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特集Feature Vol.24-3  国を超え、社会を映すシェイクスピアのアダプテーション:英国バーミンガム大学との共同研究(全3回配信)

シェイクスピア研究者(視覚表象研究)
冬木 ひろみ(ふゆき ひろみ)/文学学術院(文学部)教授

シェイクスピア研究者(受容研究)
本山 哲人(もとやま てつひと)/法学学術院(法学部)教授

映画・文学研究者(シェイクスピアのアダプテーション研究)
森田 典正(もりた のりまさ)/国際学術院(国際教養学部)教授

早稲田におけるシェイクスピア研究の未来

英国バーミンガム大学との大学間研究連携合意(2016年3月)に基づき、「早稲田大学国際研究プロジェクト創出支援プログラム」の下、国際学術院・森田典正教授、文学学術院・冬木ひろみ教授、法学学術院・本山哲人教授らのチームはシェイクスピア研究所(バーミンガム大学付属大学院)と共同研究を続けています。第3回は、今後の予定や展望について伺いました。(鼎談日:2020年8月26日)

バーミンガム大学シェイクスピア研究所との今後の連携

森田 これまで、早稲田とバーミンガムとで交互にシンポジウムを開催してきました。直近ではバーミンガムでの開催でしたので、来年度は夏~秋頃に早稲田で開催する予定です。連携開始当初からの共通軸として「アダプテーション」を掲げており、学会やシンポジウム開催の際には、毎回対象テーマを設定してきました。初回は「映画」、次に「上演」、3回目の今年が「小説」でした。そして来年は「翻訳」をテーマとする計画を立てています。

本山 ロンドン大学群のカレッジのひとつであり舞台芸術部門で定評のあるロイヤルホロウェイで講師をしていたジェシカ・チバ(Jessica Chiba)先生が、英国の大規模助成団体であるLeverhulme Trust(リーヴァーヒューム・トラスト)の Early Career Fellowshipとしてシェイクスピア研究所と早稲田との連携活動に参画することになりました。チバ先生は特に日本語への翻訳論を用いて、シェイクスピア作品にみられる文化的規範や哲学的な問題を明らかにしようと考えていますので、これをベースにテーマを膨らませる予定です。例えば、翻訳を読むことでテクスト研究にどのような新しい視点が入ってくるか、翻訳論を意識することでどのような新しい上演ができるのか、エンブレムと翻訳論の関係などでしょうか。早稲田のみならず海外の学生からも参加を募りたいと考えています。

冬木 両校とも、各々の国における演劇の歴史を背負っている自負を持っていますから、その視点も大事にしていきたいと思っています。2021年は5年ごとに開催される国際シェイクスピア学会(11th World Shakespeare Congress; Shakespeare Circuits)がシンガポールで行われます。ドブソン先生がオーガナイザーを務められる「Stratford in Asia, Asia in Stratford」と題したパネルに私も登壇する予定です。同じ日本人の演出によるシェイクスピア劇でも、日本語で日本人が演じる場合と、英語でネイティブの役者が演じる場合とでは、観客の受ける印象が異なるのは当然ではありますが、それぞれの理解の齟齬により、時折厳しい劇評に直面することもあります。この学会では、文化的な受け止め方の違いや翻訳による影響、逆に非英語圏の役者が英語で演じようとしたときに表出する問題点などについて、議論できればと考えています。

5年に1回開催される国際シェイクスピア学会2021のウェブサイト

森田 国際シェイクスピア学会はその名の通り、世界中からシェイクスピアに関する研究者が集まる場で、発表する機会すら得るのが難しい高名な学会です。そこに、早稲田とバーミンガム大の共同研究の成果をもって、ドブソン先生のパネルに登壇できることは、大変名誉なことです。

さらに2022年以降の話になりますが、共同研究のテーマを、漫画やアニメなどのマルチメディアにも展開できればと考えています。また、これまでも実施してきたように、学術的な議論と実演を重ね合わせながら共同研究を推進していきたいですね。批判を恐れず言うと、演劇は「猥雑」なものです。それゆえに、たとえ歌舞伎や狂言などの伝統芸能と言われるものであっても、その文献研究や歴史研究は学問の対象とされ、現代の上演研究はされないこともあります。いわんや小劇場演劇をや、です。

早稲田大学におけるシェイクスピア研究の展望

冬木 私も学術的研究と実践の両輪が重要であるという認識を持っています。2016年のシェイクスピア没後400周年記念イベント以降、毎年、学生を公募で募ってリーディング公演を企画・上演しています。早稲田は、演出家の鈴木忠志がかつて拠点としていた早稲田小劇場どらま館を擁していますので、学生による実践の場があるのです。シェイクスピアはあくまでも戯曲ですから、上演されてこそ、という思いがあります。私自身、大学1年生の時に初めて小劇場で『ヘンリー六世』の上演を観て衝撃を受けたのが、シェイクスピアを専門とするようになったきっかけです。背景も何もない舞台、衣装はジーンズ、紙やアルミ箔で作ったような小道具、というものでしたが、至近距離の迫力と、文字では難解な時代劇だった内容が、まるで現代のことを言っているかのように感じられ、数々の言葉が胸に突き刺さりました。それ以降、多くの舞台を観るようになり、作品研究を経て現在に至ります。戯曲から立ち上がって舞台になってこそ、すべてを包含したシェイクスピアの言葉が活きてくるのだという実感を持っています。また、森田先生のおっしゃる「猥雑」ということも全く同感でして、教養や上品などとは程遠い部分がシェイクスピアにもかなり多いのは確かです。ですので、舞台とテクストが不即不離の関係にあるシェイクスピアを研究する際には、テクスト中心の小説や詩の研究とは異なる視点が必要になるのではないかと考えています。

2016年度公演『ヴェニスの商人』の一場面(演出:文学座 西川信廣氏)。リーディング公演のため、仮面をつけ、テクストを手に持って演じるという形をとっている。毎回、学生の必死の稽古により、かなりレベルの高い舞台となり、全ステージ満席になる盛況ぶり。
2017年度『コリオレーナス』、2018年度『マクベス』、2019年度『ロミオとジュリエット』と、挑戦を続けている

本山 私の場合は冬木先生とは違い、半ば強引にシェイクスピアを卒論のテーマとさせられたのが、この道に入るきっかけでした。その後、舞台を観るうちに、解釈の多様性に惹きつけられるようになりましたので、冬木先生と同じく、上演されてこそのシェイクスピア、という意識があります。私は現在、法学部でもシェイクスピアの授業を教えていますが、授業での「読書」を通して理解した作品と、戯曲として本領を発揮した「舞台」作品との違いを知ってもらうために、学期ごとに学生を劇場に連れて行き、シェイクスピア演劇に触れる機会を作っています。このような教育の場も、シェイクスピアが読者にどう理解されているかを考える事例のひとつとして、受容性について考えていきたいですね。

森田 学生による演劇活動は日本も盛んですが、海外のように教員・研究者が関わることは多くありません。研究者も実践してみないと実感できないことが多々あるでしょう。学術的ではないとの批判もあるかもしれませんが、実際の上演、役者・演出家などによる実践も広く対象として取り入れ、研究を進めるスタイルは、早稲田ならではの手法として持ち続けていきたいですね。

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関連情報
プロフィール

冬木 ひろみ(ふゆき ひろみ)
早稲田大学大学院文学研究科修了。早稲田大学文学部助手、非常勤講師、東京工業大学非常勤講師、拓殖大学政経学部専任講師、早稲田大学文学部専任講師、准教授を経て、2011年から現職。研究教育の傍ら、早稲田大学研究推進部副部長も務める。出版物に『近代人文学はいかに形成されたか』(分担執筆、勉誠出版、2019年)、『シェイクスピアの広がる世界-時代・媒体を超えて「見る」テクスト』(本山先生との共編著、彩流社、2011年)、『ことばと文化のシェイクスピア』(編書、早稲田大学出版部、2007年)など。日本シェイクスピア協会委員。

 

本山 哲人(もとやま てつひと)
バーミンガム大学シェイクスピア研究所修士課程、国際基督教大学大学院比較文化研究科博士課程修了。博士(学術)。早稲田大学法学部専任講師、准教授を経て、2016年から現職。出版物に“The Shakespeare Company Japan and Regional Self-Fashioning” (今野史昭との共著、Bard Bites、Edgar Elgar出版、2021年刊行予定)、『シェイクスピアの広がる世界-時代・媒体を超えて「見る」テクスト』(冬木先生との共編著、彩流社、2011年)など。

 

 

森田 典正(もりた のりまさ)
早稲田大学大学院文学研究科修士課程、ケント大学大学院英米・英語圏文学研究科博士課程修了。英文学博士。早稲田大学法学部非常勤講師、専任講師、助教授、教授を経て、2004年から現職。早稲田大学国際学術院長、同大国際担当理事や、国際日本学会理事などを歴任。著書に『Japan Beyond Borders』(Seibunsha、2020年)、『マージナリア』(共著、音羽書房鶴見書店、1993年)、翻訳に『近代とホロコースト』(筑摩書房、2020年)、『リキッド・モダニティ』(大月書店、2001年)、『ポストモダニズムの幻想』(大月書店、1998年)など多数。

鼎談場所

本鼎談は早稲田キャンパス8号館で行われました。また、撮影場所として早稲田大学坪内博士記念演劇博物館にもご協力いただきました。

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