自己紹介
私の専門は映画研究です。映画研究という学問と出会ったのは、大学時代のことでした。もともと受験勉強の合間に美術館や映画館に通ってはいましたが、大学進学のため上京してからは、たがが外れたように映画館に通うようになりました。情報誌をチェックしては都内の劇場を渡り歩き、古今東西の映画を見ていました。
そんな頃、大学の「映画論」の授業で映画研究と出会いました。映画とは現実を記録するものだという、フランスの映画批評家アンドレ・バザンの映画論に強い感銘を受けたのも、映画監督ジャン・ルノワール(印象派の画家オーギュスト・ルノワールの息子です)の作品の抜粋を見て、そこに映る水や木々、俳優たちの存在感に圧倒されたのも、その授業でのことでした。他にも、映画を批評的に論じる方法を学ぶ授業もあり、映画を論じることの面白さ、そして難しさを学びました。卒業論文のテーマに選んだのは、ルノワールでした。

南仏の「ルノワール美術館」。元はオーギュストのアトリエで、ジャンの映画『草の上の昼食』(1959)のロケ地ともなった。
その後、大学院に進学し、本格的にルノワールを研究するためフランスに留学。6年ほどパリに滞在した後(パリでもたくさん映画を見ました)、何とかフランス語で博士論文を書き上げました。いかにしてルノワール作品を論じればよいか思案するうちに辿り着いたのが、「映画における俳優演出」という現在の研究テーマです。
私の専門分野、ここが面白い!
俳優の演技は、映画の魅力の一つです。では、心惹きつける演技というのはいかにして生まれるのか。博士論文では、名演出家として知られるルノワールの実践を徹底的に調べることで、その問いについて考えました。フランスやアメリカの図書館に所蔵されている制作資料を隈なく調べ、俳優の身ぶりや発話を詳細に分析する。そうして少しずつルノワールの俳優演出に迫っていく作業はとても面白いものです(と同時に、とても大変でした)。

パリにある映画の殿堂「シネマテーク・フランセーズ」。併設の映画図書館で調査を行った。
監督によって、俳優の演出の仕方は様々です。監督と俳優の関係は、人と人との関係であって、映画にとどまらない、人間の関わり合い一般についても考えさせます。型にはまった芝居にならないよう、それぞれの俳優の個性を尊重するルノワールの演出方法は、今なお魅力的で示唆に富んでいます。余談ですが、『ドライブ・マイ・カー』(2021)の濱口竜介監督が、ルノワールの「本読み」の方法を参照しています。
映画作品を徹底的に分析し、それを通じて人間や世界について思考すること、それが映画研究の醍醐味だと言えるかもしれません。
プロフィール
すみい まこと。1982年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学、パリ第一大学芸術・美学・芸術学研究科博士課程修了。博士(芸術学)。東京都立大学人文社会学部准教授を経て、2023年4月より現職。主な論文に「ルノワール・タッチ—『スワンプ・ウォーター』における俳優演出」(『映像学』第91号)、「アンドレ・バザン—「不純な映画」の時代の批評家」(『映画論の冒険者たち』堀潤之・木原圭翔編、東京大学出版会)など。訳書に『彼自身によるロベール・ブレッソン—インタビュー1943-1983』(法政大学出版局)など。
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