、画像(b)の中に示した指紋(緑四角)と掌紋(赤四角)の典型的な(e)蛍光スペクトルが示されています。ここで、掌紋はいつ印象されたかわからないほど古く、一方、新しい指紋の印象時期は特定できています。計測から潜在指掌紋画像提示まで、操作性に優れたインターフェイスの開発により極めて簡単に行うことができることも、特筆すべき本装置の特徴の一つです。

(5)研究の波及効果や社会的影響

非侵襲・非接触的な潜在指掌紋顕在化・検出のみならずこれまで十分に活用しきれずにいた重畳指掌紋についても個々の指掌紋を分離可能にするなど、従来法の概念を超える機能を有する本装置は、鑑識現場に投入されるや否や鑑識能力の質を高め、被疑者特定、検挙に大いにその威力を発揮する可能性があります。したがって、本装置の実用化は、犯罪者に対する抑止力という波及効果をもたらし、安全・安心な社会の実現に資するところ大と考えられます。 多数の犠牲者が出るような自然災害等が発生した場合、指紋による身元確認が不可欠となります。今回開発した装置にさらなる改良を加えれば遺体の指紋を正確に撮像し二次元展開することができると期待されます。また、セキュリティーを確保した伝送装置によって現場からデータ送信できればデータベースとの照会を瞬時に行うことが可能となります。この方法を実現すれば、従来身元を判明させるのに要していた時間を著しく短縮できると期待されます。

(6)今後の課題

図1 開発した可視域対応のハイパー・フォレンシック・イメージャー

図1 開発した可視域対応のハイパー・フォレンシック・イメージャー

図1に示した可視域対応の実証機開発に当たり、可搬性や使い勝手についてさまざまな県警鑑識課員からのユーザー評価をフィードバックしました。今は、科学警察研究所などとの合同実証試験において、本装置の有用性を検証することはもとよりさらなる改良すべき点を洗い出し、鑑識課員だれもが手軽に使える装置とすべく改善を続けています。

図2 グリーンレーザー励起時の蛍光スペクトル画像 肉眼では検知不能な(a)壁に潜在する掌紋画像、(b)切符磁気面に潜在する指紋画像

図2 グリーンレーザー励起時の蛍光スペクトル画像 肉眼では検知不能な(a)壁に潜在する掌紋画像、(b)切符磁気面に潜在する指紋画像

図3 壁に潜在する重複した指紋と掌紋の分離に成功した例 グリーンレーザーが励起光源に用いられた。重複した指掌紋の(a)蛍光カラー画像と(b)蛍光スペクトル画像。分離に成功した(c)指紋画像と(d)掌紋画像。(e)典型的な指紋部(緑)と掌紋部(赤)の蛍光スペクトル

図3 壁に潜在する重複した指紋と掌紋の分離に成功した例 グリーンレーザーが励起光源に用いられた。重複した指掌紋の(a)蛍光カラー画像と(b)蛍光スペクトル画像。分離に成功した(c)指紋画像と(d)掌紋画像。(e)典型的な指紋部(緑)と掌紋部(赤)の蛍光スペクトル

さらに、蛍光スペクトルHSDから、潜在指掌紋が発する蛍光スペクトルは印象時からの時間経過とともに変化することを見出しています。このことは、原理的には、蛍光スペクトルからそれを発する潜在指掌紋の印象時期を特定できることを示唆しています。この問題には挑戦する価値があると考えています。 同時に開発を進めている近赤外域対応のハイパー・フォレンシック・イメージャーについても上記合同実証試験を通してその性能と改善すべき点を明らかにしていく予定です。 背景からの反射光や蛍光によって潜在する指掌紋等の特徴的なスペクトルが計測不能になる場合、ハイパー・フォレンシック・イメージャーでは潜在指掌紋を顕在化、検出することはできません。そのような時は、共同研究している科学警察研究所とJFEテクノリサーチ㈱が中心となって開発中の潜在指掌紋からの蛍光と背景からの蛍光を分離して計測できる時間分解蛍光分光イメージング装置や潜在指掌紋に特有な物質の分子振動を計測できるコヒーレント・アンチストークス・ラマン分光イメージング装置などの出番となります。これら装置と本装置がお互いに相補的な役割を担って一つのシステムとして完成させることが、今後の課題と言えます。

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