プラスチック基複合材料(PMC)の強化繊維の一つであるPAN系炭素繊維が1961年に発明されてから約半世紀が経過した。この間、炭素繊維自体の性能向上はさることながら、PMC製造プロセス等の地道な技術開発が繰り返され、これまで機器の極限性能を追求する特別な用途にしか使われなかった炭素繊維が炭素繊維強化プラスチック(CFRP)として民間航空機や量産型自動車のメインの構造材料になり始めている。CFRPが先進材料と称されて久しい。ここでは機械工学の立場からCFRPの技術的革新が進んで来た理由を紹介する。 CFRPの利用が加速した原因はいくつかあるが、これまで革新的と言われるCFRPの生産技術や 材料開発を俯瞰してみると、1)中間基材である半硬化性シート(プリプレグ)の開発、2)オートクレーブ成形法やVaRTM(真空含浸工法)などの確立、3)積層層間に熱可塑性樹脂の粒子を分散させた層間高靱性化CFRP(T800S/3900-2B(東レ))あるいは熱可塑性樹脂を母材としたCFRTPの開発などが挙げられる。
中でも1)のプリプレグの開発は、この分野の最大級の発明と称賛される技術であって、CFRP の成形精度を一気に高めることになった。そもそもプラスチック基複合材料では、強化繊維の配 向性を高めて、できるだけ多くの繊維を樹脂に効率良く含浸させるかが最大の課題であった。プ リプレグとは、引き揃えた強化繊維に樹脂を含浸させ、薄いシート状の形態をしているものである。 樹脂である熱硬化性樹脂の硬化反応を途中で停止(Bステージあるいは半硬化状態)させていて、このシートを何枚か積層し、加圧・再加熱させることで所定のCFRP板が完成する仕組みとなって いる。オートクレーブと称する圧力容器が必要ではあるが、繊維の配向角を変化させることで擬似的等方性材料にすることや、型に合わせて積層することによって自由な曲面を成形することも 可能となった。
3)の層間高靱性化CFRPの開発は民間航空機の1次構造部材にCFRPが採用されたきっかけとなった技術であり、高い評価を得ている。航空機材料の基礎的概念の一つとして、CAI強度(Compression After Impact)なるものがある。この強度は、CFRPパネルの表面に横方向の衝 突物で衝撃的な損傷を受けた場合、CFRPの残存圧縮強度が損傷前後でどれ程低下しているかの指 標となる物性値である。従来のCFRPでは、面方向に衝撃負荷が作用すると大規模な層間はく離が発生し、当然のことながら圧縮強度の低下は著しい。この層間での破損を抑止する技術として、層間のはく離靱性を向上させた技術が層間高靱性化CFRPである。アイデアとしては、CFRPの積 層間に第3相となる微細なポリアミド系粒子を分散させることによって成し遂げたものである。
以上のように、CFRPの異方性材料・ぜい性材料としての欠点を克服し、従来困難とされてきた分野に適応することが可能となった。