2022年度入学式祝辞 井上 和幸 様

祝辞 井上 和幸 様

清水建設株式会社 代表取締役社長 社長執行役員
今いる快適な世界から一歩外に踏み出し、「より広く、より高く、より深く」様々な経験にチャレンジして欲しい。早稲田大学は海外留学生を数多く迎え入れ、世界に大きく開かれた学びの場でもあります。まさに皆さんはリアルな場で「世界への扉」に向き合っており、その扉を自らの手で開けることができるのです。

新入生の皆さん,こんにちは。

ただいまご紹介頂きました清水建設の井上と申します。先ずは皆さん、ご入学おめでとうございます。

長引くコロナ禍の中、様々な不安と孤独感を乗り越え、見事、早稲田大学ご入学を果たされたことに敬意を表すると共に、一卒業生として心よりお祝いを申し上げます。

また、ご両親様を始めとするご家族ご親族の方々におかれましては、お喜びもひとしおかと拝察いたします。重ねてお祝い申し上げます。受験生を抱え、只でさえご心労が多い時期に、感染防止にもお気遣いをなさらなくてはいけない状況はさぞかし大変なことであったのではないでしょうか。
新入生の皆さんは是非、ご家族の有形無形の支援に思いを致し、改めて感謝の気持ちを伝えて頂ければと思います。皆さんの心からの感謝の言葉は、ご両親やご家族にとって一番嬉しいものであり、何よりの贈り物となるでしょう。

加えて田中総長を始め、大学教職員の皆様におかれましては、このコロナ禍の中、見事に素晴らしい入学式を挙行され、そのご尽力に敬意を表し、心より感謝申し上げます。

さて本日は、皆さんの記念すべき大学生活のスタートの日であります。晴れの門出にあたり、お祝いの気持ちを込めてメッセージを贈りたいと思います。先ずは「より広く、より高く、より深く」ということです。

皆さんの世代は小さい時からネット中心の社会環境で育って来られました。スマホやタブレットをあたかも体の一部のように上手に使いこなし、いつでもどこでも欲しい情報を欲しいだけ、思いのままに手に入れることができます。私の世代からみると羨ましい限りでありますが、言わば皆さんは掌に「世界への扉」を握っている、ということになります。

しかし、もしその世界が、自分が見たい、あるいは自分が好きな世界だけに限ったものだったとしたら、非常にもったいないことではないかと私は思います。社会はコロナ禍を経験し、オンラインの利便性と、反面ではリアルの交流や経験の重要性を再認識いたしました。ネットを超えたリアルの世界、あるいはまだ見ぬ世界には美しいものや素晴らしい出来事が沢山あります。感動の宝庫だと思います。と同時に自分が好まないことや心地よくないと感じることも多いとも言えます。

何をお伝えしたいのかと言うと、今いる快適な世界から一歩外に踏み出し、「より広く、より高く、より深く」様々な経験にチャレンジして欲しい、と言うことです。そこには数々の失敗や逆境、さらには多様な価値観が存在するでしょう。しかしそれを知ることこそが大事なのです。

そして是非、日本が世界の中で今どうあるのか、そしてどうあるべきなのか、過去、現在、未来に亘って考えてみてください。この点、早稲田大学は海外留学生を数多く迎え入れ、世界に大きく開かれた学びの場でもあります。まさに皆さんはリアルな場で「世界への扉」に向き合っており、その扉を自らの手で開けることができるのです。

さて、今この瞬間、皆さんは私の話を聞きながら、これから始まる学生生活をどのように過ごそうかと思いを巡らせているのではないでしょうか。大変結構な事です。きっと、ご自分のクラスや研究室で、またはクラブ活動やアルバイト、さらにはボランティア活動で、これまで接したことのない、多様なバックグランドを持つ人達との交流によって幅広い経験が得られるでしょう。

そこでは時として周囲との摩擦や食い違いも起こります。しかし、人は人との交流の中でこそ磨かれるのだと思います。ダイヤはダイヤでしか磨けないという言葉があるように、友人や先輩、後輩、先生方との交流の中で、生涯に亘る真の友情と絆を育み築いていってください。
飛行機は空気の抵抗があるからこそ大空高く飛び上がるのです。時には感じるアゲインストの風も皆さんの飛躍のための追い風になるのです。

これから始まる大学時代を、高い目標を設定して研究やスポーツを究めようと挑戦の意欲に満ちている方も多くいらっしゃるでしょう。それもまた素晴らしいことです。高みに登れば、新たな地平線の景色が見えてきます。あるいは自身の限界を否応なしに知ることになるかもしれません。いずれの経験も皆さんの成長の糧になるのです。そして皆さんにはその経験をするための十分な時間があります。

私は建設会社の代表を務めておりますが、現在、東京をはじめ世界各地で数多くの超高層ビルの建築が行われています。当社でも東京タワーとほぼ同じ高さとなる日本一高いビルを、来年の完成に向け建設中です。高い建築物や大きな構造物であればあるほど、それを支える基礎は地中深く、強固で大きなものとなります。

この地中に見えなくなってしまう頑丈な基礎があるからこそ、大地震の揺れや台風の強風にも耐えることができ、建設においてはこの基礎を造る期間が最も重要であると言っても過言ではありません。そうして完成したビルは、大地震や強風などの外部からの力にもしなやかに対応し吸収する構造になっています。

皆さんが生涯揺るぎない人生を切り開いていくため、頑丈で大きな基礎を築きあげながら環境に適応し、吸収力と柔軟性を養う学生時代となることを切に願っております。

本学の祖、大隈重信翁は「人生は川の流れと等しい。川がいくつもの支流を併せて大きく成長するのと、私が幾多の経験を得たことに違いはない」と述懐されました。どんな大河も源は小さな流れであり、幾多の喜びや時には悔しい経験が皆さんを大河へと成長させてくれるでしょう。

また、大隈翁と半世紀以上に亘る親交があり、清水建設の創成期に30年に亘り相談役として経営指導頂いた澁澤栄一翁は「成功や失敗のごときは、ただ丹精した人の身に残る残り粕のようなもの」と言われました。すなわち、人間にとって成功や失敗よりも、何を経験し、どのように努力し取り組んできたかという過程が重要だという教えです。

是非皆さんには、世界に開かれた眼差しを持って、多様な経験を積み、「より広く、より高く、より深く」社会のために活かそうという大きな志をもって、心豊かな人生を自ら切り拓いて頂きたいと思います。

さて、今日から皆さんは早稲田大学という最高学府で数々の叡智に包まれながら、科学や技術を中心に学びます。将来、皆さんが研究の場であろうと実業の場であろうと、大きく羽ばたくためには人としての豊かな心と、思いや考えを的確に伝える言葉の力が必要です。

社会には様々な価値観が存在します。そしてそれは時代の変遷とともに変わってゆくものです。また、科学や技術の発展に伴い、倫理的な問題も多数発生しています。そうした変化と多様性に富んだ世界で、未来を切り拓き、人々に新たな可能性をもたらすのは人間性豊かな人財と逞しくも 暖かい言葉による発信力です。

それを見つけるために必要なことは二つです。先ず一つ目は自らが行動し、様々な世界を見聞し知識を広め、知恵を身につけることです。そして多くの人と会話をし、多くの価値観を知り、自分自身の引き出しを少しでも増やして欲しいと思います。その引き出しの一つひとつが皆さんの幅を広げ、物事に対応する力を向上させ、豊かな心と発信力を高めることに繋がるでしょう。

さらに二つ目は思いやりの心を常に意識することです。孔子は論語の中でこれを“仁”と言って人間として大変重要な要素であると説いています。相手の立場に立って考える、あるいは相手の気持ちに寄り添い問題解決を図る、ということに常日頃から思いを巡らせてください。日々体現することは難しいことではありますが、徐々に皆さんの人間性を磨き、鍛えてくれるでしょう。全く予備知識を持たない方に、自分の持つ技術を説明し納得してもらう
様な場面でもこの“仁”の気持ちがあれば、必ず伝わると思います。人間性が、伝える言葉に現れるのだと私は考えています。

いろいろとお話をさせて頂きましたが、最後に挨拶の締めくくりとしてひとつの言葉を贈ります。日米プロ野球界で数々の大記録を打ち立てたイチローの言葉です。

それは、「壁というのは出来る人にしかやってこない。超えられる可能性がある人にしかやってこない。だから、壁がある時はチャンスだと思っている。」という言葉です。

皆さんはこれから大学で学び、社会に出て、日本、いや世界を相手に活躍する人生が待っています。ただし、そこには必ず失敗と挫折が待ち受けています。私も同じ経験を積んできました。しかし、その厳しく辛い壁は必ず乗り越えられます。高い目標を掲げ、最大限の努力を重ねてください。自分を信じ、前向きにひとり一人の人生を歩んで行って欲しいと思います。皆さんの大きな飛躍と、無限の可能性に心よりエールをお贈りし私のご挨拶とさせていただきます。

本日は誠におめでとうございます。

井上 和幸 氏 挨拶文PDF

(プロフィール)
1979年本学理工学部建築学科卒業1981年本学大学院理工学研究科建設工学(建築)専攻修了。同年清水建設株式会社入社。2013年、執行役員に就任。2016年より、代表取締役社長。
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