まちと融合する、新時代のキャンパスを目指して
Waseda Campus Master Plan 2023の推進
早稲田大学のメインキャンパスである早稲田キャンパスは、1882年の創立以来、時代の要請に合わせて整備されてきました。そして現在、「Waseda Campus Master Plan 2023」を立案し、「まちと融合した大学」の実現に向けてキャンパス整備を進めています。本学副総長(キャンパス企画担当)の後藤春彦理工学術院教授が、キャンパス整備の系譜とその将来像を語ります。
時代要請に合わせ進化を遂げてきた早稲田キャンパスの歩み
早稲田大学が創立間もなく木造校舎だった頃、周囲は「早稲田」と呼ばれる 田んぼでした。将来にわたるキャンパスプランを担った建築学科主任教授の佐藤功一は、当時の高田早苗総長に、碁盤目状の配置計画への変更を進言。以後、大隈記念講堂、大隈銅像、坪内博士記念演劇博物館と、続々とXY軸のグリッド上に沿って建物が整備されていきます。
田園風景から都市的な景観へと移り変わった第一期(1882年~1930年頃)を経て、戦後復興に合わせたキャンパスの拡張を 目指した第二期(1950年~1970年頃)、校舎の高層化と正門周辺の歴史的な景観の継承の両立を目指した第三期(1997年~2022年頃)と、早稲田キャンパスは時代の要請に合わせて整備されてきました。IT革命からAIの台頭に至る時代と重なる第三期の主要課題は、最先端の研究環境の提供と、留学生をはじめとする多くの学生を収容するための高層化でした。一方で脈々と受け継がれてきた「こころの故郷」と呼べるようなキャンパス景観を継承しようと、伝統と革新を融合させた建築設計にも取り組んできました。3号館や8号館には、その理念と技術が結集されています。
地域社会の発展に貢献する大学の知的資産
そして第四期にあたる2023年からは、「Waseda Campus Master Plan 2023」に沿ったキャンパス整備が実施されています。目指すのは、「まちと融合した大学」。大学周辺の街をキャンパスと見立て、都市と一体化した大学を目指します。ヨーロッパでは既に、知的産業としての大学が都市の発展を牽引するという 事例が見られます。学生や教職員がもたらす地域活動や環境活動、キャンパスの防災拠点としての役割、知的財産を基にした産学連携による経済貢献など、大学が地域にもたらすプラスの効果は大きく、大学としても教育や研究の場がリアルな都市空間に染み出していき、社会貢献活動につなげていくことが重要です。「無門の門※1」に象徴される早稲田大学の社会に開かれた姿勢は、この思想と共鳴すると考えました。
新たな知の拠点として新9号館が2027年に供用開始
同時に、時代に合わせたキャンパス内の整備も必要です。コロナ禍を契機に、自宅でオンラインにより授業を受講し、大学では仲間やTA※2と演習やディスカッションを行う「反転学習」の教育効果が確認されるようになり、大教室よりも小さなスペースのニーズが高まっています。ラーニング・コモンズやポケットパークをはじめ、偶発的な出会いからイノベーティブな発想が生まれるよう創造的空間を増やしていく次第です。
また、地域社会に貢献する上でも、環境問題へのアプローチは欠かせません。事業者の中でも大学はCO2換算の温室効果ガス排出量が多いことから、大きな責任を有しています。本学は2021年に「カーボンニュートラル宣言」を発出し、創立150周年にあたる2032年を目途に、各キャンパスにおけるCO2の排出量実質ゼロの達成を目指しています。
これらの背景から、2027年の供用開始に向け、新9号館の建設を進めています。ラウンジや読書室などコモンスペースの充実や、学内ワンストップサービス拠点である「早稲田ポータルオフィス」の移設、バイオフィリックデザイン※3の積極的な採用や「木立のひろば」(仮称)の整備による「早稲田の森」の継承など、新たな知の拠点として機能させていく予定です。
※1 早稲田大学を象徴する、門柱や塀のない門
※2 TA…ティーチング・アシスタント
※3 バイオフィリックデザイン…建築物や空間に自然の要素を取り入れるデザイン手法
(CAMPUS NOW No.251 2024/04より転載)