Kagami Memorial Research Institute for Materials Science and Technology早稲田大学 各務記念材料技術研究所

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研究紹介 下嶋 敦研究員「ナノ・メソ構造制御によるシロキサン系環境整合材料の開発」

これまで各務記念材料技術研究所の兼任研究員として各種無機ナノ材料(ナノ粒子、ナノ多孔体など)の合成研究を推進してきました。研究拠点教員嘱任後はシリカ(SiO2)系材料を中心に環境整合化をより一層強く指向した研究を展開したいと考えています。シリカは地殻中に豊富に存在し、また高い透明性・耐熱性・化学的安定性、低毒性などの特長を有することから、幅広い分野で利用されている材料です。持続可能で安全・安心な社会の実現に向けて、シリカ系の環境整合材料の開発は重要な課題といえます。私たちは特に「自己修復機能材料」と「透明断熱材料」をターゲットとし、低環境負荷の液相プロセスによる高度な材料設計に取り組みます。
外部から受けた損傷を温和な条件下、自発的に修復する能力を有する自己修復材料は、長寿命、高信頼性、安全・安心などの観点から世界的に注目され、盛んに研究されています。いくつかの修復機構が提案されていますが、材料物性の完全な回復や繰り返し修復性の確保のためには、損傷部位の破断した化学結合を再形成して分子レベルで修復することが必要です。柔軟なポリマー系材料では、水素結合や動的共有結合と呼ばれる可逆結合を利用して比較的温和な条件下で自己修復が達成されていますが、セラミックスのような硬い無機材料では微細なクラックの修復にも数百度~千度以上の高温が一般に必要とされます。シリカガラスは代表的な脆性材料であり、温和な条件下での修復は困難です。しかしながら、その骨格を形成するシロキサン(Si‒O‒Si)結合は、条件によっては可逆的な開裂 ‒ 再結合や、結合の組み換えが可能です。このような分子レベルの特性を利用してマクロな損傷を修復するために、シロキサン骨格のナノ・メソ構造制御が有効であることを最近見いだしました。ケイ酸種と界面活性材の自己組織化を利用して多層(ラメラ)構造のシリカ薄膜を作製すると、微細なクラックが室温・高湿度下で自発的かつ迅速に修復されます。修復メカニズムとして、層間への水の吸着によって薄膜が膨張してクラックが閉塞するとともに、シリカ骨格がナノレベルで再配列することで、接触した破断面同士が「接着」されることが示されています。今後、この成果をもとに優れた自己修復性と材料物性を両立することで、革新的な保護コーティングなどとしての実用化を目指します。
一方、省エネルギーの観点から、建築、自動車、電子機器などさまざまな分野において、高性能な断熱材料に対するニーズが急速に高まっています。なかでも、低い熱伝導率に加え、高い透明性や耐熱性、耐候性を有する無機系断熱材料の開発は重要です。一般に、固体材料の低熱伝導率化には熱伝導率の比較的低い空気(=空孔)の導入、特に空気の平均自由行程(約68nm)未満のナノサイズの空孔の導入が効果的です。従来、合成樹脂フォームやシリカエアロゲルなど高い気孔率を有する材料が開発されてきましたが、これらの材料の多くは空孔のサイズや形状がナノレベルで精密に制御されているとはいえません。一方、私たちの研究室では、高度に組成・構造・形態制御されたシロキサン系ナノ空間材料を多数創出してきました。そこで、これまでに蓄積した知見と合成技術を活かし、ナノ・メソ構造制御に基づく優れた低熱伝導性と、シロキサン材料の特長である透明性や高い熱的・化学的安定性を兼ねそろえた新しい断熱材料を創出し、応用展開したいと考えています。
上記の研究は、ありふれた元素から構成されるシリカ系材料の精緻な構造制御に基づき、環境と調和・融和した環境整合材料を創出するものであり、学術的にも応用面でも意義があります。基礎から応用、実用化まで見据えて研究を進めるために、物性評価や製造プロセスを専門とする他大学や企業の研究者との共同研究も積極的に行う予定です。これらを通して拠点活動に貢献したいと思いますので、ご指導、ご支援のほど宜しくお願い申し上げます。

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