Kagami Memorial Research Institute for Materials Science and Technology早稲田大学 各務記念材料技術研究所

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インタビュー 川原田 洋研究員「長年の半導体とダイヤモンドの研究をパワーエレクトロニクスに生かす」

ダイヤモンドやカーボンナノチューブを気体から合成し、ナノテクノロジーを駆使してエレクトロニクス素子の研究開発をしている川原田 洋教授。その経緯と今後の可能性を聞いた。

 

扱うデバイスは多様でも研究の軸はダイヤモンド

──川原田研究室では、高耐圧・高周波トランジスタ、バイオセンサ、超伝導デバイスなど扱うデバイスが多様で、実需に結びつく内容が多いように思われますが。

出口がはっきりしているので対象範囲が広いように思われるでしょうけど、実際は、一つのことをコツコツやるスタイルといっていいと思います。ダイヤモンドを材料とする軸は変えずに、その時々で面白そうなテーマを扱ってきました。

──最初からカーボン中心に研究されてきたのでしょうか。

いいえ。学部時代と修士時代はシリコンを研究し、その後は3年ほど民間企業でLSIの設計やCOMSのプロセス研究などをしてきました。もっとも、シリコンに代わる材料についてはずっと考えてきました。初期のトランジスタにはゲルマニウムが使われており、それがシリコンに代わった。周期表ではⅣ族のゲルマニウムの上にシリコンがあるから、シリコンの上にあるカーボン、それもダイヤモンドも半導体の材料になるのでは、と。同じく半導体材料として現在の最先端であるガリウムナイトライド(GaN)は、Ⅴ族の窒素の下にあるヒ素と結合させたガリウムヒ素(GaAs)から進展しました。このように周期表の上のほうに上がっていく傾向を感じていました。時代背景は、ちょうど、日本の半導体産業が活気づいてきた頃。企業内部でも深く研究されており、それに刺激を受けて、私も大学に戻ってじっくり研究することにしました。

もう一つ、ダイヤモンドへの道に向かわせた出来事がありました。1983年、無機材質研究所(現/物質・材料研究機構)が化学的気相成長法(CVD)によるダイヤモンド合成の手法を公開したのです。かつては高温高圧下で合成されてきましたが、1970年代半ばに、ソ連がCVD法による合成に成功。しかし、詳細は不明のままだったのです。

早稲田で博士課程を修了し1986年から大阪大学の助手となりました。さっそくダイヤモンド合成の装置を設計し、翌年までには製造できたと思います。この時使ったのがメタンガス。化学式で表わせば「CH4+CO2→2H2O+2C」ですね。学生時代に、シリコン生成では代表的手法であるシランガス(SiH4)からシリコンを作ったことがあり、この経験から、シランガスと構造のよく似たメタンガスからダイヤモンドができないかと考えていたところ、すでに世間ではそのやり方が研究されていました。当時、低温低圧でプラズマを発生させる電子サイクロトロン共鳴プラズマ(ECR)による製膜法が流行っており、これを応用・改良してダイヤモンドを合成しました。1万分の1気圧という真空に近い状況で合成したのは、私が初めてだと思います。

──日経産業新聞の記事「ダイヤでパワー半導体──早大、EVや電車向け」(2015年2月2日)を見ると「川原田教授は他の研究者が撤退する中で研究を続け、世界トップ級の成果を出してきた」とありますが、なぜ他の人は敬遠したのでしょう。

一般的にトランジスタを作る場合、「pnp」とか「npn」といった教科書どおりの方法を考えるでしょう。しかし、ダイヤモンドの場合、n型半導体が作りにくいので敬遠されたのかもしれません(電荷を運ぶキャリアとして自由電子が使われるのがn型で、正孔(ホール)が使われるのがp型)。実は、p型と高抵抗層があれば半導体は動きます。シリコンのLSIも元々はp型から始まっていますし、インテル4004という最初期のマイクロプロセッサもpチャネルだけです。また、一般のトランジスタ(バイポーラトランジスタ)ではpとnの両方とも電気がよく流れたほうがいいわけですが、私のやっているのは電界を使って電流を制御する電界効果トランジスタ(ユニポーラトランジスタ)ですので、pとnのどちらかの性能がきちんとしていればいいのです。

こうして、1994年にダイヤモンドでトランジスタを作りました。ダイヤモンドに不純物を入れると表面近傍10nm程度が低抵抗のp型になるのです。これが早稲田に戻ってきてほぼ最初の仕事でした。2001年にはGHz以上で動作するトランジスタを開発し、現在では50GHz、400度まで性能が上がってきました。

高周波インバータとNVセンターがメインテーマに

──先述のガリウムナイトライド(GaN)やシリコンカーバイド(SiC)による半導体が現在の最高と言われていますが、将来はダイヤモンド半導体がこれらを上回るということですか。

2007、8年ではダイヤモンドがトップの性能を実現していましたが、その後、行き詰ってしまいました。一方で、GHz帯の通信が使われるようになる中で、パワーエレクトロニクス素子の開発が盛んになり、SiCやGaNもパワーのほうに移ってきた。そこで、我々も方向修正し、ダイヤモンド半導体がp型であることを最大の特徴とするようにしました。すなわち、n型のGaNと組み合わせて、1000Vといった高電圧で動作するCMOS(コンプリメンタリー、相補型)のインバータの開発を目指すようにしたのです。そうすれば、GaNやSiCとケンカする必要もありませんから。これからトラフィック量が増える中で基地局の負担は大きくなりますし、また、電気自動車(EV)の時代もきますので、高温、高圧、高周波でのパワーエレクトロニクス素子はますますニーズが高くなると思います。

もう1点、我々の研究のメインとなるのが、近年、世界的な注目を集めているダイヤモンドによる量子センシング技術です。ダイヤモンドの中に不純物として窒素を入れると、炭素原子が抜けた空孔と、隣の窒素原子がペアとなる構造ができます。これをNVセンターと言います。NVセンターはスピンと呼ばれる磁気的な性質を示し、アップスピンとダウンスピンの組み合わせを0と1に置き換えることで、量子コンピューティングの最小単位であるキュービッドができます。

量子センシング技術の有望なターゲットは微小MRIです。生体分子1個の磁気を調べることで、たとえば、DNAとたんぱく質の相互作用が明らかになります。私がNVセンターの研究を始めたのは4年ほど前から。日本全体としてもこのテーマは欧米に比べて遅れており、いろいろな大学や組織で研究が盛んになってきました。

──最後に川原田研究室の特徴と、スタッフに伝えたいことがありましたらお聞かせください。

学部4年生から学会発表させていることが最大の特徴だと思います。6~7月には卒論の予稿をまとめ、9月には国内の会議で発表してもらうようにしています。ほかにも、4年生が終わる頃の学会、修士1年の夏あたりに日本で行われる国際会議、そして、海外での国際会議といったチャンスがあります。修士が国際会議の場で発表するというのは珍しいのではないでしょうか。

一般的に早稲田の学生は、あまり躊躇することなく明るい性格であることから、特に我々のような出口の見える研究に向いていると思います。修士だけ見れば、早稲田は世界一だといっても過言ではありません。実験も上手だし一流の結果を持っている。

反面、自分のやったことをドキュメントできちんとまとめる能力は、まだ不足しています。プレゼンも大事ですが、書類にまとめることは社会人にとっても大切ですし、科学技術を残していくためには欠かせないことです。

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