山岸倫子(富山大学教養教育院 准教授)
英文学コースを志望した理由と、研究活動を継続している理由
幼い頃からイギリスの児童文学が大好きだったため、早稲田大学第一文学部では英文学専修に進学しました。また、身近に博士後期課程で学んだ人間がいたため、自身も修士課程や博士後期課程に進学するということは自然な流れでした。進学後は、知的好奇心を刺激してくれる作品との出会いに恵まれることで研究活動が続いていき、現在に至っています。
英文学コースのゼミの雰囲気と、そこで培われた精神
現在はどうなっているのかわからないのですが、私が学部生だった頃はゼミがなかったため、修士課程で初めてゼミというものを体験することになりました。私が最初に配属されたのは、イギリス現代小説をご専門にされていた井内雄四郎先生のゼミだったのですが、井内ゼミには、様々なバックグラウンドをお持ちの先輩方がいらっしゃり、年齢もバラバラでした。そういった先輩方が、自由闊達に文学作品について語り合う様子は、それまで同年代の友人としか交流がなかった私の目には、とても新鮮に映ったのを覚えています。研究の面では、学生の主体性を重んじながらも、各要所ではしっかりサポートして導いてくださる雰囲気で、安心して大学院生活を始めることができました。
修士二年に上がった時、井内先生が定年でご退職されたため、現在は文化構想学部で教鞭を執っておられる小田島恒志先生のゼミでお世話になることになりました。小田島ゼミも和気藹々かつ自由な雰囲気で、毎週のゼミが楽しみだったことを覚えています。修士論文ではイギリスのAlan Sillitoeという作家の三部作を扱うことにしたのですが、実際に研究を始めてみると、日本語の翻訳が出版されていないのはもちろんのこと、英語の先行研究もごくわずかという状況の中で、作品読解と分析に苦労することになりました。わからないところが出てくるたび、たくさんの付箋を貼った本を抱えて小田島先生の研究室を訪ねて質問を繰り返す日々でしたが、先生が迷惑そうなお顔をなさったのを一度たりとも見たことがありません。自身が大学教員として働くようになった今だからわかることですが、様々な業務で多忙でいらっしゃる中(大学教員には、教育・研究以外にもたくさん仕事があるのです…)、よくあれだけの時間を使ってくださったな…、と小田島先生には頭が上がりません。この時ももちろんですが、その後、博士後期課程に進学した後のゼミにおいても、原文を一語一句、これでもかというほど精読しながら論を組み立てることの大切さを教えていただき、そのことが自身の研究の礎となったと思っています。
研究対象との出会いとそれに対する思い
博士後期課程一年目に、イギリスのWarwick大学に留学する機会に恵まれました(留学に際しても、英文学コースの先生方には、出願から奨学金の応募に至るまで、多大なお力添えを頂きました。)。そこで履修した現代イギリス演劇の授業で、イギリスの劇作家Caryl ChurchillのCloud Nineという作品に出会いました。男性の役者が女性や少女のキャラクターを演じたり、女性の役者が少年のキャラクターを演じたり、一幕と二幕の間には100年前後の時が経っているのに、登場人物たちは25歳しか年をとっていなかったりと、様々な仕掛けを通して鋭く問題提起をする作品の虜になり、彼女の作品を研究したいと強く思うようになりました。Churchillは多作かつ多面的な劇作家なので、研究対象としてはチャレンジングである一方、彼女の作品に出会えたことは、研究者としても一個人としても幸せなことだと思っています。
修了後、博士後期課程での生活を振り返って
上でも触れましたが、修士課程・博士後期課程を通して、原文の一語一句を丁寧に読み込んで論を組み立てることの大切さを教えていただきました。そのことは、研究活動において直接的に役立っているのはもちろんですが、一つ一つのピースを大切にしながら、それらを大きな「物語」に組み上げていく、カリキュラム構築のような大学業務にも役立っていると思っています。そのことからも、一つのことを突き詰める中で得られるスキルや精神は、自身を根底から支えてくれるだけでなく、意外と汎用性も高いということを実感しています。大学院修了後の進路は様々だと思いますが、人生の中の数年間を、一つのことに没頭するために捧げたという経験は、ある特定の分野における知に深度をもたらすだけでなく、その後の人生においても、様々な方面で有益なものをもたらしてくれるのではないかな、と思っています。
プロフィール
石川県出身。早稲田大学第一学部英文学専修卒業後、早稲田大学大学院文学研究科英文学コースに進学。修士課程において、Alan Sillitoeの作品を研究したのち、イギリスのWarwick大学への留学を経て、博士後期課程ではイギリスの劇作家Caryl Churchillの作品研究を行った。早稲田大学文化構想学部多元文化論系助手、石川県立大学教養教育センター専任講師を経て、現在は富山大学教養教育院准教授。
(2022年2月作成)