【著者】中村 隆之 准教授

【内容説明】
本書は20世紀フランスを生きた一人の歌手コレット・マニー(1926-1997)の音楽的遍歴をたどるものです。フランスでは〈メロコトン〉というシャンソンで華やかにデビューし、大きな注目を集めるものの、途端にテレビやラジオに出なくなり、やがて忘られていきます。しかし、コレット・マニーの音楽的探求は、世間から忘れられた頃から始まります。歌をうたうとはどういうことか。なぜ、なにを音楽で表現するのか。そうした根本的問いにマニーは向き合いました。この本は、埋もれた偉大なる歌手の音楽とその生を再発見する旅です。
ところでコレット・マニーは本学法学部と意外な縁があります。この歌手の真価を誰よりも見抜き、日本の音楽ファンに熱心に紹介した故・大里俊晴先生が本学法学部で教えていたのです。大里先生は横浜国立大学の教員で、レコードの発掘と収集に基づく音楽研究の著述で知られています。塚原史先生(本学名誉教授)の紹介で本学法学部で「芸術論」および「教養演習」をご担当されていました。大里先生は授業のさいにレコードプレーヤーを持ち込み、さまざまな音源を学生に聴かせたそうです。そのなかにはコレット・マニーのそれもあったのではないでしょうか。
本書は一般読者を念頭に置いた研究書です。コレット・マニー研究という未踏の研究を切り拓いた大里先生の背中を追うように書かれました。音楽を中心としていますが、フランスの文学、映画に関心のある人も十分得るところがあると思います。感性を知的に養うという点で、法学の学びにも緩やかに寄与すると信じています。
中村隆之
【目次】
●序章 コレット・マニー研究とは何か
問題の所在 方法論 先行研究と資料 本書の構成
●第一章 フランスのブルーズ歌手 (1926–63年)
テレビのなかの「スター歌手」 歌手を目指すまで デビュー――オーディション、ミレイユとの出会い オランピア劇場 最初のEP盤《メロコトン》 ショービジネス界からの訣別の意味するもの
●第二章 政治的シャンソンはフリーを目指す (1963–67年)
政治的シャンソンの時代へ 最初の政治的EP盤《キューバ万歳》 《チュイルリー宮》に仕掛けられた爆弾 フランス最初期のフリージャズ・レコード《すべて終わり》 さらなる表現の前衛へ――ビュラビュラ、アルトー、ジャバウォッキー
●第三章 「六八年五月」からブラックパンサー党との共闘へ (1967–72年)
孤独と連帯 ベトナムとの連帯 マニーの〈六八年五月〉 《火とリズム》と黒人差別への怒り ブラックパンサー党に捧げたアルバム《レプレッション》 ルポルタージュとしての歌――フランス北部の炭鉱労働者とスペイン・バスク地方の神父のために
●第四章 政治主義の彼方へ (1972–79年)
政治的であるよりも人間的であること 北アフリカの移民労働者に捧げたアルバム《ペニャ・コンガ》 チリ支援のためのヌエバ・カンシオン 政治主義との訣別とフリージャズを通じた再生 マニー作品の極点《顔゠村》 イスラエル/パレスチナ問題に捧げた音楽劇 障害を抱える子たちの声、この子たちの呟きを歌にすること
●第五章 自由であり続ける、最後の日まで (1979–92年)
妥協なき表現の探究 「わが兄」アルトーへの愛 スタンダード・ナンバーに託されたカミングアウト 《ケヴォーク》あるいは馴致不能のホロホロ鳥 いくつかの断片 アンコールとしてのラストアルバム《未発表曲集 九一年》
●終章 魂の形式
●あとがき
●ディスコグラフィー
●主要参考文献
●人名索引
【著者】 中村隆之
【出版社】カンパニー社 出版社Webサイト
【装丁】 宮一紀
【発行日】2021年12月末(予定)
【本体価格】2,200円(+税)
【ISBN】978-4-910065-07-6
四六判並製:256頁