Graduate School of Letters, Arts and Sciences早稲田大学 文学研究科

その他

耳の肖像(日本語日本文学コース:宮川朔さん)

私が日本語日本文学コース(近現代)を志望した理由

わたしは、別の大学の学部と修士課程を一度終えて、書店アルバイトと科目等履修生の期間を経て入学しました。以前は美術史学を専攻し、美術館の学芸員を目指して勉強していました。一方で、詩や小説を読むことと、書くことにも切実に興味がありました。詩も小説も、二十歳のころから雑誌に投稿を続けていました。

投稿がきっかけで詩人、小説家、研究者、編集者など様々なひとと出会いました。かれらとことばを交わすことで、じぶんがいかに文学について無知無学かを悟るようになりました。読むことは際限のない深みを持つ、と気づきはじめたのがきっかけで、大学院に入りなおすことにしました。

書くことよりも読むこと、主に近代文学の歴史について考える方法を多角的に学びたいと思いました。その傍らで、将来の生活設計についてもよく検討する時間にすると決めました。基本的には博士課程には進まずに、就職活動をしようと考えていました。

日本語日本文学コース(近現代)の雰囲気、教員・学生などとの交流

それぞれに多種多様なルーツのもと育んできた文学への思いがあり、それを持ち寄ってひとつの授業の空間が成り立っていることは、浅はかな考えかもしれませんが、わたしには何か感動的なこととさえ思えました。まずは思いがあるということが、論文を書くにも大切なことだとするやわらかな雰囲気が、このコースにはあると思います。

ゼミでの交流では、同じ日本語を話しているのに、意図したことがうまく伝わらない、歯がゆい経験を繰り返すうちに、読書で培ってきたじぶんのことばの癖やこだわりの、マイナス面にもプラス面にも気づくことができました。周りのひとのことばに照らされて、じぶんのことばがどこに向かおうとしているか、自然に理解される瞬間がしばしばありました。

同期の方々とは、みなで協力して一年生の終わりに『繡』という同人誌を編集・発行しました。特に校正の作業、お互いの論文の一字一句を検討しあった時間はおおきな学びを与えてくれました。助詞の使い方、句読点の位置ひとつをとっても、隣にいてくれるひとの耳を、その鼓膜へと向かう襞をどうふるわせるかはわからないと知ったのです。

研究にかけた思い

修士論文では、石原吉郎という詩人の初期における、雑誌への投稿詩について考察しました。シベリアでの抑留体験をエッセイにまとめたことで、詩よりもむしろ散文で一般に有名な石原吉郎について、「雑誌」と「投稿」というある種のメディアの問題を主眼として、その詩人としての出発期をとらえなおしてみようとしました。

これは、指導教授だった宗像和重先生の研究方法を敬愛し、拙いながらも模倣しようとつとめたからです。そして、わたしじしんの大切な記憶が、雑誌への投稿という行為にあったからかもしれません。同期の方々と同人雑誌を制作した時間にも、影響されていると思います。詩人がどんなに孤高の存在として強調されていても、詩を書くことのはじまりには他者との濃い影響関係があり、先達のつくったメディアとの出会いがあるはずです。それをよくみつめてみたいと考えました。

この論文を書くにあたっては、大学図書館と国会図書館だけではなく、駒場にある日本近代文学館にも通い、閲覧室で実物の雑誌資料を手に取って検討しました。また、詩の雑誌の編集者の導きを賜り、石原吉郎と一緒に同人誌を作っていた方々にインタビューをさせていただく機会を得たのは、たいへんな幸運でした。

修了後、修士課程での生活を振り返って

修士課程の二年間では、文学における雑誌メディアの機能への関心を深め、詩人の投稿や同人誌での活動を考察した修士論文を書きました。これは、雑誌一冊において、どれほどの熱や思いが集まってつくられているかを想像し、実際に知っていく時間でもありました。

いまわたしは前述した日本近代文学館に職員として勤めていますが、雑誌担当としての仕事は、この二年間で勉強したことに底から支えられています。

職業柄、研究者や詩人、作家の方とお会いする機会が多くあります。日々の業務をともにする同僚のみなさんも、当然ですがことばや文化への関心が高い方ばかりです。口を開くたびに、ことば遣いがこれでよいのか考えます。勤めはじめて間もないころは特に、とても緊張していました。

それでもことばを使って、ひとつひとつのアクションをえらびとることに積極的な気持ちになれるのは、修士課程で出会った先生方、先輩方、同期や後輩のみなさんの耳のかたちと、それが持つ呼吸を胸に描くときです。

信頼に足る他者の耳の肖像に試されて、生まれたことばが、無数の未知なる文脈に出会い、いまここをかたちづくる。そんな新鮮な感覚がからだに刻みこまれたことが、この修士課程で得たいちばんの財産です。

(2021年2月作成)

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/flas/glas/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる