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特集|カーボンニュートラルなキャンパスを目指して Vol.2
Mon 02 Nov 26
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特集|カーボンニュートラルなキャンパスを目指して Vol.2
2021年に発出した「カーボンニュートラル宣言」以降、早稲田大学では2032年の創立150周年に向け、キャンパスカーボンニュートラル化の実現を含む社会課題の解決に向けたさまざまな挑戦を進めている。
本特集では、学生、大学、企業が連携する先駆的な事例を通じて、本学の取り組みを複数回にわたり紹介する。
第2弾となる今回は、2026年7月28日(火)に実施した、期末試験日のシフトによる夏季電力需要のピークカット実験(以下、「テストDR」)の結果を検証する。実験から見えてきた大学キャンパスにおける「行動変容型デマンドレスポンス」の可能性と、実装に向けた課題について、企業・大学それぞれの視点から考える。
期末試験日をシフトした授業(西早稲田キャンパス52号館)
ピークカット実験、その結果は?
2026年7月28日(火)早稲田大学西早稲田キャンパスにおいて実施した、テストDR(電力需要のピークカット実験)の結果について、本プロジェクト参画者である、東京電力ホールディングス㈱経営技術戦略研究所技術開発部・米田亮介様、本学スマート社会技術融合研究機構 副事務局長・本庄昇一、本学総務部環境安全担当課長 兼 ミッションオリエンテッド研究教育センター調査役・高橋知裕の三名に聞いた。
西早稲田キャンパス52号館にて。本庄副事務局長(写真左)と米田研究員(写真右)
―今回の実験について、どのように評価していますか。
(米田)
まず、大学の教室で電気を消費するものとして、1)空調、2)照明、3)換気、4)PCなどのOAコンセント機器、に大別されます。実験会場となった西早稲田キャンパス52号館204教室において、7/28にこれらの機器が使用した電力=電力消費量は、実計測および一部想定値から「約10kW」と確認できました。つまり、電力消費量が高くなることが予想されていた7/21の試験を7/28に移動させたことで、7/21に出るはずだった電力ピークを約10kW分カットすることができたと言えます。
同教室は定員約200人の広さですから、「西早稲田キャンパスの全教室の、一時限分」に同様のことを実施すると仮定した場合、約390kWの電力需要の削減が推計できます。これによって年間最大需要を抑えられた場合、今年度の当社のベーシックプラン契約の金額で算定すると、年間基本料金として約1,000万円の節約を見込むことができます。
(高橋)
試験の実施時期を工夫することで、教育活動への影響を抑えながら電力需要のピークを動かせる可能性が確認できたこと、それが具体的な数値として見えたことに、非常に意義を感じています。とはいえ、実際に一番電力需要が高かったのは予想していた7/21ではなく7/22でしたので、ピークカットによって来年の電力基本料金を下げること自体は叶いませんでしたね。
最大電力需要が最も多くなる日を予想し、対策した上で、ピークカットすることができれば、翌年の契約電力(=基本料金)を減らすことができる。逆に30分単位で記録される最大電力需要が赤点線のラインを越えてしまうと、翌年はその値を元に契約電力を協議することとなる。
大学キャンパスだからこその「行動変容型デマンドレスポンス」
―電力会社にとって、今回の実験にはどのような意義がありますか。
(米田)
料金収入という観点から言えば、どんどん電気を使っていただきたいわけですが(笑)、TEPCOグループ全体としては、需給安定化、高価格な卸電力市場からの調達回避、カーボンニュートラルへの貢献という観点から、ピークカットを積極的に推進しています。私たちは、最大電力需要に合わせて発電所や送配電設備を備えておく必要がありますが、そのような設備投資を抑制できることもメリットとして考えています。
「ピークカットは、電力の需給安定化やカーボンニュートラルへの貢献にもつながる」と話す米田研究員
―大学にとって、今回の実験結果をどう考えますか。
(本庄)
冒頭、米田さんがおっしゃったように、大学の教室には複数の負荷があるため事前に消費電力量を見積ることは困難でした。その点で、今回、一教室でどのぐらい電力を使用しているかを把握できた初めての例と言えます。また、西早稲田キャンパス全体に広げた仮定での390kWという数字は想定以上に大きいという印象でした。この推計は教室だけを対象とした数値ですので、研究活動に関わる部屋や実験設備なども日時調整や行動変容によって協力が得られれば、さらに削減量を大きくする余地があるかもしれません。
(米田)
そうですね。一般企業などと異なり大学では、空調や照明の一時停止、工場での生産計画変更、蓄電池の活用などの、従来型の調整(デマンドレスポンス:DR)は難しいと思います。授業や試験日程変更など、学生や教職員の皆さんの行動に依存する「行動変容型DR」が効果を発するところに特徴があり、今回の実験は、その初めての取り組みと言えるかもしれません。
(高橋)
おっしゃる通りで、大学は一般的なオフィスに比べて複雑さがあります。教室・研究室、実験設備、図書館、共用空間、食堂、運動施設など、性質の異なる施設があり、利用時間や電力負荷も一定ではありません。そのため、全学で一律に同様に運用を呼びかけることが難しく、施設用途によって対策が異なってしまうのは大学ならではの苦労ですね。だからこそ「行動変容型DR」には期待するところでもあります。
学生もいつの間にかDRに参加している、そんな未来へ
―今回の結果や前回紹介した学生アンケートを踏まえ、今後はどのような取り組みが考えられるでしょうか。
(米田)
一部オンライン化への賛成が多かったことについて納得の結果でした。試験を1週間後ろ倒しにする案については、試験集中の緩和という利点と、夏季休暇の短縮という欠点があるため賛否が分かれますね。
(本庄)
試験日程については、後ろ倒しにするのではなく、暑い昼間だけを避けて、朝夕に時間をずらすのも良いかもしれませんね。研究者側としては、電力消費ピーク予測の精度を上げて対象日や時間を絞ることで、学生、教職員のみなさんからの協力を得やすくできればと思います。気象条件が大きな要因となりますが、連続猛暑なども含めて機械学習を活用し、ピーク日時をより正確に予測する手法の開発を進めていきます。
(高橋)
ピーク予測の精度が上がれば、ピーク前に予冷を行った上で、ピークのタイミングでは空調を停止したり抑制したりすることで、学生への負担を最小化しつつ、使用電力量を抑制できるかもしれません。また、いくつかの試験科目や自習室をひとつの大教室や建物に集めることでの効果検証もできると良いですね。DRは複数の要因が複雑に影響してきますので、今回の結果だけで効果を一般化するのではなく、同条件での比較や複数年度の検証が必要だと考えています。いずれにしても、学生と教職員の協力が必要なので、理解を得られるように準備を進めていきたいと思います。
「電力消費ピークの日時をより正確に予測する手法の開発を進めていきたい」と話す本庄副事務局長
―学生がカーボンニュートラルなキャンパスづくりに主体的に参加するための取り組みも進んでいるのでしょうか。
(米田)
連携活動の一環でもあるのですが、早稲田大学の学生を対象として、キャンパスのカーボンニュートラル化に資する提案を募るアイデアコンペを実施しています。今年で3回目になりますが、今回は具体的かつ実装可能な提案を要件としており、私たちが思いつかないような面白いアイデアが沢山出てくることを楽しみにしています。そのようなアイデアを、実証できたら非常に面白いですよね。
(高橋)
最終審査となるプレゼンテーションは11月14日に予定されているので、楽しみですね。
(本庄)
カーボンニュートラルのような、やや実生活と離れた取り組みには、学生が嫌々協力するのではなく、自発的に参加したいと思えるモチベーションやインセンティブを設計する必要があると考えています。
(高橋)
早稲田大学カーボンニュートラル社会研究教育センターでは、カーボンニュートラル社会の実現に向け、理工系だけでなく、人文・社会科学を含む幅広い分野の研究者が連携し、文理融合で研究を進めています。今回のような取り組みについても、行動経済学などの研究者と連携し、どのような見せ方や伝え方が学生の行動変容につながるのかという観点から研究が発展していく可能性もあると考えています。
省エネだけではない、大学ならではのエネルギー管理
―大学運営におけるエネルギー管理の課題にはどのようなものがあるでしょうか。
(高橋)
最も難しいことは、「省エネ・コスト抑制」と「教育研究環境の質」と「安全性」を同時に確保することです。単純に電力使用量削減だけを目的にすることは、適切ではありません。どれかに偏ると、他の何かが増えたりします。そのバランスを見極めることが難しいですね。とはいえ、できるところから、たとえばカーボンフリー電力の導入率を上げたり、モニタリングしている電力データを活用した最適制御システムを導入したり、建て替え時に高効率な空調・熱源設備への更新を働きかけたりするなど、今回の実験を最初の一歩として、進めていきたいと考えています。
「学生や教職員の負担を最小限にしながら、電力需要を抑制する方法を検討していきたい」と話す高橋課長
最終回となる次回は、東京電力と本学が一丸となって挑戦する、大学キャンパスを実証の場とした文理融合研究による社会課題解決の取り組みについてご紹介します。

