2021年度卒業設計 萩原賞
日本には多くの伝統工芸があるが、その多くが様々な社会的要因に伴って衰退していると言わざるを得ない。その中で今回は日本刺繍に焦点を当て、分析を行った。また、世界中に伝統刺繍が存在することがわかり、文様の発生や刺繍という装飾行為は世界各国で同時多発的に起こっていた。本計画は、世界の刺繍を5つの地域に分類し、刺繍の空間化を試みたものである。それぞれの伝統刺繍に対する領域性、境界性、表現方法、記号性、素材の5つの項目についての分析が空間を裏付ける。敷地は府中米軍基地跡。国分寺崖線と府中崖線に挟まれた土地で、明治期には桑畑が広がり、絹が盛んに作られていた。米軍から返還されて以降、現在も長く未利用のまま取り残されている。敷地全体の中で社会的、地域的背景に基づいた世界観を含めて反映させ、刺繍の持つ特徴そのものを建築化している。全体をつなぐ日本刺繍の基本の文様は、世界中で発生した文様という日常的な装飾行為が現代に至るまでに洗錬されたものであると考える。