School of Education早稲田大学 教育学部

【地理歴史専修】史料を読み解くだけじゃない。歴史の実像はどうしたらつかめるのか? (高木 徳郎教授 教授の部屋/研究室紹介)

教員情報

  • 教員名:高木 徳郎 教授
  • 学科専攻専修:社会科地理歴史専修
  • 専門分野:日本中世史

教科書に書かれていることは本当か? その疑問が学問の世界への入口です。

皆さんは、日本史や世界史と聞くと、歴史上の人物の名前を覚えたり、そうした人物たちが成し遂げたことを学んだりすることというイメージがあるのではないでしょうか。確かに書店で「日本史」「世界史」などと掲げられたコーナーに行くと、その手の本の何と多いことでしょうか。ましてや中学・高校での勉強や受験勉強の時にやった「日本史」「世界史」はその最たるもの、人名や年号の暗記にひたすら終始するという、最悪の勉強を延々と繰り返してきた人も多いのではないかと思います。

しかし、大学へ入ってからの「日本史」「世界史」の勉強は、これまでとはまったく違います。例えば、私が専門としている日本中世史という分野では、確かに教科書では、この時代は「武士の時代」などとして描かれており、教科書にも「武家政権の成立」「武士社会の展開」などのタイトル文字が躍っています。では、直前の時代まで政治の中心にいた貴族たちは、中世に入った途端、完全にその力を失い、没落しきってしまったのでしょうか? あるいはまた、武士たちは、中世が終わった後の江戸時代(近世)にも生き残りますが、近世は「武士の時代」ではないのでしょうか?

そもそも教科書というのは、勉強する人に「分かりやすく」書いてあるものです。教科書が分かりにくかったら、勉強する気が失せてしまいますね。したがって、歴史の教科書の場合、前の時代から変化した部分を(時には必要以上に)クローズアップして、やや大げさに書いている側面が大きいのです。例えば「日本史」の場合、古代の貴族社会を打ち倒して、武士が政治の主役に躍り出た、と叙述すれば、そこで時代が大きく変わったのだ、と誰もが分かりやすく理解できます。時代の変化がどこにあるのかが分かりにくいと、2000年以上に及ぶ歴史の流れを理解するのはなかなか容易ではありません。

でも実際、世の中はそんなに「分かりやすい」ことばかりではありません。むしろ、分からないことがたくさんあるから、私たちの知的好奇心は刺激され、学問に取り組む意欲も湧いてくるのです。歴史学において、ある歴史的事実を証明しようという場合、様々な史料(資料)を多角的に検討することになりますが、その史料(資料)は無限にあります。ちなみに下の写真は私の研究室の書棚の一部ですが、まずはこの史料の「山」に分け入って、教科書に書いてあることは本当か、確かめてみましょう。

研究室の書棚(一部)
書店では手に入らない本もたくさんあります。

史料を読み解くだけじゃない。歴史の実像はどうしたらつかめるのか?

ところで史料を読み進めていくと、時々、「壁」に突き当たることがあります。その「壁」にはいろいろな種類があって、「いくつかの史料に書かれていることを具体的に突き詰めていくとどうしても辻褄が合わない」という壁、「いま知られている史料だけではどうしても足りない」という壁など、様々な壁に突き当たることでしょう。そうした時には、もちろん、発想や視点を変えて別の史料を探してみたり、友人や教師の意見を聞いてみたりすることで壁を突破できることもあります。2~3年生から始まる「ゼミ」では、そうした意見交換や討論する力も養います。

しかし、それでも「壁」を突破できない時、思い切って教室や大学の「外」に出て答えを探しに出かけるのも、ひとつの解決の手立てです。史料で描かれている事柄の舞台となった現地を訪ねてみたりするのは、その第一歩でしょう。地図やガイドブックだけ見て分かった気になるのではなく、実際に足を運んでみると、歴史の「現場」は意外な発見に満ち溢れています。私自身も、3年生の時、卒論の準備をしようと、ある地方の農村を訪れた時の「発見」や地元の方々との会話が、今に続く研究の原動力となっています。

現在でも、毎年、夏休みや春休みなどの長期の休みの期間中には、地方へ史料(資料)調査や現地調査に出かけます。史料調査では、これまでまったく知られていなかった未知の史料に出会うこともしばしばで、現物の史料に触れてみて初めて分かることなども含めて、新しい発見が必ずあります。また、現地調査では、地元の方々の話を聞いたり、歴史的な遺構や遺物を探し回ったりしながら、史料や文献だけでは分からない様々な情報を集めていきます。こうしたことを繰り返しながら、少しずつ歴史の実態に迫っていくのが、私の研究のスタイルです。

研究仲間たちとの史料調査の様子
現地調査の過程で未知の古文書を「発見」し、その写真撮影を行っています。

教科書を捨ててフィールドに出よう! そこにはまだ見ぬ「宝」の山が!

早稲田大学の受験に向けて頑張っている皆さんにこのように呼びかけるのはいささか酷ですが、大学に入って、「学問」や「研究」の世界に入る第一歩は、まずは教科書から自由になることです。私は入学したての1年生によくこう呼びかけます。「まずこの前まで使っていた教科書と用語集を捨てましょう。大学での学問はそこから始まります」と。皆さん、初めはきょとんとして聞いています。それもそうでしょう。これまで受験のバイブルとして疑わなかった教科書と用語集を捨ててしまったら、何を頼りに勉強していったらいいのか、不安になる気持ちも分かります。でもそこは大丈夫、地理歴史専修には、皆さんの不安を全力で支えてくれる先生方がたくさんいます。

そして次には教室を出て、フィールドに出ましょう。但し、この場合のフィールドは、最初は博物館や美術館、あるいはもっと手っ取り早く図書館でもいいでしょう。そこには教科書よりはよほど頼りになる書物や、皆さんの興味や関心をかき立てる様々なモノ(展示品)がたくさんあります。そこを中継地点にして、さらにその「外」の世界へと足を踏み出してみましょう。できればたくさんの仲間を誘って、その仲間たちと見聞きしたことについてあれこれ話し合いながら、興味の赴くままに世界を広げていくとよいと思います。そこにはまだ私たちが知らない「歴史」がたくさんあり、仲間たちと話し合うことでさらに自分の視野が広がっていくはずです。 

地元の方たちとの現地調査(フィールドワーク)の様子
この時は、中世に構築された灌漑用水路とその水源を「探索」しました。

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