大学院進学をお考えになっている皆さん、こんにちは! 塚崎と申します。お読みになると分かりますが、随分昔に早稲田でお世話になった者です。今まさに大学院進学を考えている皆さんのご参考になるかはわかりませんが、「昔はこんな呑気な奴でも大学院に進んでたんだ」くらいのお気持ちで、気楽にお読みいただければ幸いです。
塚崎今日子(北海道科学大学未来デザイン学部 准教授)
私が早稲田大学大学院文学研究科ロシヤ文学専攻を志望した理由
中学生の時にドストエフスキーの小説を読んだのをきっかけに、ロシアという国に興味を持ちました。その後、早稲田大学第一文学部ロシア文学専修(当時はそういいました)に進学。
ロシア語クラスを担当されていた伊東一郎先生から、ロシアの口承伝承の魅力を教えていただいたことがきっかけで、ロシア・フォークロア(とくに怪談)に関心を持つようになりました。
その後、ロシア留学、卒業論文(ロシア・フォークロアにおける怪談ジャンルについて)の執筆を経て、自然な流れで大学院文学研究科ロシヤ文学専攻(当時はそういいました)へと進みました。当時はバブル経済の末期。就活が超売り手市場だったこともあり、「何年か遠回りしても就職に困ることはないだろう」などという甘い考えを抱いていたことは否定しません。
ロシヤ文学専攻の雰囲気、教員・学生などとの交流
ロシヤ文学専攻では、笠間啓治先生のゼミ、藤沼貴先生のゼミ、伊東先生のゼミを渡り歩きました。これは何か問題があったというわけではなく、私の専門に近い伊東先生のゼミができるまでの間、笠間先生と藤沼先生がご親切に引き取って面倒を見てくださったのです。それぞれの先生方は個性的でタイプはまったく異なりましたが、温かいお人柄は共通していました。院生は、研究面では独立独歩タイプが多かったですが、お互い和やかに交流していました。ただ、このぬくぬくと居心地のよい空気のなかで自分を厳しく律して研究に専念するのはなかなか難しいことでした。今はどのような雰囲気かは分かりませんが、皆さんがもし大学院に進学されたら、周りに流されず、ご自分の研究リズムを大切にしてください。
研究にかけた思い
研究テーマは、修士課程ではロシア・フォークロアに登場するルサールカという女性形の妖怪、博士後期課程では同じくロシア・フォークロアに登場するシュリクンと呼ばれる妖怪でした。これらのテーマは、いわゆる「ロシア文学」の王道からは遠くかけ離れていましたが、自分が興味を持ったテーマに自由に、そして思い切り取り組むことができたのは大変幸せな経験でした。現在は、1990年代から関わってきた北ロシアのフォークロア調査で採録した諸資料の整理を進めているところです。それらの資料を、これまで調査を行わせていただいた地域の方々に還元することを目指しています。。
修了後の生活を振り返って
大学院を出た後は、研究センターの研究員、複数の大学の非常勤を経て現在の職につきました…と、ひと言でまとめるとこうなりますが、その間、博士論文の執筆、結婚、出産、子育てなど、いろいろなことがありました。もともと自分に対して限りなく甘い私が研究への持続的なモチベーションを保てるはずもなく、研究発表もおぼつかなくなり、「もうロシアのことはあきらめよう」と思ったことも一度ならずありました。ところが不思議なもので、「あきらめよう」、とこちらから身を引くと、まるでツンデレ猫のように、あちらからそっと近づいてくるのです。このあたりの天の計らいのようなものについてはうまく説明はできませんが、今お伝えできるのは、自分の目の前にあることをがんばっていると、何かしら道が開けてくることもある、ということです。
最後はなにやらインチキ占い師からのメッセージのようになってしまいましたが、大学院に進むにせよ別の道を選ぶにせよ、今後皆さんが充実した時を過ごされることを願っています。
プロフィール
東京都出身。早稲田大学第一文学部ロシア文学専修卒業後、早稲田大学大学院修士課程文学研究科ロシヤ文学専攻進学、同大学院博士後期課程文学研究科ロシヤ文学専攻単位取得退学。修士論文の題目は「19世紀後半から20世紀初頭の東スラヴのルサールカ」。博士論文の題目は「妖怪の機能と変容:俗信・儀礼・文学―北ロシアのシュリクンを中心に―」。博士(文学)早稲田大学。現在は北海道科学大学未来デザイン学部准教授。