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【本庄早稲田の杜ミュージアム】オセアニア民族造形美術品展-高地・山岳地帯の極彩色豊かな精霊と文化-

開催にあたって

早稲田大学は、2010年度に埼玉県鶴ヶ島市より、「オセアニア民族造形美術品」1089点の寄贈を受けました。いずれも学術的価値の高い資料であり、日本では数少ない現地資料です。高橋龍三郎教授を中心とする早稲田大学考古学研究室は、パプアニューギニアの現地調査を2002年8月から開始し、コロナ禍などで中断されるまで、毎年1回の調査を継続してきました。この地では、親族組織にもとづいた系譜概念と帰属意識が部族社会を支えており、様々な祭祀と儀礼、魔術や呪術に彩られています。不可思議な踊りや奇想天外のコスチュームが織りなす独特の世界は、現代文明ではすでに失われた太古の世界を彷彿させます。今回の展覧会では、ニューギニア島セピック川の内陸部から山岳地帯に住むアベラム族とアラぺシュ族、そして中央山岳部ハイランド地域に住む「マッドマン」として知られるキミニビ族などを中心に、現地調査の写真とともにかれらの精霊と文化について展示します。

本展の解説

ハイランド地方

(有)PNGジャパン提供

ハイランド地方は、ニューギニア島の中央山岳部に位置しています。穏やかな気候のため人口密度が高く、約160万人が生活しています。中央山脈には標高4000mを超える急峻な山々が連なり、パプアニューギニアの最高峰、ウェルヘルム山(4509m)がそびえます。高地部や山間部、渓谷部など多様な地形と、季節的な降雨により肥沃な土壌が分布しています。高地部の森林には、植物や動物が豊富にあるため、ハイランド地方の人々は、1000年以上農耕を伴わない狩猟採集生活を行ってきました。今日では、人口増加や定住化に伴って、サツマイモ栽培や家畜の飼養をとり入れた生活を営んでいます。彼らにとって、ブタは最も価値のある食物であると同時に、特別な意味を持つ動物であります。ブタは、豊かさや権力の象徴という意味のほか、社会関係を構築・維持するための機能をもち、祭りや儀礼の場での共食や、戦略的な贈与・交換、婚資(花嫁の親族に贈る財)など様々な目的のために大切に飼育されています。また、部族同士の同盟関係の維持や争いの補償にも用いられています。

ハイランドの人々は、異族間の婚姻や同盟関係の維持により、争いを回避していますが、部族間の衝突はときに戦闘へと発展することがあります。戦闘の作法は、事前の打ち合わせの後に行われるもの、襲撃によって突然勃発するものなど多様です。人々は、装飾された槍や斧、盾や弓矢を用いて戦い、断続的に数ヶ月間にも及ぶことがあります。

戦闘時に男性が携帯する武具は、槍や弓矢、棍棒、骨製の短剣などの武器、そして盾です。なかでも槍と盾という組み合わせが一般的でした。槍は手にもって使用し、投槍器を併用し投槍として使用されました。短剣は接近戦闘用の武器で、会戦よりも待ち伏せや奇襲の際に効力を発揮します。これらの武器の素材には、ヤシなどの堅い木や竹、アシなどを用いています。槍先としては、黒曜石を打ち欠いて製作した石器を利用し、矢先として竹製の刃やヒクイドリの骨を利用しています。

盾は、装飾性が高い点に特徴があり、施文や彩色によって祖先の霊や精霊が表現され、それにより戦闘時に持ち手は霊の守護を得ると考えられていました。敵に対しては恐怖心を抱かせ、威嚇する効果があるため、盾は持ち手の身体を守る防具であると同時に、敵を間接的に攻撃する武器になりました。

戦闘用盾の製作は、高木の根板を用い、その造形は長い年月をかけて培われた部族の象徴で、敵が認識しやすい形状をしています。自分で使用する盾は自分で作ることが原則で、同一の彫刻物は許されませんでした。部族として共通規範のもと、自らのアイデンティティーを表現し、独創性が求められました。

マッドマン

ウェルヘルム山南麓のアサロ渓谷に住むキミニビ族は、いわゆる「マッドマン」として知られています。パプアニューギニアを代表する部族の一つです。体に灰色の粘土を塗り、泥の仮面をかぶった「マッドマン」の姿は、かつて祖先が敵を追い払うために扮した霊の姿であると言われています。彼らはもともと争いに弱く、敵から逃げる際に泥沼に落ちて這い上がってきたキミニビ族の姿を、敵が亡霊と勘違いして逃げていったのが「マッドマン」の由来とされています。マスクは、表情によって年長者や若者が表現されており、重いものでは10kgを超えます。相手に脅威を与える必要から、鼻にはブタの牙、口には人間の歯が用いられるなど、様々な工夫が凝らされています。

アベラム族とアラペシュ族

精霊の仮面「ングワル」

アベラム族とアラペシュ族は、セピック川北側の内陸部から山岳地域に住んでいます。アベラム族は、プリンスアレクサンダー山脈の南麓であるマプリック山地周辺に住み、人口は4万人を超えます。アラペシュ族は、山脈の北西に居住し、地域によって複数の言語に分かれています。

アベラム族の民族芸術は、古くからセピック芸術の代表格の一つで、鶴ヶ島市から寄贈を受けた資料のなかでも、約200点と最も多いです。特に、精霊の家に安置される精霊像などは、色彩豊かで独創性にとんだ彫刻が特徴的です。アベラム族のテリトリー最南端に位置するジャマ村では、1970年代に最後の通過儀礼がおこなわれたのち、精霊の家は衰退の一途をたどり、現在では全くみられなくなりました。そのため、精霊の家にかかわる資料は、世界的にみても貴重なコレクションとなっています。

アベラム族のなかで最もよく描かれる精霊は「ングワル(ングワルンドゥ)」と呼ばれ、この世をつかさどる創造主であり、同時に破壊者であると信じられています。また、クラン(氏族集団)の繁栄を願う男性の精霊でもあります。人々は創造の恩恵を受け、恐ろしい破壊から生活を守るため、「ングワル」を様々な儀式で祭り、供養します。若者の通過儀礼でも用いられ、精霊の家の正面や内部には、「ングワル」を描いた精霊像や多産を象徴するまぐさ飾り、樹皮絵画、仮面などがびっしりと隙間なく並べられています。アベラムの精霊の家は、あくまでも精霊の住む神聖なところ、精霊堂と位置付けられています。精霊の力は、人々の健康や成功から、ブタの成長、作物の豊穣まで広く及んでいます。また、アベラム族は鳥を重要なトーテムとしており、精霊像には、サイチョウをはじめオウムやカソワリなど、各クランのトーテムが表現されています。

ヤムイモの儀礼

アベラム族やアラペシュ族において、ヤムイモは儀礼と直接関連がある重要な農作物です。セピック川流域では、ヤムイモが十分に生育するための乾季が短く、ヤムイモを育てるために苦心してきました。そのため、アベラム族は、土地の性質に合わせて100種類以上のヤムイモを改良・栽培しました。「ワピ」という品種は、長さ3mを超えます。

ヤムイモは儀礼的交換に用いられるため、男たちは毎年、威信をかけてヤムイモの栽培に励みます。収穫儀礼では、自分が育てたヤムイモに仮面や様々な装飾を施し、あたかも精霊が宿っているように仕上げて展示します。儀礼のあと、男性は特定のパートナーと競争的交換をおこないます。大きなヤムイモを育てた者は周囲から高く評価され、人々の名声を得ることができます。それゆえ、相手よりも大きなヤムイモを贈ることは、相手よりも優位に立つことを意味していました。

樹皮絵画

樹皮絵画は、ヤシの仏炎苞(根元付近の幅が広くなっている部分)を伸ばして、乾燥させたものに泥絵の具で彩色したものです。アベラム族、クウォマ族やカンボット族などにみられ、精霊の家の屋内の壁、屋根裏などに隙間なく貼り付けられています。

アベラム族とカンボット族の樹皮絵画は特に有名で、精霊の家の内面のみならず、正面の破風全体に樹皮絵画が飾られています。これら樹皮絵画は、一枚で完結するものではなく、天井や壁面など全体がキャンパスと見立てられ、精霊やトーテムが様々な表現方法で描かれています。

カンボット村の精霊堂は、1980年代火事で焼失してから再建されていません。カンボット村のこの樹皮絵画は、焼失した精霊堂の前の精霊堂に飾られていました。中央の両手をあげて蹲踞する女性の精霊像は、脳・手足の筋肉・骨・関節などがレントゲン画法で透けて表現されています。画面の右上の同心円状のものは神話の中の太陽神を表し、左は端には蛇の首とオウムの頭をした精霊を表現しています。精霊の家は、神話に伝わる女性の始祖精霊の胎内とみなされており、青年男子はその中で通過儀礼を受けることで、一人前の男として生まれ変わるのです。

通過儀礼

ババと呼ばれる被り面は、通過儀礼やヤムイモの収穫儀礼などに広く使われます。ババは、死の世界と現生とを仲介する別の世界の精霊です。通過儀礼では、屈強な男が仮面を被り、体を覆うマントのような蓑を着てババを演じ、神話の世界が再現された精霊の家の中で、若者たちに時間や空間を超越した精霊の世界を体験させます。勇気を象徴する槍で武装したババのいけにえにならないために、恐怖と放心状態から抜け出し、自らを現実の世界に脱しなければなりません。若者は、儀礼を通して、精霊に畏敬と恐怖を抱き、精霊との一体感を感じるようになります。

本展示では、所蔵資料の中でも、極彩色豊かな高地・山岳地帯の精霊と文化をとりあげ、狩猟採集社会が生み出す芸術とオセアニア民族造形美術品の世界を堪能いただきます。

(早稲田大学考古資料館 馬場匡浩・井上裕一)

参考文献

高橋龍三郎 中門亮太 平原信崇ほか『埼玉県鶴ヶ島市寄贈 オセアニア民族造形美術品展』2011年11月 早稲田大学會津八一記念博物館
木村重信 大橋昭夫 小林 眞 山口昌男ほか『ニューギニア 神と精霊のかたち』埼玉県鶴ヶ島市教育委員会 編 里文出版 2000年9月

オセアニア民族造形美術品展
-高地・山岳地帯の極彩色豊かな精霊と文化-

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会期

2022年6月14日(火)~9月25日(日) 9:00~16:30
休館日:月曜日(休日の場合は翌日)
新型コロナウイルス感染症への感染対策にご理解とご協力をお願いいたします。状況により入場をお待ちいただく場合があります。

場所

本庄早稲田の杜ミュージアム
早稲田大学展示室(早稲田リサーチパーク・コミュニケーションセンター1階)

〒367-0035 埼玉県本庄市西富田1011
早稲田リサーチパーク・コミュニケーションセンター(早稲田大学93号館)1F

料金

無料(事前予約不要)

主催・協力

<主催>早稲田大学文化企画課考古資料館
<協力>早稲田大学考古学研究室、(有)PNGジャパン

問い合わせ

本庄早稲田の杜ミュージアム
E-mail:[email protected]
TEL:0495—71—6878

 

本展覧会は、寄付者の皆様から「早稲田文化募金」を通じご支援を受けています。
https://kifu.waseda.jp/contribution/w_culture

本庄早稲田の杜ミュージアム

公式Webページは、こちら
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