3年生の高橋祐雅さんと、日本学術振興会特別研究員ならびに本校非常勤講師の杉本海里先生が、2024年3月13日〜15日に沖縄産業支援センターで開催された電子情報通信学会メディアエクスペリエンス・バーチャル環境(MVE)研究会にて研究発表を行いました。研究タイトルは「チャットコミュニケーションにおけるメッセージ語尾の笑い文字は悲しさを低減させる」です。本成果は、本校の3年生が取り組む卒業論文の活動によって生み出されたものです。
本研究では、チャットコミュニケーションにおいて、笑い文字が悲しみ感情の推定と生起を抑制することが明らかになりました。笑い文字とは、メッセージの語尾にしばしば付与される「笑」や「w」などの文字のことであり、特にオンライン上のコミュニケーションで頻繁に利用されています。従来の研究では、顔文字や絵文字の感情伝達への影響は検討されてきましたが、笑い文字の影響を検討した研究はほとんどありませんでした。学院生33名を対象に実験を行い、統計的仮説検定の手法を用いてデータを解析した結果、悲しいメッセージの送受信環境において、受信者が推定した送信者の悲しみ感情の度合いと、受信者の悲しみ感情の生起の度合いが、笑い文字の付与によってそれぞれ抑制されることがわかりました。また、この抑制の効果が「笑」よりも「w」の方が強いことも明らかになりました。感情推定と感情生起をそれぞれ検討した点や、笑い文字の種類による効果量の差異を解明した点が、本研究のポイントです。
本成果は、ヒト同士のコミュニケーションの解明に寄与するだけでなく、ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(Human–Computer Interaction: HCI)分野への活用も期待されます。ヒトが接触するコンピュータは、ロボット、擬人化エージェント、対話型サービスなどさまざまです。これらのコンピュータが最も頻繁に出力するのが利用コストの低いテキスト情報であり、テキスト表現における情報伝達の最適化は工学領域における重要なテーマです。微妙なニュアンスを表現するためには、テキスト内容のみならず、語尾の文字やフォントなどを工夫する必要があり、笑い文字はその方法の1つとして有望であると考えられます。 本研究の今後の展開として、今回検討していない笑い文字の影響や、新規の無意味記号の影響、句点が喚起するネガティブ情動などを検討していく必要があるとしています。また、研究発表後の質疑応答では、人口統計学的な要因を踏まえた分析や、笑い文字が付与されるメッセージの性質の影響などについて、大学教授らと議論が交わされました。 ※本研究発表に伴い、下記のプロシーディングが出版されました。 高橋祐雅・杉本海里. (2024/03/06). [ショートペーパー] チャットコミュニケーションにおけるメッセージ語尾の笑い文字は悲しさを低減させる. 信学技報, MVE2023-108, 123(433), 356-357.