• Featured Article

脳と神経の世界から進む 多様性への理解

特集:アクセシビリティ支援の現在地

  • #CAMPUS NOW
  • #研究活動

Tue 30 Jul 24

特集:アクセシビリティ支援の現在地

  • #CAMPUS NOW
  • #研究活動

Tue 30 Jul 24

脳や神経に由来する個人レベルでのさまざまな特性の違いを、多様性と捉えて相互に尊重し、社会の中で生かしていこうという「ニューロダイバーシティ」の考え方が今、社会で認知され始めています。脳科学を専門とする人間科学学術院の大須理英子先生に、その最前線を伺います。

脳と体の関係を通して見れば全ては多様性の一つに過ぎない

脳や神経と体の関係性を明らかにするニューロサイエンス(認知神経科学・脳科学)を専門としています。この分野は、医学や工学、心理学などが関わる学際的な領域です。脳や身体が、何らかの理由で多くの人とは異なる状態にある場合、どのように社会と折り合いをつけて幸せに生きていくかについて考えています。

例えば、脳卒中を発症し、脳にダメージを負った際、後遺症として片側の手足が麻痺することがあります。リハビリテーションの現場では、麻痺した手の機能を回復する訓練を実施しますが、自宅に戻ると麻痺手を使わなくなることがよくあります。「使いたくない」気持ちがなぜ起こるのか、どうすれば使用を促進できるのかを、脳の活動を記録・分析することで明らかにできれば、機能を維持・回復する可能性が高まります。

また、脳の仕組みを研究していて感じるのは、脳の情報処理の流れや機能は、まさに十人十色だということです。これまで自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)という形で区分されてきた特性も、少数派であるというだけで脳のバリエーションの一つに過ぎません(ニューロダイバーシティ)。その違いを科学的な見地のもとに具体化していくことは、お互いを理解し、本当の意味での多様性を実現するうえで、重要な視点になります。

まずは“体験”すること そこから身近な課題が見えてくる

近年、社会的にアクセシビリティへの対応が進んでいます。全ての人が過ごしやすい環境を整えるためには、身近なところから課題を見つけ、「違い」を体験してみることが必要だと考えています。

私の研究室にも、身体的なハンディキャップのある学生がいます。一緒になってキャンパスの中を歩くと、エレベーターはあるけれど自力で開けられない扉が多い、机は少し低くて使いづらいなど、今まで意識していなかったバリアの存在が見えてきます。こうした気づきは、日々の体験の中から生まれるものといえるでしょう。

ASDやADHDといった情報処理の多様性の場合、環境づくりはさらに難しくなります。日本ではコミュニケーションや協調性が重視され、皆と同じように振る舞う(カモフラージュする)社会的圧力が強くなります。そのため、情報処理に関する多様性の存在自体が見えづらくなっているのが現状です。私の研究室でも、バーミンガム大学をはじめとした世界の大学と協力し、ASDの人(成人)のカモフラージュとウェルビーイングについて調査を行いました。その結果、海外では自身の特性を自分自身も他者も受け入れていると感じることが幸福感につながるけれど、日本では必ずしもそうではないということが分かってきました。これは、就職後に画一的な業務が求められる日本と、それぞれの特性に合わせて適した仕事を割り当てる欧米企業のあり方を見ても明らかです。

こうした現状を乗り越え、誰もがありのままで幸福に生きられる環境をつくるためには、相互のコミュニケーションを支援する仕組みが必要です。その実現に向けて、VRゴーグルを装着し、ASDの人の目線の動きを追体験できるシステムや、少数派である特性を持った人がマジョリティとなる状況を想定したシナリオなど、さまざまなツールづくりを進めています。

誰もが健康に活躍できる社会へ 脳科学の可能性は今後も広がっていく

マジョリティ・マイノリティの違いはありますが、多かれ少なかれ、私たちは違いを抱えて生きています。そうした多様性の中で、いかにディスコミュニケーションを防ぎ、最適な関係性を保っていけるかが課題です。これは社会に生きる全ての人に関係するテーマといえるでしょう。また、長寿化した人生をより充実させるための身体機能の維持・改善も、今後進めていきたいテーマの一つです。AIやロボティクス分野との共同研究など、脳科学の可能性は広がり続けています。脳の理解がよりよい社会の実現につながるよう研究を続けていきます。

◆PROFILE◆

1996年京都大学文学研究科博士後期課程研究指導認定退学、博士(文学)。科学技術振興事業団 ERATO川人学習動態脳プロジェクト研究員、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報研究所 運動制御・機能回復研究室 室長、ニールセン・カンパニー合同会社コンシューマーニューロサイエンス ディレクターなどを経て、2017年より現職。

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/top/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる