早稲田大学・地球物質科学研究室の博士課程学生清水連太郎(創造理工学研究科D4)および小笠原義秀教授(教育・総合科学学術院)により発見されたカリウムを含む特殊な電気石(一般にはトルマリンとも呼ばれます)が、新鉱物「学名:maruyamaite(日本語名:丸山電気石)」として国際鉱物学連合(IMA)に承認されました。高圧条件下で形成されるダイヤモンドと共存する電気石は、世界で初めての発見です。
プレートがマントルに沈み込む際に起こる大陸衝突に伴って地球表層物質も深部に運び込まれ、コース石やダイヤモンドを含む超高圧変成岩となって再び地表に戻ります。電気石が形成されるためには地球表層に濃集しているホウ素が必須であり、この丸山電気石は地球表層からマントル深部へホウ素を運搬する役割の一端を担っていると考えられ、プレート運動に伴う物質循環の一面を解明する貴重な手がかりとなります。小笠原研究室では、超高圧変成岩等の地球深部に由来する岩石を研究することで、地球内部の物質の様子やその循環を解明していくことを目指しており、今回の発見はその目的に大きく貢献するものです。

(A) 丸山電気石の顕微鏡写真。茶色の電気石のうち、赤色破線で囲まれた部分が丸山電気石。
(B) 電気石(写真Aと同じ粒子)のカリウム元素マッピング結果。暖色系の部分ほどカリウムが多く含まれる。
(C) 丸山電気石に含まれるダイヤモンドの顕微鏡写真。ダイヤモンドは10µm程度と非常に細粒であり、岩石の専門家でも見つけるのは至難の業で、研究には根気と経験を必要とする。
詳細はプレリリースをご参照ください。
maruyamaite (丸山電気石)とは
- カリウムを多量に含む、世界中でも非常にまれな電気石
- ダイヤモンドと共存できるほどの高圧下でも安定な電気石(世界初の発見)
maruyamaiteの存在は岩石がかつて地球深部の高圧を経験していることを示唆し、一方、電気石の形成には地球表層に集まる元素が必須であり、地球表層と内部の物質循環を解明する手がかりになる
maruyamaiteと丸山茂徳教授
丸山電気石は、プルームテクトニクスを提唱するなど、変成岩岩石学・地質学に多大な功績を残され、またコクチェタフ超高圧変成帯研究プロジェクトのリーダーでもあった、丸山茂徳教授(東京工業大学地球生命研究所)にちなんで命名されました。

丸山茂徳教授
今回の新鉱物認定と命名を受けて、丸山教授は次のようにコメントしています。
コクチェタフの広域変成帯は、世界最高圧の広域変成作用を受けています。そこではダイヤモンドが広域的にできていることが明らかになり、さらに、地表の大陸が、その浮力にも拘わらず地下深部に沈み込むことがわかり、地下100㎞よりも深いマントルに沈み込む直接的な証拠物体であることが示され、世界を驚かせました。東京工業大学と早稲田大学を中心とした日本のグループはこの変成帯の研究に着手し、地質調査に基づき、放射性年代学やミクロ鉱物学を駆使し、変成分帯、流体移動、広域変成帯の上昇プロセスのダイナミクスに至る総合科学を迅速に展開しました。研究は、二度に及ぶ大規模な地質調査と、約9000個に及ぶ試料収集に始まり、開始後約10年でその主体は収束し、約50の研究論文が書かれました。その後、興味はミクロ鉱物学が中心となり、早稲田大学の小笠原研究室が研究の中核部を推進し、これまでに書かれた論文数は100を超えました。これらの研究は日本のグループが世界を圧倒しましたが、ロシア科学アカデミー、米国スタンフォード大学、カーネギー研究所などが、この研究を一部補佐し、幾つかの共同研究も進みました。
この研究を通して数多くの世界初の発見がなされ、プレート収束場の性質が明らかになりました。そのことに対する評価の一つとして新種鉱物に私の名前が付けられたことを光栄に思うと共に、この共同研究プロジェクトを開拓するまでの数多くの困難を克服できた同志の皆様(特に早稲田大学OB)に深く感謝したいと思います。