2014年度 大学院入学式 式辞

2014年度 大学院入学式 式辞

総長式辞(2014.03)

鎌田薫総長

皆さん、ご入学おめでとうございます。
早稲田大学を代表いたしまして、新入生の皆様およびご家族・ご関係者の皆様に、心よりお祝いを申し上げます。

このたび晴れて早稲田大学大学院に入学されたのは、修士課程2,114名、専門職学位課程644名、博士後期課程367名、合計3,125名に上ります。
国内はもとより、世界のさまざまな地域から選りすぐられた、研究心に燃える精鋭を数多くお迎えできたことは、本学にとっても大きな喜びであり、また、大いに誇りとするところでもあります。

近年、本学における大学院進学者は急速に増加して参りましたが、本年4月入学者は、昨年4月入学者に比べて、修士課程は17研究科合計で193名、専門職学位課程は6研究科合計で94名、それぞれ減少し、博士後期課程は17研究科合計で26名増加しています。
なお、昨年9月には、修士課程・専門職学位課程合わせて455名、博士後期課程105名の院生が入学しており、2012年9月入学者に比べて54名増と1割以上増加しています。

専門職学位課程の入学者が対前年比で12.7%減少していることが気になりますが、これは法科大学院を初めとする専門職大学院の先行きが不透明であることに起因するものと思われ、修士課程・博士後期課程についてみれば、大学院進学者の増加傾向に大きな変化が生じたわけではないと考えます。
このように大学院進学者が急速に増加してきた背景には、今日の社会が、政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として、新しい知識・情報・技術が飛躍的に重要性を増している高度の知識基盤社会となっており、個人の人格形成の上でも、社会・経済・文化の発展・振興や国際競争力の確保等の国家戦略の上においても、高度な能力の育成とイノベーション創出の拠点としての大学院が極めて重要な役割を果たすようになってきているという事情が存在しています。

しかしながら、わが国の博士学位・修士学位取得者数は、諸外国と比較すると、人口10万にあたりの修士号取得者は英国の5分の1、博士号取得者でも半分以下であり、特に企業の研究者に占める博士号取得者の割合では、オーストリアやベルギーの4分の1に止まり、台湾やトルコの後塵を拝していますし、わが国においては、社会人がより高度な専門的能力を涵養するための学び直しの機会も限られています。さらに、欧米の先進諸国においては、少子化の進行も相まって、高度に専門的な知識・技能等を有する外国人を積極的に受け入れる政策がとられるようになっており、頭脳流出の流れがさらに強まることも懸念されます。

こうした事情を背景として、わが国においても、研究型大学院の一層の充実を図る必要や、技術と経営を俯瞰したビジネスモデルを創出できる人材を育成するための大学院教育プログラムの強化等が注目されるようになり、文部科学省は、大学院教育のいっそうの充実に向けて「グローバルCOEプログラム」、「組織的な大学院教育改革推進プログラム」、「博士課程教育リーディングプログラム」、「卓越した大学院形成支援補助金」などの施策を講じています。

本学においても、これらのプログラムも活用して、大学院教育の拡充を図って参りました。2012年11月に策定した新たな中長期計画 “Waseda Vision 150”においては、「独創的研究の推進」あるいは「新たな教育・研究分野への挑戦」といった戦略目標を掲げるとともに、本学が創立150周年を迎える2032年までに、現在約90億円である受入研究費を200億円に増加させ、大学院生を現在の約1万人から1万5千人に増やし、社会人教育も現在の3万5千人から5万人に増やすといった数値目標も示しました。

本学の創設者・大隈重信は、「近世の世界文明の要素とはそもそも如何なるものであろうか? 研究である。発見である。大発明である。次に有益なる著述である。それを土台として出来るあらゆる大事業である。」と述べ、さらには、「あくなき科学の進歩が国際社会から戦争を消滅させるであろう」とも語っています。

本日ご出席の大学院入学者の皆さまは、研究者への途を目指して学問の神髄を究めようとされている方も、高度専門職として実務界で活躍することを目標としている方もいらっしゃると思いますが、そのいずれもが、現代社会において強くその活躍が求められていることに変わりはありません。それぞれの皆さまが胸に抱いている高邁な理想の実現のために本学大学院で学ぶことが予定されている時間は決して長いものではありません。どうか強い志をもって、所期の目的の早期達成に向けた日々の学業・研究に精進し、それぞれの立場から世界の繁栄と幸福に向けた大きな役割を果たしていってください。

と同時に、皆さまには、常に、自らを客観化し、自らの学問・研究を検証・評価し、不断の改善に努めていただきたいと思います。

私たちの誰もが大きな衝撃を受けた、あの東日本大震災とそれに伴う福島第一原子力発電所の事故から、まだ3年しかたっておらず、未だに復興の目処が立たないまま避難生活を続けている方々も少なくありません。
この大災害は、科学技術の限界や社会システムの問題点を露呈させただけでなく、研究開発や社会システムの構築に際しての研究者・実務家の姿勢、危機時において専門家が果たすべき役割、専門家としての市民に対する情報発信のあり方等々について、深刻な反省を迫り、研究者集団の間に学問研究のあり方を見直すべきであるという意識が共有される契機にもなりました。しかし、未だその総括はなされておらず、この経験が風化することさえ懸念され始めています。皆さまのように鋭い感性を持った若い世代の研究者・専門家の皆さまには、是非とも、この大災害から学び取った教訓を実体化させ、明るい未来社会の建設に活かしていっていただきたいと期待しています。

皆さんが目指されている研究者や専門的職業人は、その高い専門的知見だけでなく、高い倫理性と自己規律の徹底によって、社会から高い信頼と尊敬の念を抱かれてきたのだと思います。
皆さんも、今日この時点から、学問・研究あるいは専門的職務に向き合う動機や目的においても、それを実施するプロセスにおいても、また、その結果に対する責任の取り方においても、常に自らを客観視して、社会からの厚い信頼に十分に応えうるものであるかを検証し続ける習慣を身につけるように努めてください。
早稲田大学の建学の理念にいう「学問の自由」は、学問に対する権力の抑圧や規制を排除するという消極的な意義に止まるものではなく、学問は、どのようにすることが目先の利益や権力の期待にかなうかというような観点で行うのではなく、すべての邪心を排して、真理の追究に徹すべきであるという意味で理解すべきものと考えます。
早稲田大学としても、本学大学院において、そうした理念に適合した理想的な指導体制を確立すべく、常に自らを厳しく点検し、不断の改善を図ってまいります。

皆さんのこれからの大学院生活が何より実り多きものとなることを、そして一日も早く研究者や高度専門職業人として自立し、早稲田大学の建学の精神が謳うように、進取の精神をもって、世のため人のために学問の成果を活かしていかれることを祈念して、お祝いのご挨拶とさせていただきます。
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。ますますのご活躍を期待しています。

早稲田大学 総長 鎌田 薫

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