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博士課程人材の知が、企業を動かす

富士通株式会社×大学院商学研究科博士後期課程学生

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  • #学生の活躍
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  • #社会

Fri 06 Mar 26

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Fri 06 Mar 26

先進テクノロジーやデータサイエンスの需要拡大とともに、キャリアにおける博士課程人材の選択肢が広がっています。文部科学省は現在、大学院生が企業実務に挑戦する「ジョブ型研究インターンシップ」を推進。早稲田大学も博士課程人材が幅広い領域で専門性を活かせるよう、各所との連携強化に努めています。

本記事では、文部科学省のジョブ型研究インターンシップ制度とは異なる枠組みながら、ジョブ型の考え方に基づき企業実務に参加した事例として、富士通株式会社におけるインターンシップを紹介します。 参加学生の鈴木宏治さん(商学研究科博士後期課程4年)、富士通の野村哲也氏、平野隆氏へのインタビューを通じ、ビジネスにおける博士課程人材の可能性を掘り下げていきます。

(中央)早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程4年 鈴木宏治さん<br />
(右) 富士通株式会社 Employee Success本部 Engagement&Growth統括部 シニアディレクター 野村哲也氏<br />
(左) 富士通株式会社 Employee Success本部 Engagement&Growth統括部 シニアマネージャー/EXデザイナー 平野隆氏<br />
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(中央)早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程4年 鈴木宏治さん
(右) 富士通株式会社 Employee Success本部 Engagement&Growth統括部 シニアディレクター 野村哲也氏
(左) 富士通株式会社 Employee Success本部 Engagement&Growth統括部 シニアマネージャー/EXデザイナー 平野隆氏

研究室の知見を実務現場に応用する

早稲田大学大学院商学研究科の博士後期課程で、企業の組織行動論を研究する鈴木宏治さん。社内チャットなどのログデータから、従業員の行動心理を解析する手法を構築し、企業活動に役立てることを目指してきました。

鈴木「従業員エンゲージメントなど、企業活動で重視される指標は、アンケート調査をベースに測定されるのが主でした。私の手法では、社内のコミュニケーションで利用されるチャットツールを分析することで、さまざまな心理や行動を探ることが可能です。『どのような会話内容があると、創造的なアイデアが生まれるか』など、より深いコミュニケーションの構造を読み解くことで、組織の改善に役立てることができます」

鈴木宏治さん(早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程4年)

鈴木宏治さん(早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程4年)

商学部時代より村瀬俊朗准教授(商学学術院)に師事してきた鈴木さんは、知識の習得に手応えを感じたことから、大学院に進学。修士時代に就職活動をする中で、専門性を高めることが自身の価値につながると考え、博士後期課程へと進みました。

鈴木「将来的には研究の知見を企業で生かしたいと考えていた中で、博士課程人材を対象とした富士通のインターンシップを知り、参加を決めました。配属先は人事で、業務内容は主に三つ。①チャットなど行動データを生かしたエンゲージメント向上、②組織カルテ作成で重要になる概念の整理とマッピング、③エンゲージメントサーベイのデータ分析です。特に①は、私の研究を直接応用できるものでした」

三つの課題は、かねてより富士通の人事チームが取り組んできたもの。インターンシップではプロジェクトの実践的前進が求められます。鈴木さんの参加期間は約5カ月。週4回の勤務をベースに、人事チームのメンバー約6名と課題にアプローチしていきました。

鈴木「まずはプロジェクトの目的と課題の理解に努め、解決に資する方法を提案していきました。例えば、膨大なデータを一つずつ検証していたプロセスに対し、迅速に問題の原因を特定する方法を発案。時間の大幅な短縮に貢献できたと、社員の皆さまに喜んでいただくことができました。インターンを通じて感じたのは、チームでプロジェクトにあたる姿勢は、研究室と同様だということです。コミュニケーションを重ね、認識のギャップなどを双方が埋めながら進めることが大切だと再認識できました」

博士課程人材の理論的裏付けが、現場の判断を加速させる

富士通側から現場に立ったのは、Employee Success本部の平野隆氏です。人事施策や制度の設計、組織変革プロジェクトの実践などを担当し、グループ全体の従業員の行動変容、エンゲージメント向上を目指しています。

平野「データを活用し、勘や経験に依存せず、エビデンスに基づきながらエンゲージメントを向上させることは、私たちの注力課題でした。そうした中、アドバイザーとして協力いただいていた村瀬准教授に助言をいただき、博士課程人材の知見を活用したいと導入したのが、今回のジョブ型インターンシップです」

平野隆氏(富士通株式会社 Employee Success本部 Engagement&Growth統括部 シニアマネージャー/EXデザイナー) 

平野隆氏(富士通株式会社 Employee Success本部 Engagement&Growth統括部 シニアマネージャー/EXデザイナー) 

インターンシップでは、プロジェクトマネジメントを担当した平野氏。行動データからのエンゲージメント分析など多くのシーンにおいて、鈴木さんの専門性が役立てられたと語ります。

平野「日々の行動データから従業員の心理・行動傾向を分析すべく、SaaSのサービスを試用していたのですが、得られるメトリックが250項目以上に及び、どういった観点でどのデータを活用すべきかや、インサイトに結び付けるロジックについて試行錯誤している状態でした。そこで鈴木さんに分析項目の整理を依頼したところ、私たちの目的に合った10の項目に絞ることに成功。チームメンバーが自ら分析・改善できるようになり、一気に実用性が高まりました。組織カルテやエンゲージメントサーベイ分析も同様で、組織行動論とデータ分析の両方に精通する鈴木さんの視点は、私たちだけでは得られないものでした」

企業実務で力を発揮する鈴木さんと接し、平野氏は博士課程人材の可能性を感じたといいます。

平野「研究室で訓練を積んだ博士課程人材の、データ分析の背景にある理論の強固さには驚かされました。学術論文を読み込み、立証された考えをクイックに提示してくれるので、私たち現場は議論や精査のプロセスを大幅にカットでき、生産性や精度を高められます。こうした専門知を、インターンシップという同じ空間で共有できたことで、チームの知見もアップデートされたと感じます」

組織開発を統括する立場としてインターンシップに関わったのが、Employee Success本部の野村哲也氏です。インターンシップを企画するにあたり、野村氏は参加者が直接データを扱う環境づくりにこだわったといいます。

野村「従来の短期型インターンシップでは、実際の社内データを参加者に提供することは稀でした。しかし今回のインターンシップは有償型で、労働契約も締結するため、扱える社内情報の幅も広がります。富士通はデータドリブン経営を重視しています。人事部門には我々組織開発チームがメインで扱うエンゲージメントサーベイの回答データに加え、社員の属性・勤怠・評価など各種人事データの他、近年では行動データなども取得できるようになり多種多様なデータがあります。ただ、それらのデータが活用され、分析結果に基づいた経営判断、意思決定ができているのかというとまだ多くの課題があります。その中でも特に行動データは、情報自体の処理が難解であり、人事も現場も活用しきれていなかった。専門的知見を備える博士課程学生が、社員と同じ本格的な業務を共にする点が、多くの実務的知見につながったのだと思います」

富士通株式会社 Employee Success本部 Engagement&Growth統括部 シニアディレクター 野村哲也氏

富士通株式会社 Employee Success本部 Engagement&Growth統括部 シニアディレクター 野村哲也氏

データ活用に主軸を置いた今回の博士課程インターンシップですが、社会科学系の鈴木さんだからこそ発揮できた力もあったと、野村氏は振り返ります。

野村「理工系でデータ自体を専門とする大学院生もいますし、データ関連人材は富士通社内にも多く在籍します。しかし大切なのは、データを分析するための知識やスキルだけでなく、そこから何を読み解き、仮説を導き、理論で裏付けしていくかです。複雑なデータを掛け合わせ、顕在化していなかった事実をデータで可視化していく際には、分析結果が持つ意味から仮説を導き、それを理論で裏付ける力が非常に重要になります。その点において、商学研究科で人事や組織行動論を学ぶ鈴木さんは、アカデミアの知識も豊富に備えていた。データに意味を持たせられるのは、社会科学系人材の強みだと思いました」

企業と大学のシームレスな連携が、次世代の人材を育てていく

博士課程人材を起用し、企業課題の解決を前進させた、今回のジョブ型インターンシップ。今後の社会には、博士課程人材の可能性がどのように広がっているのでしょうか。3人に語り合ってもらいました。

鈴木「今回のインターンで一番感じたのは、大学や研究室で習得してきたスキルが、実務でも活かせるという自信です。専門領域に深く向き合うアカデミアの環境で研究をしていると、世の中における自分のニーズは見えづらいもの。研究と実務では課題へのアプローチも異なることから、いざ協働するとギャップも生まれるだろうと懸念もありました。しかし、一つの大きな方針を共有されることで、博士課程人材の専門性は十分に貢献できることがわかりました」

野村「大学が新しい理論を構築し、企業がそれを世の中に実装していくのが、双方の本来的な役割です。しかし実際には、この役割分担が機能するケースが稀なのも事実。大学と企業の主な接点が『卒業⇒就職』など、限定的な接点しか持たないケースがまだまだ多い。それが原因の一つではないでしょうか。今回のインターンシップのように、大学と企業の垣根を取り払い、シームレスに連携する試みは、非常に有意義です。そして学生が、外のフィールドに出て自身の研究や培ってきたスキル・知識を活用することで得られた経験は、学生自身の成長や大学の人材育成はもちろんのこと、企業の成長にもプラスの効果をもたらします。博士課程人材も社会貢献性を認識できれば、やりがいを持って研究に打ち込めるでしょう。双方の交流は、社会全体の底上げ、好循環にもつながるのではないでしょうか」

平野「私自身、早稲田大学芸術学校の出身で、人間やアートの領域から現在は組織デザインにアプローチしています。近年は生成AIなどの発展により、仮説や推論のプロセスが機械化されています。しかしAIが提案した解に対し、判断を下すのは人間です。そこでは、これまで以上に人間の深層部分へと知見を掘り下げることが求められるでしょう。自然科学、社会科学のみならず、人文科学系の博士課程人材にも活躍の場が広がるかもしれません」

野村「これまでのビジネスでは、特定領域のスキルや専門性を高めることで、活躍できる側面が大きかった。しかし、今後はより複雑な関係性の中で、新たな価値を創出することが求められるため、特定の領域に閉じず多様なスキルや経験を掛け合わせることが求められます。大学で身につけた研究領域は、どんな分野でも必ず意味があるはずです。自分の研究分野やこれまで学んできた知識を武器に、外の世界で試行錯誤し、そこで得られた経験を糧にして更に自分自身の尖った部分を磨いていってもらいたいですね」

鈴木「今回は、富士通さんが挑戦的に5カ月という期間を設け、博士課程人材を迎えてくれたため、私も価値を提供するトライアンドエラーができました。今後、このような取り組みが広がり、自分の能力を存分に発揮できる博士課程人材が増えていくことを期待しています」

取材・撮影:Fujitsu Uvance Kawasaki Tower

取材・撮影:Fujitsu Uvance Kawasaki Tower

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