2024年度入学式祝辞 漆間 啓 様

祝辞 漆間 啓 様

三菱電機株式会社 取締役 代表執行役社長、 CEO

新入生の皆さん。早稲田大学ご入学おめでとうございます。
本日、皆さんのこの輝かしいスタートラインに立ち合い、ご家族、関係者の皆さまと共に、新たな門出を祝うことができますことを大変光栄に思います。

私自身の学生時代を振り返ると、早稲田大学で過ごした時間は、自分の人生を形作る貴重な瞬間でした。この場をお借りして、私の大学時代のエピソードとその時に得たこと、また私が会社に入りこれまでに得た経験を通して、皆さんにアドバイスできることをお話しさせていただきたいと思います。

私がこの早稲田大学商学部に入学いたしましたのは1978年です。既に46年が経過しました。もうほぼ半世紀前ですね。時間が経つのも早いものです。私は大分県の出身で中学3年生の時に剣道の全国大会に出場した際、武道館に来たことがあるだけで、それ以外では東京にはほとんど縁がありませんでした。ですから、入学試験を含めて3回目の東京が、いきなり大学生活のスタートとなりました。昨今、マンションやアパートから通う学生が多いと聞きますが、私は仕送りの問題もありまして、安い下宿を探して入り、風呂は一日おきに銭湯という生活に突入していきました。

当時の大学は、南門の入り口に高田牧舎という古い古民家でツタの絡まる喫茶店があり、それを横目に見ながら入ると左側に法学部、右側にこれまたツタの絡まる図書館があり、勉強に意欲の湧く佇まいでした。またそのまま進んでいくと正面通路に大隈銅像があるわけですが、商学部側から見たときの大隈講堂と大隈銅像の素晴らしいコントラストが大好きで、授業に来るたびに早稲田に入れてよかったなと誇りを感じる毎日でした。

当時、商学部では一年生の時の成績で入れるゼミが決まると言われていましたので、成績だけはちゃんと取らなければと思い、授業や試験はまじめに取り組んでいました。とは言っても、大学に入ると仲間ができてきます。クラスの仲間やクラブの仲間たちです。そうしますと前期の試験が始まるというときに、当時は麻雀を教えられ、楽しさを味わいます。麻雀をしたい気持ちと試験勉強の時間との葛藤になります。試験勉強を絶対に中途半端にしない精神力を保ちつつ、麻雀を楽しむ時間もしっかりと作る、これが学生時代の醍醐味でした。

2年生の時には、近代貿易理論の研究でとても厳しいといわれた田中喜助先生のゼミに入会したいと思い、面談を受けました。入ってみると田中先生はゼミに臨む姿勢を厳しく言われる先生でした。「良いレポートはよい紙に、良いインクで書くこと」といった指導があり、さらには真剣に勉強しない学生はゼミから退会させられることもありました。そのため、毎回毎回が緊張の連続でしたが、結果的にとても鍛えられました。ゼミに入る際の面談で田中先生から「コメをまともに食べられない者が、おかずを食べる資格はない」と言われたとき、正直何を言われたのかよくわかりませんでしたが、要するに成績が良くない学生はこのゼミを受ける資格はないということだったようです。私は成績の良くない部類でしたので、そのゼミの合格を諦めていましたが、なぜか、幸運にも合格通知をいただきました。理由は、今でもわかりませんが、何か不思議な力が働いたのかもしれません。

3年生になると、ゼミが始まりました。週に一回あるのですが、難解な貿易理論の古典書を読んでレポートを書かなければならないので、必ずと言っていいほどゼミの前日は徹夜になってしまいました。理解できない部分を何度も何度もテキストを読み返し、レポートを書いて臨んでいました。この時の緊張感は今でも忘れられません。たまにゼミが終わりますと先生が夕食に連れて行って下さるのですが、緊張が抜けて本当に心地よい解放感を味わったことを覚えています。この時に、難解な本で初めはわからなくても何度も同じ部分を読み返すうちに閃いてくる感覚を味わいました。また、レポートの書き方も学んだと思っています。レポートは書物を理解して、その意味を自分のものと置き換えて使えるようになって初めて良いレポートが書けることがわかりました。

4年生の就職活動では、私たちのゼミに、卒業した先輩がリクルーターとして来られ面談をしていただくのですが、私は三菱電機の先輩および先生から入社試験を受けるように勧められました。その試験では卒業論文の説明や与えられたテーマでレポートを作成するのですが、ゼミでやってきたレポートの書き方、プレゼンテーションの仕方等々が、これほど役立つとは思っていませんでした。結果、幸運にも三菱電機に入社することが出来たわけです。

これまで、簡単に学生時代のことをお話させていただきましたが、私が会社に入っていろいろな経験をしてきた中で、結論に至っていることは、人間の根本的性格は、必ずと言っていいほど学生時代に形作られるということです。ここにいる新入生の皆さん。これまでの高校生活までの営みと今から始まるこの4年間で、皆さんの基本部分の人間形成が行われるといっても過言ではありません。これからいろいろな新しいことや公私にわたる問題、課題が起きてきます。その際には決して逃げずに考え、自分で解決できない場合は信頼できる人と議論し、自分事にして解決を図っていってください。その過程で培われる皆さんの根本的性格が、将来、皆さんが何かを意思決定したり、決断したりする場合の基本的考え、拠り所に知らず知らずのうちになっていきます。

そのために、色々なことに挑戦していってください。特に今はVUCAの時代と言われています。海図のない航海に乗り出していかなければなりません。これに対処していくためには答えのないものに対してみんなで議論し、ある一定の考え方を導き出していかなければなりません。常に考える習慣を身につけ、答えのないものから逃げず、真剣に取り組んでいくことが重要です。また、その過程において、チームビルディングにも是非意識して取り組んでください。チームビルディングは高い目標に向かって、先輩、後輩に関係なくお互いを尊重して、助け合い、最終的な目標を達成していくということです。

一方で、仲間との楽しい飲み会、旅行など校外活動の時間も十分謳歌してほしいと思います。これからは、多様な知見、生き方を尊重するダイバーシティが求められる時代です。多様な文化や考え方に触れるためにも、可能な限り自国以外の友人も作ることが大切になってくると思います。私自身も通算8年間、ドイツと英国での海外駐在経験がありますが、出張ではなく実際に住んでみますと、欧州域内でさえも国や地域でモノの見方や考え方が違う事を肌で感じました。グローバルに見渡せば、国や地域によってメンタリティは大きく異なりますので、自国以外の友人との関わりを通じて皆さんの心の領域や視野を広げていっていただきたいと思います。

つぎに少し三菱電機グループの活動を紹介しながら、皆さんに「志」についてお伝えさせていただきます。当社グループは宇宙から家電まで幅広い事業領域がある中、サスティナビリティの実現を経営の根幹に位置付けて活動しております。2024年度には、変革を更に加速するため新たな組織を設立しました。自社の経営基盤を更に強化し、当社グループの強みを活かし、事業を通じて「カーボンニュートラル」「サーキュラーエコノミー」「ネイチャーポジティブ」等の実現に貢献して参ります。これらは当社グループの企業理念である「たゆまぬ技術と限りない創造力で活力とゆとりある社会の実現に貢献する」に基づきます。企業理念は、会社の存在意義であり、こうありたいと願う私たちの「志」です。

昨年より、「マイパーパス活動」と銘打って、従業員一人ひとりが自身の「パーパス」、つまり「志」を考え、会社の「パーパス、志」である企業理念との結びつきや重なりを見つける活動をしています。会社での業務が自分の志につながっていることを実感できれば、日々の仕事はもっと楽しく、充実したものになると考えたからです。そして志があれば、それが仕事を含め、生きていく上での指針となり、様々な選択を迫られる場面でも、ブレることはありません。たとえそれがうまくいかなくとも、自分の選んだ道を後悔することはないと思っています。

私からお伝えしたい、お願いしたいことは、ここにおられる皆さんにも、大学を卒業するまでに皆さんの志を立ててほしいということです。志を立てることが出来れば皆さんにどんな苦境があっても乗り越えていくことが出来ます。また鍛錬千日勝負一瞬です。日々努力を積み上げていってください。その努力は噓をつくことをしません。

私の座右の言葉は「自反尽己」です。自分を常に顧みて己を尽くすということです。自分の責任として全力を尽くし、上手くいけば皆さんのおかげ、上手くいかなければ自分のせいという意味になります。皆さんも、これから始まる早稲田大学での学びの時を大切にして、人生の拠り所となる「志」を見出していくことを続けていってほしいと思います。早稲田大学は、そうした「志」を立てるための学びと出会いに溢れた素晴らしい大学であり学び舎です。

最後に、新入生の皆さん、これから4年間、常に気持ちをワクワクさせながら、色々なことに挑戦し、大いに成長していってください。
皆さんの大学生活が実り多く、人生の中でかけがえのない時間となることを願って、私からのエールとさせていただきます。
本日は誠におめでとうございます。

(プロフィール)
1982年早稲田大学商学部卒業。三菱電機株式会社に入社し、名古屋製作所でキャリアをスタート。Mitsubishi Electric Europe B.V.取締役社長、FAシステム事業本部長、社会システム事業本部長、経営企画室長などを経て、2021年7月より執行役社長に就任。一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構理事長、経団連日本トルコ経済委員会委員長、公益財団法人発明協会副会長等兼職。
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