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【Podcastコラム】文化の定義
Thu 25 Dec 25
Thu 25 Dec 25
早稲田大学では現在、ポッドキャスト番組「博士一歩前」 を配信中です。
今回は配信中のエピソードのうち、文学学術院の田中雅史准教授に人間のものだと思われがちな文化について、実は動物にも文化があることをご説明いただいたので、その部分を抜粋してご紹介します。
エピソードは以下より視聴可能です。
Q. 私たちは文化というと、どうしても人間だけのものと考えがちですが、先生のお話を聞くとそうではないという点が非常に興味深く思えました。先生の研究から見た文化についてご紹介いただけますでしょうか。
田中准教授:
文化という言葉は非常に多義的で、現在も明確な定義は定まっていません。特に動物が文化を持つのかという点については、まだ十分な合意が得られていない状況です。しかし、動物にもある種の文化が存在する可能性はあります。例えば、20世紀中頃、日本の宮崎県幸島で、サルがサツマイモを洗ってから食べるという行動が観察され、他のサルはほとんど同じ行動をしないことから、これが一つのサルの文化ではないかと考えられました。
鳥の研究においても、イギリスで牛乳配達を受けた際に、特定の鳥が牛乳の蓋を開けて飲むという行動が観察されています。このように、鳥も技術や知識を互いに教え合い、次の世代に伝えていることが次第に明らかになってきました。
このような動物の文化の存在が認知されるきっかけとなり、以降、文化的行動の例が多く報告されるようになりました。たとえば、チンパンジーが道具を使って餌を採る行動や、クジラが歌を歌う行動などです。その中でも代表的なのが鳥の歌です。ピーター・マーラーという研究者が発見したところによると、鳥の歌には地域ごとの方言が存在し、カリフォルニアの狭い地域内でも場所が変わるとさえずる歌が異なることが分かりました。この文化圏の存在から、鳥の歌が鳥同士で伝承されていることが明らかになり、私はこの現象に非常に興味を抱きました。鳥の歌がどのように伝わるのか、また音楽と似た性質があることにも注目しています。
田中 雅史 准教授
2008年に東京大学文学部を卒業後、東京大学大学院人文社会系研究科で、網膜における側抑制の動作メカニズムについて研究し、2013年に博士(心理学)を取得。その後、アメリカのデューク大学医学部では、博士研究員として、鳥が歌を模倣するときに働く神経回路を探究した。2018年に帰国し、東北大学生命科学研究科の助教を経て、2020年に本学文学学術院へ専任講師として着任。現在は人を対象とした研究にも射程を広げ、音楽や鳥の歌がもつ不思議な魅力について研究している。
城谷 和代 准教授(番組MC)
研究戦略センター准教授。専門は研究推進、地球科学・環境科学。 2006年 早稲田大学教育学部理学科地球科学専修卒業、2011年 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了 博士(理学)、2011年 産業技術総合研究所地質調査総合センター研究員、2015年 神戸大学学術研究推進機構学術研究推進室(URA)特命講師、2023年4 月から現職。
左から、城谷和代准教授、田中雅史准教授。
早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリ)のスタジオで収録。