Kagami Memorial Research Institute for Materials Science and Technology早稲田大学 各務記念材料技術研究所

News

研究紹介 細井 厚志研究員「持続可能な社会の構築に向けて―材料強度の観点から―」

各務記念材料技術研究所が、文部科学省から共同利用・共同研究拠点に認定され、これを機に研究拠点教員の候補者に選出頂きました。幸いにしてニュースレターを執筆させて頂く機会を頂戴しましたので、簡単なプロフィールと取り組んでいる研究について紹介させて頂こうと思います。
私は材料力学、材料強度学、破壊力学をベースとした材料の長期信頼性評価に関する研究を手掛けております。2008年3月に本学理工学研究科機械工学専攻博士後期課程を修了しました。その後、名古屋大学工学研究科で助教として6年間勤めて、2014年4月から本学理工学術院機械科学・航空学科に所属しています。
さて、各務記念材料技術研究所は「環境整合材料基盤技術共同研究拠点」として共同利用・共同研究拠点に認定され、長寿命、リサイクル、省エネルギーの3つのキーワードを掲げています。ここでは私が取り組んでいる3つの研究課題、「金属材料の疲労損傷治癒技術の開発と評価」、「繊維強化複合材料の超長疲労特性評価と寿命評価技術の構築」、「金属表面のナノ空間構造体の創製と異種材料直接接着技術への展開」について紹介させて頂きます。
1つ目は金属疲労き裂の治癒技術に関する研究です。高度経済成長時代に集中投資した機械・構造物の高齢化が進行しており、老朽化に伴う破壊事故が懸念されています。そのため、機械・構造物の高齢化・老朽化に伴う事故や災害等を防止すると共に長寿命化を図り、機械・構造物ストックの戦略的な維持管理に取り組む必要があります。
機械・機器部材の破壊事例の約80%が疲労破壊であり、研究室では金属疲労き裂治癒技術の開発を進めています。具体的には、高密度電流場制御によってき裂を閉じさせる方法や疲労き裂進展時に生じるき裂閉口現象を駆動力とする固相拡散によってき裂を治癒する方法を提案しています。図1に示すように金属疲労き裂を治癒することが可能になってきました。
2つ目は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のギガサイクル疲労特性の評価に関する研究です。CFRPは軽量で優れた強度特性を有し、近年では民間航空機の一次構造材料に採用され大幅な燃費削減に成功しました。この成功を背景として、量産自動車をはじめとして、風車ブレード、潮流発電ブレードなどの大型構造物への展開が進められています。例えば風車ブレードは約20年の設計寿命までに108サイクルオーダーの繰り返し負荷を受けます。一方、CFRPのギガサイクル疲労特性はこれまで明らかにされておらず、その実験データもほとんど存在しません。当研究グループでは周波数20kHzでCFRP積層板の加速疲労試験を行うことに成功し、109サイクルオーダーの実験データを取得できるようになりました。今後はCFRPのギガサイクル疲労特性や損傷進展メカニズムを評価して、CFRP構造物の疲労に対する寿命予測技術を構築します。
3つ目はCFRPと金属材料の接合に関する研究です。先に述べましたようにCFRPは軽量で優れた強度特性を有しており、様々な機械・構造物への展開が期待されています。中でもリサイクル性や生産性にも優れる、熱可塑性プラスチックを母材としたCFRPの応用が期待されています。一方、CFRPは材料コストが高いため適所に材料を配置したマルチマテリアル構造となり、金属材料との接合が必要不可欠です。しかし、熱可塑性樹脂は化学的に不活性で接着しにくいという課題があります。そこで、生体構造を模倣したナノ突起構造を金属表面に作製し、表面積増大に伴うアンカー効果、ファンデルワールス力を応用した新たな接着技術の開発に取り組んでいます。
持続可能な安心、安全な社会の構築が求められる中、材料技術はその根幹を成すものです。長寿命、リサイクル、省エネルギーのキーワードに基づいて、材料強度評価の観点から微力ながらお役に立てれば幸いに存じております。関係の皆様には今後ともご指導を賜れましたら幸いです。宜しくお願い申し上げます。

図1 金属疲労き裂の治癒

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/fsci/zaiken/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる