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From the Dean
研究科長挨拶

文学研究科長 山本 聡美
文学研究科の研究・教育基盤は、広い意味での人文科学(人文学/Humanities)です。辞書的な定義に従うと、人文学とは「人間の歴史と文化に関する学問の総称」(『日本国語大辞典 第二版』より)、ということになります。すこしかみくだくと、〈人間とは何か〉という命題について、人間がこれまで行ってきたこと(歴史)や創造してきたもの(文化)を通じて解明しようとする学問です。
時間軸としては過去だけではなく現在と未来をも見据え、空間軸としては自分が立脚する〈ここ〉を起点に、地球上のあらゆる地点へと広がり、時には宇宙(例えば多くの宗教には宇宙論が含まれています)や、異界(例えば天国や地獄、龍宮城などを想起してください)をも射程に入れることができます。
現在と未来を生きる私たちにとって、〈人間とは何か〉という問いに取り組むことが必要な理由を、私は、人類が自らの意思で自覚的に記憶の継承をできる、地球上で唯一の生命体だからだと考えています。つまり、人間は自分自身に与えられた生命の時間を超えて、過去や未来にまたがる記憶を言語やイメージを通じて共有することができ、それによって生存のための諸課題に100年、1000年、数万年という単位で対処し続けてきました。これは、人文学の多くの領域において、外国語や古典語を含む言語的リテラシー、さらに造形・映像・パフォーマンス・身振り・空間等を含むイメージ文化に関するリテラシーを研究と教育の基盤に据えていることとも関連します。昨日、今日、明日、1年、10年、20年という短期的記憶で営まれる日常生活の中で失われがちな、他者の記憶、過去の記憶、太古の記憶にアクセスするための方法を探究しているのが人文学であるとも言えます。私たちの日常や現代社会において対応に迫られる諸問題、あるいは私たちの日常を彩る様々な喜びと悲しみは、既に過去の人類が経験してきたことでもあります。
ところで、〈記憶の継承をできる、地球上で唯一の生命体〉と先述しましたが、本当にそうでしょうか?動物の群れは、森林は、川の流れ、山や谷は、悠久の記憶を有していないのでしょうか?あるいはAIによる記憶や思考とは?言語やイメージとは異なる方法で継承される記憶のシステムがあるとするならば、そこから再び相対化された〈人間とは何か〉という問いへの新たな扉が開かれるはずです。現在の人文学には、人間をその外側から問い直す視点も含まれています。
当研究科には、現在、修士課程23コース、博士後期課程21コースが設置されています。幅広い専門領域に基盤を持つ研究者同士が日常的に対話できる環境、国内外から多くの訪問研究者や留学生が往来できる環境、多様な研究を互いに尊重できる環境、これが私たちにとっての大きな財産です。この場所で育まれる新たな人文知が、どんな未来を創造するのか。問いは果てしなく世界は広大ですが、私たちの知的好奇心にもまた、限界はないのです。