スポーツ功労者表彰 福原 美和 様
早稲田大学スケート部フィギュア部門監督、明治神宮外苑フィギュアスケートクラブヘッドコーチ
みなさんの大きな可能性をはぐくむ土壌が、「進取の精神」が、この早稲田大学には伝統的に存在します。みなさんが素晴らしい人生を歩んでいくことになるきっかけを、これからの大学生活で、自分自身で見つけて、自らがつかんでいただきたいと私は願っています。
皆さま、ご入学おめでとうございます。
新型コロナウィルス感染拡大の中、大変なご苦労があったと思いますが、大きな希望と共に早稲田大学に入学されたこと、心よりお祝い申し上げます。
私はただ今ご紹介をいただきました福原美和でございます。
皆さまの入学式という舞台で、「早稲田大学スポーツ功労者賞」をいただきましたこと、大変光栄に思います。
さて、皆さんは、今日から、この早稲田大学の一員となられるわけですが、早稲田大学には「進取の精神」が基本理念として掲げられています。皆さんの方が詳しいかと思いますが、進取とは、「自ら進んで、困難なことに取り組む」という意味です。
今日表彰いただきました「早稲田スポーツ功労賞」において、女性は初めてとのことです。
私は、何か特別な困難に立ち向かってきたわけではありませんが、女性として自分なりに、今日の日本におけるフィギュアスケートの発展に貢献することができたのかな、と思っています。
実は、私の母方の祖父も早稲田の出身者です。明治38年に、プロとアマチュアを含め、
日本のスポーツチームとして初めてアメリカ遠征を行った早稲田大学野球部の一員でした。
当時は日露戦争の真っただ中で、「こんな時に海外に野球をしに行くとは何事だ」と当然周りは大反対!その時、大隈総長は、「学生には学生のなすべき道がある、若者は外国に行って大いに見聞を広げるべきで、どんなに困難があってもやり遂げるべきである」と周囲を説得し、遠征が行われたと聞いています。
さらには、この遠征を通じてアメリカから持ち帰った野球用具や知識を、惜しむことなく他の大学に提供することで、日本の野球を飛躍的に進歩させたと言われています。
ちなみに、このアメリカ遠征の時のユニホームが、当時交流のあったシカゴ大学のユニフォームをモデルに作られた「えび茶色のアンダーシャツとストッキング」これが早稲田のスクールカラーの原点と言われています。
また、祖父が4年生の時にアメリカの大リーグ選抜チームと早稲田大学野球部との試合があり、始球式では、羽織はかま姿でマウンドに上がった大隈総長が、バッターボックスに立つ祖父に対して、ボールを投げたそうです。勢いよく投げた球はストライクゾーンから大きくそれたにもかかわらず、祖父は総長の球を「ボール」にしてはいけないと、空振りしてストライクにしたそうです。これ以降、1番バッターは始球式の相手に敬意を表して、どんな球でも空振りをすることが恒例になったとのことです。
私の祖父の時代の話ではありますが、自らが進んで物事に取り組む進取の精神や、早稲田らしい寛容さが溢れているエピソードだと思っています。
ここからは、少し、私とフィギュアスケートの話しをさせていただきたいと思います。
プロフィールでご紹介いただいたように、長年フィギュアスケート界で過ごしていますが、
最初にフィギュアスケートを始めたのは8歳くらいの時で、母にスケートリンクに連れられて来たのがきっかけでした。
練習を積み重ね、一つずつ技ができるようになり、技術を磨いて、国内だけではなく国際試合にも出場するようになり、海外の憧れの選手と競い合う中で、私もオリンピックに出場してみたいという夢を持つようになりました。その夢を追いかけて、本当に一生懸命スケートに打ち込み、早稲田大学に入学した翌年の1964年に、日本代表として、インスブルック冬季オリンピックに出場し、5位に入賞することができました。当時のフィギュアスケート界は、今では考えられないくらい欧米中心の世界で、アジア人には様々な状況が不利な時代でしたので、入賞できたのは本当にラッキーでした。ただ、そのような状況においても、くじけることなく、自分自身で精一杯できることをやろうという気持ちで、練習にも試合にも、オリンピックにも臨みました。私でも、できるんじゃないかと信じて。
その後、日本のフィギュアスケート界は素晴らしい発展を遂げてきました。皆さんご存知のように、トリノオリンピックでは、荒川静香さんがアジア人として初めてフィギュアスケートで金メダルを獲得、羽生結弦さんは二大会連続で金メダルを獲得し、次世代の憧れの存在となりました。
フィギュアスケートにおいては、今のところ、オリンピックの金メダリストは、この二人の早稲田大学出身者だけです。
私自身は、現役引退後、日本人として初めて海外のアイスショーに参加し、多くの国を周りながら世界中に友人を作ることができました。その後、日本でインストラクターになり、1995年からは早稲田のスケート部フィギュア部門の監督となって、指導者として、才能あふれる子供たちに毎日接することが生きがいとなっています。
現在、世界情勢は不安定な状況です。コロナ禍もまだもう少し続くような感じです。
ただ、若い皆さまには、自分なりの夢を見つけて、それに向かって努力していただきたいと思います。皆さまの入学された早稲田大学には素晴らしい伝統と希望があります。
大学生活の日常の中にもたくさんの喜びや出会い、困難や様々な壁、があると思います。
学生生活をおおいに楽しみながら、自分が打ち込めること、達成したいと思える目標や夢を見つけてください。
みなさんの大きな可能性をはぐくむ土壌が、「進取の精神」が、この早稲田大学には伝統的に存在します。みなさんが素晴らしい人生を歩んでいくことになるきっかけを、これからの大学生活で、自分自身で見つけて、自らがつかんでいただきたいと私は願っています。
改めて、本日は皆さんご入学おめでとうございます。
これからの4年間が素晴らしい時となりますよう
お祈りしております。
最後までご清聴いただき、ありがとうございました。