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ポジティブな葛藤を (中東・イスラーム研究コース:佐藤有香さん)

ポジティブな葛藤を (中東・イスラーム研究コース:佐藤有香さん)
Posted
Fri, 09 Oct 2026

佐藤 有香 (修士課程(中東・イスラーム研究コース)修了生)

 

私が中東・イスラーム研究コースを志望した理由

高校時代、中東史の時間があり、欧州のルネサンスよりはるか以前から続く豊かな歴史と文化に触れたことが、私が中東に関心を持つきっかけとなりました。アラブの春やISの活発化を目にしていた私は、鮮やかな文明史と当時の情勢との差に強い衝撃を受けました。

その後、PKO等に関心があり進学した防衛大学校在学中、イスラームを中心とする帝国でありながら、様々な民族、宗教を内包し、600年の繁栄を築いたオスマン帝国の姿に改めて魅力を感じるようになりました。そして帝国崩壊後の地域紛争の複雑さに触れる中で、本格的にオスマン帝国史を学びたいという思いが強まりました。こうした背景から、幅広い専門性を持つコースの先生方、外部から来てくださる先生方による多彩な授業に魅力を感じ、早稲田大学大学院文学研究科中東・イスラーム研究コースに進学を決めました。

中東・イスラーム研究コースの雰囲気、教員・学生などとの交流

コースの雰囲気は非常にオープンで、関心さえあれば自身の専門ではない講義やゼミにも自由に参加することができます。また、院生でも一定の条件下で学部の授業を受講できるため、学部生との交流も生まれ、新鮮な刺激を受けました。

私は学部では歴史学を専門として学んできたわけではありませんでしたが、先生方は基礎から丁寧に向き合ってご指導くださいました。また、時には夜遅くまで「この問題の本質は」と議論を重ねたゼミもあり、今振り返っても大切な思い出です。

そして、在学中にガザ情勢が悪化したこともあり、講演会等の運営に携わる機会がありました。自分が何をすべきか、一人の人間としてどう向き合うべきかを深く考える経験となり、この問いは後の進路選択にも大きく影響しました。

研究にかける思い

私の研究テーマはオスマン帝国のハレム、いわゆる後宮です。日本では「美女が幽閉される場」というオリエンタリズム的イメージが残っていますが、実際には大きく異なります。この点こそが、私の修士論文の結論であり、研究の出発点でもあります。

オスマン帝国のハレムは体系的な組織であり、女性が摂政として政治的権力を握った時代も存在します。この時期は注目度が高く、研究の蓄積があるのですが、私はそこから約2世紀後の帝国末期、20世紀前半のハレムに焦点を当てました。近代化の波が押し寄せる中、当時の女性誌でハレムは抑圧や時代遅れの象徴として批判的に語られたうえ、先行研究においても影響力を失った時期として十分に注目されてきませんでした。

しかし、末期ハレムで生きた人々の回想録等を読むと、異なる姿が見えてきます。帝国の近代化と歩調を合わせるようにハレムも変化を迎えていたこと、そしてハレムの女性たちが独自のネットワークを築き、力強く生きていたことが記されていました。私はその姿に深い感動を覚え、時には励まされながら研究を進め、史料の中で出会った女性たちの声を集め、形に残したいという気持ちを胸に、自分なりに論文としてまとめ上げました。

コースでの学びとキャリア

現在、私は独立行政法人国際協力機構(JICA)で、中東地域を担当する部署で勤務しています。1部署目から中東に関われたことは、非常に幸運だったと感じています。

大学院で歴史・美術・文学・語学など中東全般を幅広く学んだ経験は、現地でカウンターパートの方々と向き合う際の確かな基盤となっています。

また、イエメンといった紛争下の国の行政官と復興に向けて議論できること、そして在学中より強い想いを抱いてきたガザ出身の留学生にも出会う機会があったことは、院生の頃に抱いた「自分は何をすべきか」という問いに対する一つの答えでもあります。

もちろん出来ることに限りはあるうえ、すぐに変化をもたらすことはできません。しかし、JICAという組織としてできることは、個人よりもはるかに大きいと感じています。大学院の頃のように「なぜ」を問い続け、一国を、中東地域を、そして世界をどう良くしていくか真剣に考える人々に囲まれて働けていることは本当に幸せです。0.0を0.1にする小さな変化を紡ぎ重ね、それがいつか1になり、10、100へとつながるような仕事を続けていきたいと考えています。

プロフィール

東京都出身。防衛大学校人間文化学科卒業後、早稲田大学大学院文学研究科中東・イスラーム研究コースに進学。在学中はオスマン帝国のハレムをテーマに研究。修士論文の題目は「オスマン帝国末期のハレム ―アブデュルハミト2世期の女性たち―」。現在は独立行政法人国際協力機構(JICA)にて勤務。

(2026年10月作成)