Art and Architecture School早稲田大学 芸術学校

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「空洞3部作」再考 3/4

ディテール・モデルと建築のアンチ・ユートピア

鈴木了二(2007年度紀要AARRより)

今回制作したディテール・モデルは以下の5つである。

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モデル1:「ファサード」池田山の住宅

北側ファサードの大ガラスの下端を支える水平の型鋼とペアガラス、H型鋼の垂直の2本のマリオン、円柱などの断面などが断片的に見えるが、それぞれの縮尺を微妙に変え、各パーツの関係が部分へと矮小化されることなく、関係の強度がより強めるように作られている。

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モデル2:「階段」池田山の住宅

2階のピアノ・ノービレ(リヴィング・スペース)から1階へと降りる階段だが、そこは基壇をえぐり取って生じた「空洞」でもある。それぞれの関係性が視覚的に曖昧にならないように、各パーツはすべてほんのわずか離れている。

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モデル3:「階段」神宮前の住宅

2階から3階へと、基壇(大階段)が大きく折れ曲がる部分である。神宮前の住宅はこの階段自体が、「空洞」であり躯体なのである。どこか、物質試行39「バベルの図書館」(1998年)を思わせる単位である。

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モデル4:「階段」西麻布の住宅

2階からコンクリートの踊り場の床に至る鉄骨階段である。溝型鋼の梁、H型鋼を加工したT型の受け材、鉄の踏み板、溝型鋼の手すり、フラットバーの支柱、などによる。それぞれの断面に関しては忠実に作っているが、長さは大幅に圧縮しているので実物のプロポーションとはかなり異なる。構成部材がみな方向性を有する引き抜き材の断面を有するため、階段自体を形成する各パーツでさえ、お互いに今にもばらばらに離れていくようにも見える。

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モデル5:「ファサード」西麻布の住宅

南側のファサードである。このモデルは数種類の縮尺を、箇所によって選びながら使い分けている。しかし省略や抽象化はいささかもしていない。すべてのパーツが、水切りや押し縁などの機能を超えて、ちょうど古典のオーダーのなかにある建築の刳り形やピラスターのように、ファサードの表面に貢献して欲しいと考えながら設計した。微妙な幅と深さが生まれ、目地やスリットや水切りの影が離脱の感覚をどことなく呼び起こす。水平に置くと巨大な文明の遺跡のようにも見え、同時に、未来的ななにかのシステムのようにも見えるこのディテール・モデルに「空洞3部作」が向った方向が見える。

ディテール・モデルは以上の5つであったが共通した留意点が4つあった。個々のモデルの説明でも部分的に述べたことだが、まとめてここに要約しておく。というのもこの留意点こそが「空洞3部作」の核心に通じているように思われるからだ。  留意点の第1は、何をどこまで作るか、つまり、どこで各パーツを中断するかである。それぞれのパーツは、めいめい独自の力と方向と運動性を内包しているから、中断する箇所がみな同じ位置である必要はない。ディテール・モデルの目的はおそらく力の関係の抽出であり、作り足りなくても、また作り過ぎても、現実の存在と吊り合うようなバランス感覚は現れない。

留意点2は、縮尺である。ディテール・モデルを全体模型と同じように単一の縮尺で画一的に作ってしまうと、大抵、力の関係性が失われてしまうのか極めて貧弱なものにしかならない。そこは建築の全体模型と厳しく異なる点だ。したがって対象として選ばれた箇所の密度によって、各々のディテール・モデルが異なった縮尺を持つのはもちろんだが、ひとつのモデルのなかにおいても複数の縮尺が混在することになった。確かにデフォルメにはちがいないが、それはただ漫然と連続的に変形するのではなく、チャンネルをカチッと切り替えるように別の縮尺へと一挙に飛び移るのである。

留意点3は、精度である。ディテール・モデルの場合は、一定の精度を維持できなくなると、不細工に見える段階を通り越して、まるっきり見当違いのものに変わってしまう。それは物質の肌理を、模型として別の材料にスライドさせるとき、その代償として要求されるものかもしれない。なぜなら、本来の物性がザラザラであろうとスベスベであろうと、その実際の肌理とは無関係に精度が要求されるように思われたからだ。表面の荒れを模倣しても、ほとんどキッチュにしかならい。ディテール・モデルの表面は、ともあれ、かなりの精度で平滑でなければならない。これもまた全体模型とは異なる留意すべき点だ。

留意点4は、単なる3次元的な説明に終わらせず、形態的にもプロポーション的にも、それ自体として自立するものに成りえているかを判断基準とした。実物の関係の強度を維持しつつ、それ自体としては建築の全体模型のようにも見えること、あるは装置のような、家具のようなものに見えること、そのあたりがディテール・モデルとして認め得る基準であった。

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