小中杜萌(修士課程(日本語日本文学コース)在学生)
私が日本語日本文学コースを志望した理由
私は学部時代から早稲田大学の日本語日本文学コースに在籍しています。
大学院への進学を決めた最も大きな出来事は、2020年からのコロナ禍です。私は学部生活4年間のうち半分は満足に大学に通うことができませんでした。3年生のときは前年度の春休みに実家に帰省してから1年間、ほとんど東京に戻ることがなく、これまで当たり前だった友人との直接の会話の機会も失われました。ようやく一部の授業が対面に戻ったのは、卒業論文が中心となる4年生になってからのことでした。
このような2年間を過ごして「これまでは何と恵まれた環境にいたのだろう」と感じ、同時に「もっと勉強したい」「もう少し大学での生活を味わいたい」という思いが芽生えました。大学院進学を決めたのは、この思いをかなえるためです。
また、同じような頃に、早稲田大学が私の専門とする中世軍記物語を学ぶにはとても充実した環境であることも知りました。先人たちの研究の蓄積があることや、軍記物語を専門とする先生方がいらっしゃることなど、それまでは考えもしなかった素晴らしい環境で学び続けられるのはとても幸せなことです。
日本語日本文学コースの雰囲気、教員・学生などとの交流
私の所属する研究室では、修士課程・博士後期課程の学生が一緒になって演習に参加しています。同じ「中世散文」の研究室に所属していても研究対象がぴったり一致する人はおらず、それぞれの興味関心から様々な意見や質問が交わされます。
個人発表をする機会も多くあり、学部時代よりも準備に時間と根気が必要になるので毎回発表当日まではとても苦しく、緊張してしまいます。しかし、先生や先輩方からアドバイスをいただくと、自分でも上手く説明できない絡まった思考が解きほぐされ、一気に整理される感覚があります。このスッキリした気持ちが「次も頑張ろう!」という活力になります。
また、授業の前後には専門的な話題以外にも世間話のような他愛もないことで盛り上がることもあり、メリハリがあります。このお喋りが私の毎週の楽しみです。
研究にかける思い
私の研究対象は『平家物語』で、中でも興味があるのが「乳母子」と呼ばれる人々についてです。「乳母子」は貴人を養育する乳母の子のことで、貴人に対しては主従関係を前提としながら、幼い頃から一緒に育てられることで、兄弟のような関係でもあります。
『平家物語』における「乳母子」の例では、多くの教科書に採録されている「木曾最期」が代表的な木曾義仲と今井四郎兼平や、壇ノ浦の戦いで共に入水した平知盛と伊賀平内左衛門家長など、強い結びつきの主従が想像されるかもしれません。しかし、『平家物語』の複数ある本文によって登場する「乳母子」は異なり、主君を裏切ったり見捨てたりするような例もあります。
また、同じ『平家物語』を読んでいても、時代や視点の違いによってその読みは大きく異なります。例えば木曾義仲と今井四郎兼平の物語は、現在は主従愛に焦点を当てた物語の読みが主流となっていますが、時代をさかのぼると義仲は愚将や叛臣とされ、批判の対象でした。このような読みの違いは、物語を構成する言葉の捉え方の違いであると考えます。私は『平家物語』における「乳母子」の例の分析を通して、物語の読みを探究していきたいと思っています。
修了後の予定
現在は修士課程の1年目が終了したところです。日々は想像していた以上に忙しく、修了後についてはまだまだ考えが及んでいません。しかし、新たな出会いがあり、先生方から細やかな指導を受け、演劇博物館でのアルバイトや他の研究科での授業など、これまでとは異なる環境に身を投じたことで、自分の世界が広がった気がします。
目下の課題はアウトプットする力を身につけることです。大学院に進学してから、発表や議論の機会が増え、自分の意見を求められる回数が多くなりました。私が目指す研究には言葉の調査が欠かせないのですが、私はこの地道な作業が好きでつい時間をかけてしまい、演習の発表資料や文章がまとまらず、苦労しています。もちろん知識を増やすことも必要ですが、それ以上に自分の論を形にする力が大切だと感じています。
アウトプットの力を身につけることで、自分の将来の選択肢が増えていくのではないかと思います。まだまだ修行中の身ですが、自立したアカデミアの一員になれるように頑張ります。
プロフィール
石川県出身。早稲田大学文学部日本語日本文学コース卒業後、早稲田大学大学院文学研究科日本語日本文学コースに進学。在学中は『平家物語』を中心とした中世軍記物語について研究。修士論文では『平家物語』の表現論に取り組む予定。2022年10月から早稲田大学坪内博士記念演劇博物館にアルバイトとして勤務している。
(2023年3月作成)