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For the Future of Society
特集:地域社会のより良い未来を目指して
Thu 31 Oct 24
特集:地域社会のより良い未来を目指して
Thu 31 Oct 24
早稲田大学はこれまでの研究・教育の成果を社会に還元・発展させるべく、多くの地方自治体や国内各地の企業などと連携してさまざまな取り組みを行っています。さらに各地で行われる学生のボランティア活動も支援しており、その活動の輪は全国に広がっています。本特集では、教育、研究、ボランティアなど、さまざまな関わり方で地域社会のより良い未来を目指して活躍する学生の姿をお届けします。
能登半島地震の復興支援で感じた活動を継続することの大切さ
WAVOCのボランティアプログラムで珠洲市の災害復興支援に参加
法学部3年 武石侑里子さん

中学校の修学旅行で、東日本大震災の被災地である岩手県陸前高田市に行った私は、当時から災害復興支援に強い関心を抱いていました。大学入学後は 平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)の復興支援活動から生まれたサークル「早稲田大学気仙沼チーム」に所属し、幹事長を務めています。宮城県気仙沼市の地域貢献活動に携わり、地元の方々から「ありがとう」という言葉を受け取り、少しずつボランティアの意義を考えるようになりました。そうした中で今年1月に能登半島地震が発生、 テレビで現地の様子を見た時、直感的に「行かなければ」と思いました。
その後5月になり 、WAVOCの「能登半島地震 災害復興支援ボランティア」で、石川県珠洲市の復興支援に参加し、現地を訪れました。発災から約5カ月が経過した当時でも、道路や水道の整備は進んでおらず、現地の方とどのように接したらよいのだろうかと、到着した時は不安な気持ちになりました。現地では、壊れたり不用になった家具などの集積所への運搬をお手伝いしました。避難せず暮らせていても、家屋全体が傾いていたり、屋根が倒壊したりと、生活できないスペースがありました。ある高齢者のお宅では、来訪予定だったお孫さんのために布団を用意していましたが、それが地震で叶わなくなって片付けるという作業もあり、胸が痛みました。 日帰りの活動で滞在時間は短かったのですが、ちょっとした作業にも感謝してくださりました。厳しい環境でも温かく接してくださる皆さんと話す中で、「わずかなお手伝いで、感謝されてもよいのだろうか」と、複雑な心境にもなりました。同時に、被災地の復興支援は「行った」という自己満足で終わらせてはならず、その時々で何ができるかを考えながら、継続的に関わっていくことが大切だと思うようになりました。
東京に帰った今、ゼミやサークルなど、当たり前のように過ごしている日常生活が、いかに貴重であるかを実感します。今後も一日一日を大切にしながら、在学中に再び能登半島に行きたいです。
地域で活動する学生が集まり情報を共有できる空間を設立
全学副専攻「地域連携・地域貢献」の始動に伴い学生コミュニティ「結の芽」を設立
社会科学部4年 清水遥人さん

地域活動に関心のある学生のコミュニティ「結の芽」で、企画や運営を担当しています。早稲田大学では、 各学部の研究室、ボランティア、学生団体、サークルなど、さまざまな形で学生が地域活動に関わっており、2024年には全学副専攻「地域連携・地域貢献」が開設されました。こうした学生同士の横のつながりを強化し、情報交換や協働を活性化したいと考え、副専攻新設に携わった教職員の方に直接相談し、結の芽設立が実現しました。
早稲田キャンパス内の「WASEDA共創館」に、地域連携に関する学生のためのスペースがあります。また、学生のみならず卒業生や自治体の方々も気軽に足を運んでいただけます。月に1~2回開催している交流会「地域カフェ」では、毎回テーマを決めてディスカッションやフリートークを実施しており、社会人の方と学生の交流から地域での取り組みが生まれるなど、新たな共創の場として機能し始めています。
私自身は社会科学部の「農村デザイン研究ゼミ」に所属し、静岡県伊豆市の茅野という地域でフィールドワークを行っています。伊豆市は棚田やわさび栽培が盛んであり 、地域の魅力を発信するプロモーションビデオを作成したり、猪や鹿の獣害対策を考えるワークショップを企画したりと、農家の方々と連携して活動をしてきました。地域課題というと、座学やインターネットで得た情報が先行しがちですが、実際に現地の方々と接してみると、視点が変わることが多いです。特に農業は、東京で育った私にとって発見が多く、大きな農業機械が入れない棚田特有の事情、水路の点検や熱中症の危険など、農作業を体験することで困難や課題を知ることができます。
こうした経験から、地域に対する理解をより深めたいと、結の芽を構想しました。一口に地域貢献といっても、例えば理工系の学生は建築や都市計画といった視点を備えているなど、ほかの学生は自分とは異なる発想を持っています。さまざまな立場の人と出会い、知恵を交換しながら、卒業後も地域貢献に挑戦したいです。
交通計画の研究を通じ、より良いまちづくりの形を探る
自治体と住民の合意形成プロセスから都市交通のあるべき姿を追究
創造理工学部4年 田宮嘉成さん

幼い頃から鉄道業界で働きたいと思っていた私は、土木や交通を学ぼうと高校で理系を選択し、創造理工学部の社会環境工学科に進学。森本章倫教授の研究室に所属し、都市計画や交通計画を学んでいます。大学院生である研究室の先輩は、実地調査やデータ分析を駆使しており、学部生の私たちはシミュレーションやプログラミングといった手法の指導を受けながら、日々研究に没頭しています。また、学部の講義では、橋やトンネルといった構造物の建築的知識など、交通の世界における基礎知識を身につけました。
卒業論文に向けた研究テーマは、自治体がLRT※を導入する際のプロセスです。LRTは移動の利便性向上、渋滞の解消、景観の刷新などプラスの効果が多く、全国で約40の自治体が導入を検討していますが、議会や公聴会を通じた住民・関係団体の合意形成が不可欠であるため、一概に前進しているとはいえません。私は地域の交通計画や市民団体の活動、SNSの波及効果を分析し、導入に至る障壁を自治体ごとにグループ化することで、改善すべき要因を提示したいと考えています。
プライベートでも鉄道が好きで、これまで46の都道府県を旅行してきました。また、サークルは千葉県夷隅(いすみ)地域の地域活性化活動を行う「いすみっこ」に所属し、地元の鉄道会社や役所、漁業組合の方々と協業しながら、地域課題の解決に取り組んでいます。同地域では人口流出が進む一方で、移住先としての人気も高いという特徴があり、仕事を互いに手伝うなど、横のつながりが強固です。地元住民と移住者が楽しそうに交流する姿に触れ、コミュニティの魅力を改めて感じました。
さまざまな地域を見てきた中で私が学んだのは、地域の魅力や課題を幅広い人が理解することの大切さです。行政と住民、地域の外側と内側など、複数の関係者が同じ情報を共有することで、新たな取り組みが可能になると思います。卒業後は鉄道会社で勤務する予定です。学問で得た理論と、現地で身につけた行動力。両方を組み合わせ、今後も地域社会に貢献していきたいです。
※LRT…Light Rail Transit。低床式車両の活用や軌道・電停の改良により、乗降の容易性、定時性、速達性、快適性などに優れる軌道系交通システム
演劇と地域連携の両軸で人の交流や防災活動を育みたい
主専攻、副専攻、課外活動を活用し演劇を通じた地域活性に挑戦
国文化構想学部4年 関口真生さん

防災教育の先進自治体ともいわれる東京都荒川区で育ち、災害発生時の互助など防災関連の地域課題に関心があった私は、「地域探究・貢献入試(当時は『新思考入試』)」で早稲田大学に入学しました。入試では、中学・高校で取り組んでいた演劇を生かし、演劇を通じた交流によって住民を孤立させないコミュニティを作る施策をレポートにまとめ、提案しました。
入学後も、演劇と地域連携の両方を学んでいます。文化構想学部では演劇を中心に授業を履修し、身体表象論のゼミに所属。サークル「劇団くるめるシアター」では、仲間たちと演劇活動に熱中しています。地域連携について体系的に学ぶ「地域連携実践コース」 ※の修了も目指しており、さまざまな地域のフィールドワークにも参加しました。
その一つ、岡山県津山市の「地域連携ワークショップ」では、市長や地元事業者の方々へインタビューを行い、地域の魅力を起点にした誘客施策を提案しました。観光名所が点在する津山市には、市全域を「屋根のない博物館」に見立てたまちづくりの構想があります。そこで私たちは、市内共通のパンフレットや看板により、PRの一体感を強化する施策を提案。市長からは「東京の学生の目線を求めている」と期待されていたのですが、プレゼンテーションではデザインのアイデアを評価していただけました。
演劇に関しては、早稲田大学が文化交流協定を締結する岐阜県美濃加茂市で、オリジナル演劇作品『夢、のち』の映像上映を行いました。主宰補佐、演出、役者として深く関わったことで、集団における自分の役割を学ぶことができました。また、 同作品はシェイクスピアがモチーフの一つになっているのですが、シェイクスピアの翻訳に寄与した坪内逍遙は、早稲田大学と美濃加茂市の両方にゆかりのある人物です。共通のテーマがあることで、関わる人の交流も深まるという、文化活動の新たな側面も 知ることができました。卒業後も演劇や地域と関わりながら、さらに多角的な視点を養っていきたいです。
※2024年度以降の入学者に対しては、全学副専攻「地域連携・地域貢献」の修了認定プログラムに移行
出身地である陸前高田市で早稲田の学生として活動する
東日本大震災から13年を経て求められる地域貢献を考え直す
教育学部3年 松田由希菜さん

岩手県陸前高田市の出身である私は、小学校1年生の時に起きた東日本大震災で、自宅が全壊する被害を受けました。将来は故郷に戻って貢献したいと考え、そのために学び、いろいろな経験をしようと早稲田大学に進学。1年生の時から平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)の早稲田ボランティアプロジェクト「陸前高田プロジェクト」に参加し、大学生という立場から地元で活動しています。
陸前高田市には、岩手大学と立教大学が共同運営する「陸前高田グローバルキャンパス」が組織した、地域ニーズと全国の大学生をマッチングする「陸前高田イタルトコロ大学」という事業があります。この仕組みを通じて参加した、陸前高田市の春の魅力を見つける企画では、住民や事業者の皆さんの話を聞いたり、街歩きをしたりして、撮影した写真をポスターにまとめ、地元の新聞に掲載してもらいました。また、陸前高田市はゆず栽培の北限の地といわれ、ゆずの木はこの地域に200年以上前から生息していたとされています。しかし地元でも「北限のゆず」を知らない方は多く、 地域資源として活用できる余地が残っていました。そこで私は歴史を解明する活動にも参加。インタビューや文献調査を通じて得られた情報を冊子にまとめました。
一連の活動を通じて考えるようになったのは、「大学生だからできること」です。私が子どもだった発災直後は、がれき撤去や仮設住宅での支援活動がメインであり、自分自身も当時大学生だった方々にお世話になりました。 その一方で震災から数年経ち、支援の形も変わる とともに大学生にできることは減っているとも感じていました。しかし実際に大学生として被災地に行ってみると、若者の人口流出が進んでいることもあり、求められることが多いことに気づかされます。あり余る時間と体力、若者ならではのアイデアや着眼点を活用できれば、もっと地域社会に貢献できると実感しました。
卒業後は働くことを通じて経験を積み、ゆくゆくは地元でゼロから事業を起こしたいと思っています。街という場で人々がつながるのが好きなので、皆が楽しめるコミュニティを作りたいです。