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留学が広げた、キャリアと人生の選択肢
卒業生3人が語る、「世界に踏み出した、その先」
Tue 03 Nov 26
卒業生3人が語る、「世界に踏み出した、その先」
Tue 03 Nov 26
「留学には興味がある。でも、語学力に自信がない」
「時間や費用をかけるだけの価値があるのだろうか」
「留学しても、就職活動で語れるような経験ができるとは限らない」
留学を考え始めたとき、このような迷いや不安を抱く学生は少なくない。一方で、「ガクチカになるから」「就職活動で有利になりそうだから」と、キャリアへの効果を期待する学生もいる。では、実際に留学を経験し、社会で働く卒業生たちは、その経験をどのように振り返るのだろうか。
早稲田大学留学センターは、留学フェアの関連企画として、パネルディスカッション「留学、その先へ。~留学を経験した卒業生のキャリアストーリー~」を2026年10月に開催した。登壇したのは、社会科学部卒業の平澤友華さん、文化構想学部卒業の楠寛乃さん、法学部卒業の升本大輝さん。司会は、文化構想学部在学中にマレーシアへ留学した、留学センター職員の清水美沙さんが務めた。
会場に集まったのは、これから留学したい学生だけではない。就職活動中の学生、すでに留学から帰国した学生、海外で長く暮らした経験を持つ学生など、背景も現在地もさまざまだ。そこで語られたのは、「留学すれば成功する」という単純な物語ではなかった。知らない環境で戸惑い、失敗し、ときには「帰りたい」と思いながら、それでも自分なりに次の一歩を選ぶ。その経験が、卒業後のキャリアや人生の可能性をどのように広げたのか。
3人の卒業生が、それぞれの記憶をたどりながら、等身大の言葉を紡いだ。
英語だけが目的ではなかった。それぞれの「行ってみたい」
平澤さんは、アメリカのアラスカ大学フェアバンクス校へ留学した。幼少期にアメリカで暮らした経験がありながら、帰国後に英語を忘れてしまったことへ苦手意識を持っていた。それを克服したいと考えたことが、留学を決意した理由の一つだった。当時スキーサークルに所属していたことから、好きなスポーツを通じて現地で友人をつくれるのではないかと考えた。さらに、せっかく行くなら「面白そうな場所」を選びたい。そうして決めたのが、アラスカだった。

楠さんが選んだのは、スペインのサラマンカ大学である。目的は英語の習得ではなく、関心を持っていた文化人類学を、海外での生活やフィールドワークを通じて学ぶことだった。西洋絵画や文化への関心があり、食事がおいしい土地で暮らしてみたいという思いもあった。将来性がありそうな言語を優先するのではなく、「自分が体験してみたいこと」を起点に、非英語圏のスペインを選んだ。

升本さんは、アメリカのカリフォルニア大学アーバイン校へ留学した。英語を学ぶことに加え、本場でスポーツビジネスを学びたいという目的があった。現地では、大学のスポーツイベントでスタッフを務めたほか、大学選手の能力を評価し、プロ球団へ推薦する活動などにも関わった。スポーツという自分の関心を入り口に、教室の外へと活動の場を広げていった。

司会の清水さんにとって、留学は最初から実現可能な選択肢だったわけではない。家族から留学に反対され、「行くなら自力で」と言われていた。それでも情報を得ようと留学フェアへ足を運び、奨学金を利用してASEAN諸国へ留学できるプログラムを知ったことから、マレーシアのマラヤ大学への道が開けた。

留学先も、そこへ向かった理由もそれぞれ異なる。
共通していたのは、「就職活動で有利になりそうな留学」を逆算したのではなく、自分の関心や苦手意識、「やってみたい」という気持ちから選んでいたことである。
「もう帰りたい」から始まったアラスカ生活
留学生活は、華やかな経験ばかりではない。
平澤さんはアラスカ到着直後、現地の新入生とともに、トイレもシャワーもない環境で3日間を過ごすキャンプに参加した。ラフティングなどに取り組みながら現地の学生と過ごしたものの、相手が話す英語にほとんど反応できなかった。
話している内容は、決して難しいものではない。それでも気の利いた返事が出てこない。受験勉強で英語を学んできたはずなのに、実際の会話では言葉が出ず、帰宅後、家族に泣きながら「帰りたい」と電話したという。
授業でのプレゼンテーションや質疑応答でも、言葉に詰まることがあった。それでも、予習と復習に人一倍取り組み、授業後には教員へ質問した。会話中に言えなかった表現を覚えておき、後から調べ、次の機会には実際に使ってみる。そうした試行錯誤を積み重ねた。
「アラスカで一人、1年間を乗り越えられた経験があるので、仕事で何かあっても、まあ何とかなると思えます」
冬には気温が氷点下30度から40度に達することもある土地で生活した経験は、卒業後も、未知の状況を必要以上に恐れない姿勢につながっている。
語学が十分でなくても、飛び込んだ先で学べる
楠さんも、十分にスペイン語を話せないまま現地生活を始めた。シェアハウスに入居すると、同居人はブラジル出身者ばかり。言葉も生活習慣も異なる環境で、それまでの自分なら選ばなかったような過ごし方や価値観に触れた。
「うまく話せないまま飛び込んでも、生活することはできました。何でも、やってみれば意外と何とかなる。その経験は大きかったと思います」
卒業後、楠さんは日系自動車メーカーに入社した。海外出身の上司や多国籍のメンバーと働き、英国での勤務も経験した。入社時から仕事で十分に英語を使えたわけではない。必要に迫られながら学び、分からないときには「もう一度教えてほしい」と聞き直し、仕事で使う言葉を身につけていった。 留学中に得たのは、どのような場面でも困らない完璧な語学力ではなかった。相手の文化を尊重しながら、十分に分からない状況でも関わり続ける力だった。
「語学ができるようになってから留学しよう」と思っていたら、いつまでも出発できないかもしれない。現地でしか出会えない失敗や戸惑いがあり、そのなかでしか身につかない伝え方もある。
自分から動かなければ、何も始まらない
升本さんも、現地の学生同士の会話についていけず、戸惑った。
授業を聞いているだけでは足りないと考え、スポーツ関連のボランティアに加え、格闘技のサークルや地域の集まりなどにも飛び込んだ。うまく話せなくても、まずその場へ行く。そこで人と出会い、次の機会を見つける。その繰り返しが、自分から環境を切り開く姿勢につながった。
「留学で一番身についたのは、“何とかなる精神”だと思います」
現在携わるコンサルティングの仕事では、それまで知らなかった分野について、短期間で情報を集め、課題に向き合うことも多い。未知の領域にもまず入ってみる姿勢は、留学生活の中で培われたものだった。
外資系コンサルティング企業で働く平澤さん。
自動車メーカーで多国籍のメンバーと仕事をする楠さん。
コンサルティング企業で国内外の先端技術に関わる升本さん。
3人が現在の仕事まで一直線に進んだわけではない。しかし、留学中に得た適応力や行動力は、新しい機会を前にしたとき、「自分にもできるかもしれない」と考える根拠になっていた。
「ガクチカがない」と思っている学生へ
質疑応答では、就職活動を控えた学生から、率直な悩みが寄せられた。
ある学生は、留学先でイスラム法という専門性の高い分野を学んだものの、就職活動で話すにはニッチすぎるのではないかと不安を感じていた。もっと一般的で、誰にでも分かりやすい活動を話した方がよいのではないか。自分が最も力を注いだ経験でありながら、その個性を前面に出すことをためらっていた。
これに対し、平澤さんは、自分が本当に力を注いだ経験であれば、自信を持って話してよいと背中を押した。
「大切なのは、イスラム法を勉強したという事実だけではなくて、そこでどんな壁があって、それに対して自分がどう取り組んだのか。それを具体的に話せることだと思います」
採用面接にも携わる楠さんも、企業側の視点からこう続けた。
「面接官が知りたいのは、イスラム法そのものではありません。なぜそれを選び、楽しんだのか、苦労したのか。エピソードを通して、その人の人となりを知りたいのだと思います」
升本さんも、人と違う経験は、むしろその人を覚えてもらう入口になると応じた。
周囲に合わせて「就活で受けそうな経験」を探す必要はない。自分がなぜそのテーマを選び、そこで何を考えたのか。それを自分の言葉で語れること自体が、その人らしさになる。
別の学生は、留学先での勉強と初めての一人暮らしに精いっぱいで、インターンシップや学生団体など、人に語れるような活動ができなかったと打ち明けた。周囲が華やかな海外経験を語るなか、自分の留学は「地味だった」のではないかと感じていたという。
しかし、登壇者たちの答えは、「それでも十分に語れる」というものだった。慣れない環境で毎日の生活を整え、異なる言語で授業を受け、分からなければ人に尋ねる。授業についていくために工夫し、思い描いていた留学生活との違いにも向き合う。
一見「普通」に思える毎日の中にも、その人にしか語れない判断や試行錯誤がある。留学経験の価値は、写真映えする活動の数や、肩書の華やかさでは決まらない。「何をしたか」だけではなく、「そこで自分がどう考え、どう動いたのか」。卒業生たちの言葉は、そのことを改めて教えてくれた。
就職活動のために留学するのではない。けれど、留学経験はキャリアに残る
会場では、ボストンキャリアフォーラム、いわゆる「ボスキャリ」に関する質問も寄せられた。海外に留学している学生にとって、ボスキャリは就職活動の選択肢の一つである。それだけに、「留学したなら参加すべきなのでは」「ここで結果を残さなければ」と意識する学生もいる。
実際にボスキャリへ参加した経験を持つ平澤さんと升本さんは、自身の経験を紹介しながら、企業によって現地での選考の位置づけも進め方も異なると説明した。そして話は、より根本的な「留学と就職活動」の関係へと広がった。
3人に共通していたのは、就職活動で語るエピソードをつくるために留学したわけではないということだった。
平澤さんは英語への苦手意識と向き合うためにアラスカへ行き、楠さんは文化人類学への関心からスペインを選び、升本さんはスポーツビジネスを学びたくてアメリカへ渡った。ところが帰国してみると、自分の関心を起点に選び、現地で試行錯誤した経験そのものが、就職活動でも自分を語る材料になっていた。つまり、留学を就職活動に生かすことと、就職活動のために留学することは、少し違う。
ボスキャリへの参加も一つの選択肢である。しかし、参加しなければ留学の価値が下がるわけではない。「周囲がやっているから」ではなく、限られた留学期間を自分は何に使いたいのか。その選択そのものにも、その人らしさは表れる。
海外で育った自分にも、留学する意味はある?
海外で長く暮らし、早稲田大学への進学を機に日本での大学生活を選んだ学生からは、少し異なる角度から質問が寄せられた。
「すでに海外生活も英語も経験しています。それでも、改めて留学する意味はあるのでしょうか」
「留学=英語(外国語)を身につけること」と考えれば、確かに迷う問いである。
登壇者たちの答えは、留学すること自体を目的にしなくてもよい、というものだった。まず早稲田で学び、自分が関心を持てるものを探す。その先に、海外だからこそ挑戦してみたいテーマが見つかったなら、そのとき留学を選べばよい。
留学で得られるものは語学力だけではない。英語圏での滞在経験がすでにあるなら、今度は非英語圏へ行ってみる。これまで縁のなかった地域で暮らしてみる。早稲田で学ぶ専門とは異なる分野に触れてみる。あるいは、学ぶだけでなく現地で働く経験を組み合わせてみる。
すでに持っている経験に、次は何を「プラス1」できるだろう。さらに「プラス2」できるとしたら何だろう。
そう考えると、「海外経験がある自分に留学は必要か」という問いも少し違って見えてくる。もちろん、海外経験があるからといって、必ず留学しなければならないわけではない。日本で専門を深めたり、これまで経験してこなかった活動に挑戦したりすることも選択肢である。
問われているのは「留学したか、しなかったか」ではない。
今の自分が持っているものに、次はどんな経験を掛け合わせたいのか。
留学は、その答えの一つになり得る。
留学を終えてから、見えてきたもの
平澤さんの留学経験は、日本と海外をつなぐ仕事への関心を深め、後のアメリカ勤務にも結びついた。楠さんは、スペインで未知の環境に適応した経験を土台に、多国籍な職場でキャリアを重ね、英国でも勤務。升本さんは、アメリカでスポーツビジネスに触れたことをきっかけに、ビジネスの側から社会や産業に関わる仕事へと関心を広げていった。
3人とも、留学した時点で現在のキャリアを明確に描いていたわけではない。だからこそ、最後に語られたのも、「留学すれば将来うまくいく」という単純なメッセージではなかった。
楠さんは、自分で留学へのハードルを高く設定しすぎなくてもよいと学生たちに語りかけた。
「完璧に準備してから行こうと思うと、それ自体がプレッシャーになります。最初から高いハードルを置かずに、まず飛び込んでみてほしいです」
一方、升本さんは、「行く」と決めた後には現地で何をしたいのかを考え、語学を含めて準備することで、限られた時間をより生かせるとアドバイスした。平澤さんも、少しでも海外が気になっているなら、長期留学だけにとらわれず、まず外へ出る機会を持ってみてほしいと背中を押した。
留学そのものが、人生の正解を教えてくれたわけではない。それでも、海外で出会った人や価値観、思いどおりにならない状況の中で培った行動力は、その後、新しい機会を前にしたとき、「やってみよう」と思える土台になっている。
留学は、一度使って終わる切符ではない。そこで得た学びや視点は、新しい分野へ挑戦するとき、異なる価値観を持つ人と働くとき、人生の転機を迎えたときにも力になる。言い換えれば、留学とは、その先も学び続け、新たな環境へ踏み出すための「学びと挑戦のチケット」を手にする経験なのかもしれない。
その先につながる、学びと挑戦のチケット
留学した人が偉く、留学していない人が劣るわけではない。留学すれば必ず語学が堪能になり、就職活動が有利になり、将来の進路が決まるわけでもない。
それでも、「語学力が足りない」「費用が心配」「目立った成果を残せそうにない」「海外経験がある自分には必要ない」と、踏み出す前に自分の可能性を閉じてしまうのは、少し早いかもしれない。
語学に自信がなくても、現地で失敗しながら学ぶことができる。費用が壁なら、情報を集めることで奨学金や利用できる制度に出会う可能性もある。長期留学に踏み切れなくても、夏休みや春休みを活用した短期プログラムなど、まず海外で学ぶ感覚に触れてみる方法もある。そして、華やかな活動ができなくても、知らない土地で暮らし、学び、人と関わった時間は、自分だけの経験として残っていく。
社会人になってから一定期間を海外で過ごすには、仕事や費用、生活との調整も必要になる。学生時代にも準備は要るが、大学の制度や奨学金、周囲の支援を受けながら海外へ踏み出せるのは、在学中だからこその機会でもある。
今すぐ将来まで決める必要はない。
気になる国や地域を調べてみる。経験者の話を聞いてみる。費用や期間、プログラムについて相談してみる。最初の一歩が数週間であっても、そこで見た景色や出会った人によって、次に学びたいことや挑戦してみたいことが変わることもある。
「いつか行けたら」と思っていた海外が、「行ってみたい場所」に変わるかもしれない。
留学は、誰かと同じ経歴を手に入れるためのものではない。まだ知らない世界に触れ、まだ知らない自分の可能性と出会う。そのための選択肢の一つである。
世界に出たからといって、未来が自動的に決まるわけではない。
けれど、帰ってきたときにはきっと、以前より少し多くの未来を、自分の意思で選べるようになっている。
登壇者プロフィール
平澤 友華 さん
早稲田大学社会科学部卒業。在学中にアメリカ・アラスカ大学フェアバンクス校へ交換留学。英語への苦手意識を克服したいという思いから渡航し、現在は外資系コンサルティング企業で国際的な業務に携わる。「やってみれば何とかなる」という留学時代の経験が、今も仕事の支えになっている。
楠 寛乃 さん
早稲田大学文化構想学部卒業。在学中にスペイン・サラマンカ大学へ留学。語学習得よりも、文化人類学への関心や海外で暮らしてみたいという思いを優先して留学を決意。現在は日系自動車メーカーに勤務し、多国籍な環境の中でグローバル業務に携わる。
升本 大輝 さん
早稲田大学法学部卒業。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学アーバイン校へ留学。スポーツビジネスへの関心から渡米し、さまざまな現地活動に挑戦した。現在はコンサルティング企業での業務に従事し、新たな分野への挑戦を続けている。
司会 清水 美沙 さん
早稲田大学文化構想学部卒業。在学中にマレーシア・マラヤ大学へ留学。民間企業勤務を経て早稲田大学に入職し、現在は留学センターで学生の留学支援に携わる。自身も留学フェアとの出会いをきっかけに留学を実現した経験を持つ。





