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特集Feature Vol.24-2  国を超え、社会を映すシェイクスピアのアダプテーション:英国バーミンガム大学との共同研究(全3回配信)

シェイクスピア研究者(視覚表象研究)
冬木 ひろみ(ふゆき ひろみ)/文学学術院(文学部)教授

シェイクスピア研究者(受容研究)
本山 哲人(もとやま てつひと)/法学学術院(法学部)教授

映画・文学研究者(シェイクスピアのアダプテーション研究)
森田 典正(もりた のりまさ)/国際学術院(国際教養学部)教授

バーミンガム大学シェイクスピア研究所との共同研究と若手育成

英国バーミンガム大学との大学間研究連携合意(2016年3月)に基づき、「早稲田大学国際研究プロジェクト創出支援プログラム」の下、国際学術院・森田典正教授、文学学術院・冬木ひろみ教授、法学学術院・本山哲人教授らのチームはシェイクスピア研究所(バーミンガム大学付属大学院)と共同研究を続けています。第2回は、早稲田大学で進められているシェイクスピア研究の魅力、バーミンガム大学との連携活動と若手への波及について伺いました。(鼎談日:2020年8月26日)

バーミンガム大学との連携

森田 双方の大学が各々研究資金を拠出するという形で進められている点において、本連携は非常に画期的な取り組みです。2015年にバーミンガム大学のマイケル・ウィットビー副学長から提案をいただいたところから、実質的な研究連携に実現に向けた検討が始まりました。シェイクスピア研究・演劇研究のみならず、計算機科学/認知ロボティクス、スポーツ科学、言語学も含めた4分野で始まり、その後、映画産業、途上国教育、環境科学、都市計画・デザイン、言語教育、国際労働移動、社会福祉、創作など非常に幅広く展開しています。その中でも、バーミンガム大学の宝ともいえるシェイクスピア研究で連携できていることは、非常に光栄なことです。

冬木 森田先生が当時、国際担当理事として意欲的に動いてくださったこと、さらにシェイクスピア研究所側のキーパーソンとして所長のマイケル・ドブソン先生がいて下さったことも大きいですね。ドブソン先生は、英国はもとより、言語、文化、国を超えてシェイクスピア作品がどのように上演されているかを研究されている、優れた知識・理解をお持ちの方です。早稲田との連携の話が持ち上がるまで日本にいらしたことがなかったそうですが、初来日以来、何度も早稲田に足を運んでくださっています。

ドブソン先生が「シェイクスピア、ローマ、一回性:バーべッジから蜷川まで」というタイトルで
講演されたときの広報用チラシ(2016年11月29日、早稲田大学)

森田 一方の早稲田には演劇博物館(早稲田大学坪内博士記念演劇博物館)があります。坪内逍遙の古稀と『シェークスピヤ全集』全40巻の翻訳が完成したのを記念して設立され、現在では百万点を超える収蔵品を有するアジアで唯一、世界でも有数の演劇専門総合博物館です。シェイクスピアに限らず、演劇博物館のコレクションをもとにした研究やデジタルアーカイヴス化とその公開などが精力的に行われています。

早稲田大学坪内博士記念演劇博物館。シェイクスピアが活躍した17世紀英国の劇場「フォーチュン座」を模している
(新宿区指定有形文化財)(早稲田大学坪内博士記念演劇博物館提供)

本山 演劇博物館の保有する豊富な資料は最大の魅力だと思いますが、早稲田の研究者の幅広さもまた、連携を継続するにあたっては重要な要素になっていると思います。ロンドン・バービカン劇場での蜷川幸雄追悼公演に合わせ、2017年10月にシェイクスピア研究所で開催された講演会では、文学学術院教授/演劇博物館副館長の児玉竜一先生が、ご自身の専門である歌舞伎の視点からシェイクスピアについて講演されました。講演会の翌日に在英国日本国大使館で開催されたシンポジウム「蜷川シェイクスピアをめぐって」(主催:早稲田大学演劇博物館、バーミンガム大学シェイクスピア研究所、共催:早稲田大学SGU国際日本学拠点演劇映像学連携拠点、在英国日本国大使館、国際交流基金)では、『NINAGAWA・マクベス』の魔女を演じた歌舞伎役者の中村京蔵氏と児玉先生により、日本の伝統演劇とシェイクスピアとの接点をめぐる興味深い対談も行われ、大きな反響がありました。

児玉先生による講演の様子

歌舞伎役者の中村京蔵氏

シンポジウムには(左)ドブソン先生、(左から2番目)英国演劇界を代表する劇評家のマイケル・ビリントン氏、(右から2番目)来日公演でも話題を呼んだ新進気鋭の演出家フィリップ・ブリーン氏、(右)バーミンガム大学大学院のロザリンド・フィールディングさんなど、錚々たるメンバーが登壇し、蜷川幸雄の成果と英国への影響などについて多角的な討論が行われた

本山 2020年3月にやはりシェイクスピア研究所で開催されたシンポジウムでは、法学部准教授で19世紀英国の詩を専門とされている鈴木理恵子先生がジョージ・エリオットとシェイクスピアについて講演しています。19世紀の文学を専門とする教育学術院教授の木村晶子先生、国際教養学術院教授のグレアム・ロー先生などもこのシンポジウムに関心を寄せてくださいました。シェイクスピアを専門としていなくとも、各々の専門の視点からシェイクスピアを題材として議論し、新たな共通のテーマを見出していける、という早稲田の人文学系の強みがあるのではないかと思います。

本山先生の講演の様子

冬木 先ほどの蜷川追悼公演に関連したこととして、蜷川は従来から歌舞伎役者を多く使っていましたが、特に、『マクベス』の魔女役を女形が演じる、という配役には感動を覚えました。魔女は16-17世紀当時「男女」といわれており、日本語では魔「女」なのですが、英語では「Witch」であり、性別はありません。シェイクスピアの戯曲にも「ヒゲがあるようだ」というようなセリフがあります。男性である歌舞伎役者が女性の着物を着て演じるということが、日本において魔女をこの上なくうまく表現しているようで、非常に興味深いです。

森田 『マクベス』といえば、2018年11月に早稲田で開催したバーミンガム大学デーでの実演は素晴らしかったですね。狂言師の野村萬斎氏が日本語でマクベスを、元ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの役者で現在は自閉症の若者を演劇で支援する活動を主催しているケリー・ハンター氏が英語でマクベス夫人を演じられたのですが、ほとんど前打合せがなかったにも関わらず、お互いに阿吽の呼吸で演じ切りました。野村氏のセリフ回しには狂言で培われた心地よいリズムがあり、また、シェイクスピア演劇経験者同士に通じる間の取り方があったのかもしれません。このような映像も、シェイクスピア研究のアーカイヴスのひとつとして、広く公開できればと考えています。

(左)ケリー・ハンター氏と(右)野村萬斎氏による日英が混在した『マクベス』の実演

若手研究者の育成

本山 2018年のバーミンガム大学デーを契機として、当時演劇博物館助手(現、招聘研究員)の飛田勘文さんとハンター氏との共同研究が行われることになりました。彼女が英国で用いている手法を、日本の自閉症の若者との関わりにも取り入れてみよう、という研究で、すでに論文としてまとめられています(飛田勘文、「自閉症の若者のためのシェイクスピア劇:その創作方法と可能性について」、日本芸術療法学会誌、50(1)、p.44-54、2019)。

冬木 大学院の学生についても、2017年1月にシェイクスピア研究所と共催した学会「Shakespeare. Film. East. West」での口頭発表をベースにした原稿がオンラインジャーナル『Teaching Shalespeare 13』(British Shakespeare Association、2017)に掲載されたり、シェイクスピア研究所が年1回開催している院生中心の学会「British Graduate Shakespeare Conference」で発表する機会をいただいたりと、海外の学生に混ざって発信する機会が各段に増えています。実際に海外に出てみることで、海外の大学院生がどのような視点、どのようなレベルで研究を進めているかを肌で感じることができますから、この連携は教育面でも大きな力になっていますね。

シェイクスピア研究所British Graduate Shakespeare Conferenceでの発表の様子
(一番左で発表しているのが、本学国際コミュニケーション研究科博士課程の加藤健太さん)

本山 バーミンガム大学で日本の翻訳や上演に興味を持った学生と新しい交流が生まれるなど、先方の若手が日本のシェイクスピアに興味を持つ機会にもなっています。

森田 課題のひとつとしては、シェイクスピアに限らず文学の研究者自体が世界中でかなり減っているということですね。国を超え、すそ野を広げて共同研究を進めることで、他の分野の若手研究者がシェイクスピア研究に興味をもち、参入してくれると嬉しいですね。我々の取組みが、広い意味で、シェイクスピア研究を活性化する起爆剤になればと願っています。

次回は、今後の連携や、実演を含む研究活動について伺います。

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バーミンガム大学との連携イベント一覧
日付 場所 内容
2016/11/29 早稲田大学(主催:文学学術院、演劇博物館) マイケル・ドブソン教授(シェイクスピア研究所所長)講演会「シェイクスピア、ローマ、一回性:バーべッジから蜷川まで」
2017/1/21-22 早稲田大学(主催:文学学術院、演劇博物館) ラッセル・ジャクソン名誉教授(バーミンガム大学)講演会「ぎらついた罪の手―戦後のハムレット3映画における政治腐敗との闘い―」

国際学会「シェイクスピアの映画―東洋と西洋」

2017/10/5 バーミンガム大学 児玉竜一教授らによる講演会「蜷川マクベス&日本の古典演劇」
2017/10/6 在英国日本国大使館(主催:演劇博物館、バーミンガム大学シェイクスピア研究所) 国際シンポジウム「蜷川シェイクスピアをめぐって」
2018/11/26-27 早稲田大学(主催:文学学術院、バーミンガム大学シェイクスピア研究所) 早稲田大学におけるバーミンガム・デー(国際シンポジウム「現代のシェイクスピアの翻案と上演をめぐって」、ティファニー・スターン教授講演会「シェイクスピアの時代の悲劇とパフォーマンス」)
2020/3/5 バーミンガム大学 国際シンポジウム「英語圏と日本におけるシェイクスピアの小説化」
関連情報
プロフィール

冬木 ひろみ(ふゆき ひろみ)
早稲田大学大学院文学研究科修了。早稲田大学文学部助手、非常勤講師、東京工業大学非常勤講師、拓殖大学政経学部専任講師、早稲田大学文学部専任講師、准教授を経て、2011年から現職。研究教育の傍ら、早稲田大学研究推進部副部長も務める。出版物に『近代人文学はいかに形成されたか』(分担執筆、勉誠出版、2019年)、『シェイクスピアの広がる世界-時代・媒体を超えて「見る」テクスト』(本山先生との共編著、彩流社、2011年)、『ことばと文化のシェイクスピア』(編書、早稲田大学出版部、2007年)など。日本シェイクスピア協会委員。

 

本山 哲人(もとやま てつひと)
バーミンガム大学シェイクスピア研究所修士課程、国際基督教大学大学院比較文化研究科博士課程修了。博士(学術)。早稲田大学法学部専任講師、准教授を経て、2016年から現職。出版物に“The Shakespeare Company Japan and Regional Self-Fashioning” (今野史昭との共著、Bard Bites、Edgar Elgar出版、2021年刊行予定)、『シェイクスピアの広がる世界-時代・媒体を超えて「見る」テクスト』(冬木先生との共編著、彩流社、2011年)など。

 

 

森田 典正(もりた のりまさ)
早稲田大学大学院文学研究科修士課程、ケント大学大学院英米・英語圏文学研究科博士課程修了。英文学博士。早稲田大学法学部非常勤講師、専任講師、助教授、教授を経て、2004年から現職。早稲田大学国際学術院長、同大国際担当理事や、国際日本学会理事などを歴任。著書に『Japan Beyond Borders』(Seibunsha、2020年)、『マージナリア』(共著、音羽書房鶴見書店、1993年)、翻訳に『近代とホロコースト』(筑摩書房、2020年)、『リキッド・モダニティ』(大月書店、2001年)、『ポストモダニズムの幻想』(大月書店、1998年)など多数。

鼎談場所

本鼎談は早稲田キャンパス8号館で行われました。また、撮影場所として早稲田大学坪内博士記念演劇博物館にもご協力いただきました。

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