• ニュース
  • 懐の深いドイツ文学専攻(ドイツ語ドイツ文学コース:佐藤正明さん)

懐の深いドイツ文学専攻(ドイツ語ドイツ文学コース:佐藤正明さん)

懐の深いドイツ文学専攻(ドイツ語ドイツ文学コース:佐藤正明さん)
Posted
Fri, 09 Oct 2026

佐藤正明(修士課程(ドイツ文学専攻)修了生)

 

私がドイツ文学専攻を志望した理由

早稲田大学第二文学部(現・文化構想学部・文学部)の学部生時代、楽しいことはないかと探す点だけでは、私はマジメな学生でした。大学近くのなんもない四畳半が学友の溜まり場になっていた絵に描いたような早稲田生と言えば、今でも伝わるのでしょうか。友だちと議論して過ごしたドロのような日々は忘れようもありません。

大きな転機は、3年生のときにベルリン自由大学に交換留学をさせていただいたことです。たどり着いたベルリンでは、ドイツ語ができなさすぎて、毎晩ベッドに入ると勝手に涙が溢れてくる日々が私を待っていました。

でも、そんなピンチでこそ、早稲田での経験が活きたのです。「日本語・ドイツ語の会話練習相手求む!」のビラを大学の壁に貼って歩きました。結果、毎日かならずドイツ人ひとりとカフェテリアやバーで話す生活に。

帰国してからは、フランスの精神分析家ジャック・ラカンにのめり込みました。そして「フロイトに帰れ」の勧めに従ってフロイトを読むと、これが面白いこと。ドイツ語ができるようになっていたこともあり、そのまま修士課程のドイツ文学専攻に進むこととなりました。

懐の深かったドイツ文学専攻

大学院に入り、まず驚いたのが、ドイツ文学という実益のないことをこれほど大切にする先輩方と仲間がたくさんいるという事実でした。それぞれに、なにかを極めようとしている。学びたいという欲で学生と先生方がつながり、その交流は他の大学にも広がっている。ドイツ文学の根が広く深く生きている。こんな素晴らしい世界があったんだ。

私はフロイトとラカンを並行して学びながら、自分がどの学問分野に属しているのかわかりませんでした。ただ学びたかった。大学院には、方向の定まらない迷走者を受け入れる懐の深さがありました。自分のはるか先を行く研究者の姿を間近に見られること。それは分野によらず、大変な価値なのです。

嗅覚からの研究:面白いことはないか

その後博士後期課程に入ってすぐ、ふたたびベルリンに留学させていただきました。大学院で難解なテクストにかじりついて夢中になったメディア論者フリードリヒ・キットラー教授がフンボルト大学で教えておられました。

震えながら直接会いに行くと、その場で大学院生ゼミへの参加を許されました。私が早稲田大学から来ているというだけで、キットラー先生は喜んでくださった。「あー、ワセダ!」という声が忘れられない。日本人研究者の先輩方が、すでに道を拓いてくださっていたのです。

キットラー先生の存命中には間に合いませんでしたが、ハンブルク大学ドイツ文学科のマリアンネ・シュラー教授の下で研究を続け、フロイトとシャンポリオンの比較で博士号をいただきました。

自分の嗅覚を信じて、分野を問わず勉強する。これは、私が早稲田大学のドイツ文学専攻から受け取った基本的な姿勢で、いまでも深く感謝しています。

迷うのがいい

ずっとフロイトについて考えているうちに、私は文化研究を越えて精神分析の実践を知りたくなりました。そこでドイツのラカン派グループに合流し、研究は続けつつも、精神分析家としての仕事をはじめ、現在に至ります。

ドイツ語ドイツ文学コースとしては想定しづらい進路と思いますが、まさに独文という広い領野の懐の深さを示す一例ではあるかと思います。これからどうしようか迷われている方には、ぜひ徹底的に迷って、自分で学んでくださいとお伝えしたいです。

どうせちょっと生きて、そのうち死んじゃうのはみんな同じ。あなたの知りたいことは、なんでしょう。もっと迷うヒントが、きっと早稲田大学ドイツ語ドイツ文学コースに溢れています。

プロフィール

ベルリン在住・精神分析家。Dr. phil. (ハンブルク大学ドイツ文学)。栃木県出身。早稲田大学第二文学部卒業後、同大学大学院文学研究科ドイツ文学専攻に進学。在学中はフロイトをテーマに研究。

(2026年10月作成)